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第4章 聖王都エルフェル・ブルグ

67話 現状と謎の考察

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 ―――エルフェル・ブルグ、滞在2日目

「……いっちに、さんしー」

 早朝、クレインさんのお屋敷にある、広い中庭。
 オレはそこで準備運動をしていた。

 アルムからは、起きるのは何時でも良い、とは言われていたものの……ほら、オレ、昨日は夕方まで意識吹っ飛ばしてダウンしていたわけだし。
 思ったよりも疲労は溜まっておらず、いつも通りに目が覚めてしまったのだ。
 アルムとリレルは流石に起きてくる気配が無かったので、部屋を出てすぐに見かけたフットマンの皆さんに、運動するなら何処がいいか、と尋ねてここに居る。

「にーに、さんし! さんにー、さんし……っと! よし、準備運動終わり!」

 最後にグイっと背伸びをして、準備完了。
 さてと、とりあえずチャレンジしてみるかな、3割ぐらいの力で全力疾走を10分間を。
 つま先を立てて、足首をゆっくりと回して、同時に両手を組んで手首も回す。

「まずは試走だな。昨日の病院に行くぐらいで、5分……いや4分ちょいってイメージで行こう」

 最初は競歩のように足を動かし、ゆっくりとスピードを上げていく。
 だいたい3割ぐらいかなