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第4章 聖王都エルフェル・ブルグ
76話 召喚の理由【前編】
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「おや。君はサディエル君の旅仲間かな?」
白々しい。
本気で白々しいよ、この人。
サディエルとアークさんから見えないようにしつつ、『もうちょい黙ってろ?』みたいな顔してもダメだからな!
「ヒロト君、どうしたんだ? 彼はおれらの故郷に昔住んでいたカインさんだ。幼馴染とはちょっと違うけど、近所のお兄さんって感じだな」
「………」
アークさんの言葉に、サディエルはうんうんと頷く。
解説どうも、じゃなくて!
ちょっと待ってこの魔王様、暇か、暇なのか、暇なんだな!?
「ついでに、サディが小さな親切、大きなお世話で大迷惑をかけた相手でもある」
「……………」
黒歴史を暴露され、サディエルは苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべた。
あー、いつだったか言ってた、痛い目見たからもう落ち着いただろ、とか、滾々と説教してくれたのは誰だー、とか言ってたあれか。
……魔王に小さな親切、大きなお世話をやらかしたサディエル、か。
正体知らないのを差し引いても、結構やらかしてるよね、それ。
というか……
『ん? あぁ、悪い悪い。確かにそうだ。と言うか、本当に無茶するな君は、反省したんじゃなかったのかよ!?』
このセリフの意味が分かってしまって、頭が痛い。
魔王カイレスティンが言っていたのって、その事かよ。知りたくなかった。
「しっかし驚いたよ。怪我したんだって? 大丈夫かい」
「………!」
若旦那バージョンの魔王カイレスティンに問われて、サディエルは慌てて筆談の為に、ノートに何かを書き込んでいる。
オレはどうしようもなく、アルムとリレルに助けを求める視線を向けるものの、あちらも状況が状況なだけに、どう2人に説明して納得して貰うか、決めあぐねている模様。
書き込みを終えたのか、ノートを彼らに見せて交流をしている姿は、昔馴染みと再会したソレ。
あーもー、こういう場合はどうすりゃいいんだよ。
―――コンコンコン
そこに、再びドアがノックされる。
今度は誰ですかね!?
「……はい?」
『失礼、バークライスだ。少し良いかな』
どんどん、部屋の密度が濃くなっていく。
オレはもう色々思考が停止してしまっていたので、何も考えず、無言でドアを開ける。
「失礼するよ。おや、アークシェイドも来て………は?」
病室に入ってきたバークライスさんは、まずアークさんの姿を確認し、そしてそのまま若い夫婦に目をやり、唖然とする。
再確認と言わんばかりに、サディエルとアークさん、若い夫婦と交互に見て……
「アークシェイド、その方々は?」
「こんにちわ、バークライスさん。彼らは、おれらの故郷に一時期住んでいたカインさんと、奥さんのミリィさんで……」
「―――そいつら、魔王とその妃だぞ!」
あ、バークライスさんは流石に気づいていた。
ようやく事態が動きそうなのを見て、アルムとリレルは、ホッと安堵のため息をついてるし。
オレも同意見だけどな。
「え?」
「……??」
サディエルとアークさんは互いの顔を見て、目をぱちくりさせる。
「えっと、ご冗談……」
「なわけないだろう! カイレスティンに、ミルフェリア! 貴様らもいい加減にしろ!」
「いい加減にしろって酷いなぁ。俺は単純に昔馴染みのサディエル君を心配して来ただけだよ? それと」
魔王カイレスティンは、右手をサディエルの目の前に突き出す。
それを見た瞬間、アルムとリレルがそれぞれ武器を構えようとしたが、その前に光がサディエルを包み込んだ。
「……今の?……あれ、声……」
光が納まると同時に、サディエルの声が聞こえた。
それを聞いてオレたちは驚き目を見開き、その一方で魔王カイレスティンは満足気である。
「よしっ、と。今回滅した奴が施した分と、逃げた奴が施した分の一部は解除した。悪いなバークライス、痣は研究させてやるが、全部はまだダメなんだ」
「この腹黒。そっちの失態ならば、そのままこちらで研究させろ」
「い、や、だ、ね! 誕生させたばかりの魔族の件もそうだけど、向う数百年はバラす予定がなかったことを、ここまで椀飯振舞してあげているんだ。感謝して欲しいぐらいだよ」
小憎たらしい、とはよく言ったもんである。
相手を挑発するかのように、癪に障るような口調で、魔王カイレスティンはバークライスさんにそう宣言した。
びきりっ、と彼の額に青筋が浮かんだのは、きっと気のせいじゃないのだろう。
「えーっと、カイン君? カインさん? それとも、魔王カイレスティン?」
「カイン君で良いって言っているだろー、ヒロト兄ちゃん」
そう言うと、魔王カイレスティンは通常の魔王モード……ただし、先ほどの明らかに魔王様な服装ではなく、私服モードに姿を変える、いや、戻した。
それを見て、サディエルは『ああぁ!?』っと叫び声を上げる。
「ヒロトと一緒に来ていた、魔王!?」
「そうだよ、こっちが本来の姿。んで、サディエル君。"本当に無茶するな君は、反省したんじゃなかったのかよ"」
そう言いながら、サディエルの頭をガシガシと撫でまわす。
一方のサディエルは、ポカーンと呆気にとられた顔をして、撫でられるがままである。
「……うっそだろ」
「マジかよ……」
幼馴染コンビ、あまりの展開に思考停止に入りました。
言いたいことは分かるし、そう言う反応したくもなるよな。
「俺がこの病室に来たのは、事情説明と、サディエル君の痣の効果を一部解除する為だ。色々途中になっていたからな」
そう言いながら、魔王カイレスティンはパチンッ、と指を鳴らす。
途端、何か空間が遮られたような、何かが変わった感覚がしたけど……具体的に何が変わったのかは分からない。
「……結界か」
ただ、バークライスさんは何をしたか分かったらしい。
彼は魔王カイレスティンを睨みながら、そう問いかける。
「防音のね。あんまり、聞かれたくない話題だし、このメンバーだけに留めておいて欲しいからさ」
「我々が、はいそうですか。と、素直に納得すると?」
「納得しないなら、全員殺すまでさ」
ぞくりっ、と寒気がする。
スッ、と目を細めてそう宣言した魔王カイレスティンに、凄まじい恐怖を覚えた。
今まで感じたことがなかったけど、こういうのが本当の殺気ってやつのかな……怖すぎる。
「ミルフェリア、皆さんに飲み物を」
「承知しました。お茶請けは、アップルパイで良いかしら?」
「そのつもりで持って来たんだ、頼むよ。立ち話もなんだ、サディエル君はベッドのままでいいけど、他のみんなは椅子に座りなよ」
副音声で、これは強制である、とか言われている気がする。
いやまぁ、多分実際にそうなんだろうけど。
「……全員、座りなさい」
バークライスさんも、これ以上の反論を諦めたのか、オレたちに座るように指示を出す。
オレはサディエルの近くにある椅子に、その隣にアルムとリレルも続く。
アークさんはサディエルの居るベッドに腰掛け、バークライスさんは魔王カイレスティンに対峙するように座った。
「説明してもらうぞ」
「もちろんだよ。さってと、まずはどこから……さっきはアークシェイド君はいなかったわけだし」
ミリィちゃんこと、ミルフェリアさんが順番にお茶を配っていく。
その間に、魔王カイレスティンは何処からがいいかと、色々と思案している。
「うん、最初からにしよう。まず、今回の発端についてだな」
========================
―――事の発端、それは、3か月ほど前まで遡る。
3か月前とはつまり、オレがこの世界に召喚された瞬間のことだ。
「あの洞窟遺跡の魔法陣は、死者蘇生の為に作られたモノなわけだが……わずかばかり術式に差異があり、異界から人間を召喚する効果を持っていたんだ。もっと正確に言うならば、召喚した人間に不老不死の効果を付与する、というモノだけど」
「不老不死……って、え!? まさか……」
「不老不死の心配は不要だ。俺がその部分だけを消去していたから」
それを聞いて、オレは安堵のため息を吐く。
いや、普通、不老不死って聞けば驚くし、もしかしたら喜ぶかもしれないけど、いきなりそんなこと聞かされたら、さすがにそれ以前の話だって。心の準備ぐらいさせて欲しい。
「どうやら、死者蘇生の効果が微妙に狂ったみたいでね。本来なら、死者を黄泉から連れ戻し蘇生するはずが、呼び出す先が異世界になり、蘇生効果が不老不死になったんだ。この効果は間違いない、俺の実体験だからな」
「と言う事は、カイン君……いや、魔王様は正確には魔族じゃなく……」
「人間だよ、生物学上はね」
不老不死なだけの、って言い方は変だけど、魔族じゃなくて人間……か。
「俺の身の上話は今は本筋とは違う、話を戻そう。その魔法陣が再び発動したことを察知し、調査の為に、俺とミルフェリアは洞窟遺跡から最も近い街へと足を運んだ。恐らくそこに、異界から来た人物が来ると思ってね」
「それが……オレ、ですね」
その言葉を聞いて、アークさんは驚きの表情でオレを見る。
バークライスさんは、先の騒動でチラッと聞いていたから、表情はさほどだが、改めて明言されたせいか、難しい顔をしていた。
「ヒロト君が、異世界の人間?」
「悪いアーク、実はそうなんだ。説明するのも難しかったから、この件は黙っていたんだ」
「……サディが仮にそう言ったとしても、信じたかは五分五分だな。悪い、話を続けてくれ」
アークさんの言葉に、魔王カイレスティンは頷き言葉を続ける。
「調べたかったことは3点だ」
1つ目、オレに不老不死の効果が付与されていないか。
2つ目、オレが異世界に対してどれぐらい対応力があるか。
3つ目、魔王、ひいては、魔族と敵対する意思があるか。
「1つ目は、ヒロト兄ちゃんに直接触ってすぐに分かった。魔法陣を調整した通り、不老不死の効果は消えていて、その代わりに追加しておいた、言語理解の能力が付与されていた」
「あ、この世界の言葉を理解出来たのって、やっぱりそういうことだったんだ……」
言葉だけじゃなくて、文字を理解する能力も付与して欲しかったよ。
それでどれだけ苦労させられたと思っているんだ。
「2つ目の件は、あの街での避難訓練や、部下を使っての魔物の襲撃でおおよそ理解した。こういう場合、何かしら追加で特殊な能力持ってないかって、ひやひやしていたけど……異世界に対する偏った知識だけで助かった」
偏ったとか言わないで欲しいんだけど!
あれか、夢見すぎって言いたいのか、素っ頓狂って言いたいのか、頓珍漢って言いたいのか!?
もうサディエルたちから散々言われてきたから、何言われてもオレは平気だからな!
……嘘です、ごめんなさい、精神ダメージあるのでやめてください。
「3つ目に関して、これはサディエル君に感謝しているよ」
「俺に?」
急に話を振られて、サディエルは首を傾げる。
その問いかけに、魔王カイレスティンは頷く。
「あぁ。俺やヒロト兄ちゃんの世界ではね、存在しないはずなのに、魔王とか魔族って結構な確率で絶対悪な立ち位置なんだ。魔族って宣言しただけで『よし、殺せ』的な」
「最近は、一概にそうじゃないけどね」
「おろ、トレンドが変わっているのか。まぁその辺りはいいや。とにかく、君がヒロト兄ちゃんを、そんなことよりも元の世界に戻ることに重点を置いて導いてくれたお陰で、いらない襲撃をしなくて済んだ」
そう考えると、だいぶ危なかったんだな、オレ……
サディエルたちが、下手に魔族や魔王の話題を振らずに、まずは生き残る事、帰る事を重点で話してくれたことが、結果として功を奏していたなんて。
本当に、何が幸いするか分からないもんだ。
「ちょっと待て、それだと古代遺跡の件に説明がつかない。何故、サディエルは狙われた」
右手を挙げながら、アルムはその点を突く。
うん、そこだ。今、オレたちの中で謎なのは、何でサディエルが結果的に狙われたかだ。
「さっき彼に触って確信した。それは、ヒロト兄ちゃんとサディエル君が、『縁ある者』……これは俺が命名した言葉なんだが、要は "同じ魂を持つ人間同士" だからだ」
白々しい。
本気で白々しいよ、この人。
サディエルとアークさんから見えないようにしつつ、『もうちょい黙ってろ?』みたいな顔してもダメだからな!
「ヒロト君、どうしたんだ? 彼はおれらの故郷に昔住んでいたカインさんだ。幼馴染とはちょっと違うけど、近所のお兄さんって感じだな」
「………」
アークさんの言葉に、サディエルはうんうんと頷く。
解説どうも、じゃなくて!
ちょっと待ってこの魔王様、暇か、暇なのか、暇なんだな!?
「ついでに、サディが小さな親切、大きなお世話で大迷惑をかけた相手でもある」
「……………」
黒歴史を暴露され、サディエルは苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべた。
あー、いつだったか言ってた、痛い目見たからもう落ち着いただろ、とか、滾々と説教してくれたのは誰だー、とか言ってたあれか。
……魔王に小さな親切、大きなお世話をやらかしたサディエル、か。
正体知らないのを差し引いても、結構やらかしてるよね、それ。
というか……
『ん? あぁ、悪い悪い。確かにそうだ。と言うか、本当に無茶するな君は、反省したんじゃなかったのかよ!?』
このセリフの意味が分かってしまって、頭が痛い。
魔王カイレスティンが言っていたのって、その事かよ。知りたくなかった。
「しっかし驚いたよ。怪我したんだって? 大丈夫かい」
「………!」
若旦那バージョンの魔王カイレスティンに問われて、サディエルは慌てて筆談の為に、ノートに何かを書き込んでいる。
オレはどうしようもなく、アルムとリレルに助けを求める視線を向けるものの、あちらも状況が状況なだけに、どう2人に説明して納得して貰うか、決めあぐねている模様。
書き込みを終えたのか、ノートを彼らに見せて交流をしている姿は、昔馴染みと再会したソレ。
あーもー、こういう場合はどうすりゃいいんだよ。
―――コンコンコン
そこに、再びドアがノックされる。
今度は誰ですかね!?
「……はい?」
『失礼、バークライスだ。少し良いかな』
どんどん、部屋の密度が濃くなっていく。
オレはもう色々思考が停止してしまっていたので、何も考えず、無言でドアを開ける。
「失礼するよ。おや、アークシェイドも来て………は?」
病室に入ってきたバークライスさんは、まずアークさんの姿を確認し、そしてそのまま若い夫婦に目をやり、唖然とする。
再確認と言わんばかりに、サディエルとアークさん、若い夫婦と交互に見て……
「アークシェイド、その方々は?」
「こんにちわ、バークライスさん。彼らは、おれらの故郷に一時期住んでいたカインさんと、奥さんのミリィさんで……」
「―――そいつら、魔王とその妃だぞ!」
あ、バークライスさんは流石に気づいていた。
ようやく事態が動きそうなのを見て、アルムとリレルは、ホッと安堵のため息をついてるし。
オレも同意見だけどな。
「え?」
「……??」
サディエルとアークさんは互いの顔を見て、目をぱちくりさせる。
「えっと、ご冗談……」
「なわけないだろう! カイレスティンに、ミルフェリア! 貴様らもいい加減にしろ!」
「いい加減にしろって酷いなぁ。俺は単純に昔馴染みのサディエル君を心配して来ただけだよ? それと」
魔王カイレスティンは、右手をサディエルの目の前に突き出す。
それを見た瞬間、アルムとリレルがそれぞれ武器を構えようとしたが、その前に光がサディエルを包み込んだ。
「……今の?……あれ、声……」
光が納まると同時に、サディエルの声が聞こえた。
それを聞いてオレたちは驚き目を見開き、その一方で魔王カイレスティンは満足気である。
「よしっ、と。今回滅した奴が施した分と、逃げた奴が施した分の一部は解除した。悪いなバークライス、痣は研究させてやるが、全部はまだダメなんだ」
「この腹黒。そっちの失態ならば、そのままこちらで研究させろ」
「い、や、だ、ね! 誕生させたばかりの魔族の件もそうだけど、向う数百年はバラす予定がなかったことを、ここまで椀飯振舞してあげているんだ。感謝して欲しいぐらいだよ」
小憎たらしい、とはよく言ったもんである。
相手を挑発するかのように、癪に障るような口調で、魔王カイレスティンはバークライスさんにそう宣言した。
びきりっ、と彼の額に青筋が浮かんだのは、きっと気のせいじゃないのだろう。
「えーっと、カイン君? カインさん? それとも、魔王カイレスティン?」
「カイン君で良いって言っているだろー、ヒロト兄ちゃん」
そう言うと、魔王カイレスティンは通常の魔王モード……ただし、先ほどの明らかに魔王様な服装ではなく、私服モードに姿を変える、いや、戻した。
それを見て、サディエルは『ああぁ!?』っと叫び声を上げる。
「ヒロトと一緒に来ていた、魔王!?」
「そうだよ、こっちが本来の姿。んで、サディエル君。"本当に無茶するな君は、反省したんじゃなかったのかよ"」
そう言いながら、サディエルの頭をガシガシと撫でまわす。
一方のサディエルは、ポカーンと呆気にとられた顔をして、撫でられるがままである。
「……うっそだろ」
「マジかよ……」
幼馴染コンビ、あまりの展開に思考停止に入りました。
言いたいことは分かるし、そう言う反応したくもなるよな。
「俺がこの病室に来たのは、事情説明と、サディエル君の痣の効果を一部解除する為だ。色々途中になっていたからな」
そう言いながら、魔王カイレスティンはパチンッ、と指を鳴らす。
途端、何か空間が遮られたような、何かが変わった感覚がしたけど……具体的に何が変わったのかは分からない。
「……結界か」
ただ、バークライスさんは何をしたか分かったらしい。
彼は魔王カイレスティンを睨みながら、そう問いかける。
「防音のね。あんまり、聞かれたくない話題だし、このメンバーだけに留めておいて欲しいからさ」
「我々が、はいそうですか。と、素直に納得すると?」
「納得しないなら、全員殺すまでさ」
ぞくりっ、と寒気がする。
スッ、と目を細めてそう宣言した魔王カイレスティンに、凄まじい恐怖を覚えた。
今まで感じたことがなかったけど、こういうのが本当の殺気ってやつのかな……怖すぎる。
「ミルフェリア、皆さんに飲み物を」
「承知しました。お茶請けは、アップルパイで良いかしら?」
「そのつもりで持って来たんだ、頼むよ。立ち話もなんだ、サディエル君はベッドのままでいいけど、他のみんなは椅子に座りなよ」
副音声で、これは強制である、とか言われている気がする。
いやまぁ、多分実際にそうなんだろうけど。
「……全員、座りなさい」
バークライスさんも、これ以上の反論を諦めたのか、オレたちに座るように指示を出す。
オレはサディエルの近くにある椅子に、その隣にアルムとリレルも続く。
アークさんはサディエルの居るベッドに腰掛け、バークライスさんは魔王カイレスティンに対峙するように座った。
「説明してもらうぞ」
「もちろんだよ。さってと、まずはどこから……さっきはアークシェイド君はいなかったわけだし」
ミリィちゃんこと、ミルフェリアさんが順番にお茶を配っていく。
その間に、魔王カイレスティンは何処からがいいかと、色々と思案している。
「うん、最初からにしよう。まず、今回の発端についてだな」
========================
―――事の発端、それは、3か月ほど前まで遡る。
3か月前とはつまり、オレがこの世界に召喚された瞬間のことだ。
「あの洞窟遺跡の魔法陣は、死者蘇生の為に作られたモノなわけだが……わずかばかり術式に差異があり、異界から人間を召喚する効果を持っていたんだ。もっと正確に言うならば、召喚した人間に不老不死の効果を付与する、というモノだけど」
「不老不死……って、え!? まさか……」
「不老不死の心配は不要だ。俺がその部分だけを消去していたから」
それを聞いて、オレは安堵のため息を吐く。
いや、普通、不老不死って聞けば驚くし、もしかしたら喜ぶかもしれないけど、いきなりそんなこと聞かされたら、さすがにそれ以前の話だって。心の準備ぐらいさせて欲しい。
「どうやら、死者蘇生の効果が微妙に狂ったみたいでね。本来なら、死者を黄泉から連れ戻し蘇生するはずが、呼び出す先が異世界になり、蘇生効果が不老不死になったんだ。この効果は間違いない、俺の実体験だからな」
「と言う事は、カイン君……いや、魔王様は正確には魔族じゃなく……」
「人間だよ、生物学上はね」
不老不死なだけの、って言い方は変だけど、魔族じゃなくて人間……か。
「俺の身の上話は今は本筋とは違う、話を戻そう。その魔法陣が再び発動したことを察知し、調査の為に、俺とミルフェリアは洞窟遺跡から最も近い街へと足を運んだ。恐らくそこに、異界から来た人物が来ると思ってね」
「それが……オレ、ですね」
その言葉を聞いて、アークさんは驚きの表情でオレを見る。
バークライスさんは、先の騒動でチラッと聞いていたから、表情はさほどだが、改めて明言されたせいか、難しい顔をしていた。
「ヒロト君が、異世界の人間?」
「悪いアーク、実はそうなんだ。説明するのも難しかったから、この件は黙っていたんだ」
「……サディが仮にそう言ったとしても、信じたかは五分五分だな。悪い、話を続けてくれ」
アークさんの言葉に、魔王カイレスティンは頷き言葉を続ける。
「調べたかったことは3点だ」
1つ目、オレに不老不死の効果が付与されていないか。
2つ目、オレが異世界に対してどれぐらい対応力があるか。
3つ目、魔王、ひいては、魔族と敵対する意思があるか。
「1つ目は、ヒロト兄ちゃんに直接触ってすぐに分かった。魔法陣を調整した通り、不老不死の効果は消えていて、その代わりに追加しておいた、言語理解の能力が付与されていた」
「あ、この世界の言葉を理解出来たのって、やっぱりそういうことだったんだ……」
言葉だけじゃなくて、文字を理解する能力も付与して欲しかったよ。
それでどれだけ苦労させられたと思っているんだ。
「2つ目の件は、あの街での避難訓練や、部下を使っての魔物の襲撃でおおよそ理解した。こういう場合、何かしら追加で特殊な能力持ってないかって、ひやひやしていたけど……異世界に対する偏った知識だけで助かった」
偏ったとか言わないで欲しいんだけど!
あれか、夢見すぎって言いたいのか、素っ頓狂って言いたいのか、頓珍漢って言いたいのか!?
もうサディエルたちから散々言われてきたから、何言われてもオレは平気だからな!
……嘘です、ごめんなさい、精神ダメージあるのでやめてください。
「3つ目に関して、これはサディエル君に感謝しているよ」
「俺に?」
急に話を振られて、サディエルは首を傾げる。
その問いかけに、魔王カイレスティンは頷く。
「あぁ。俺やヒロト兄ちゃんの世界ではね、存在しないはずなのに、魔王とか魔族って結構な確率で絶対悪な立ち位置なんだ。魔族って宣言しただけで『よし、殺せ』的な」
「最近は、一概にそうじゃないけどね」
「おろ、トレンドが変わっているのか。まぁその辺りはいいや。とにかく、君がヒロト兄ちゃんを、そんなことよりも元の世界に戻ることに重点を置いて導いてくれたお陰で、いらない襲撃をしなくて済んだ」
そう考えると、だいぶ危なかったんだな、オレ……
サディエルたちが、下手に魔族や魔王の話題を振らずに、まずは生き残る事、帰る事を重点で話してくれたことが、結果として功を奏していたなんて。
本当に、何が幸いするか分からないもんだ。
「ちょっと待て、それだと古代遺跡の件に説明がつかない。何故、サディエルは狙われた」
右手を挙げながら、アルムはその点を突く。
うん、そこだ。今、オレたちの中で謎なのは、何でサディエルが結果的に狙われたかだ。
「さっき彼に触って確信した。それは、ヒロト兄ちゃんとサディエル君が、『縁ある者』……これは俺が命名した言葉なんだが、要は "同じ魂を持つ人間同士" だからだ」
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召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
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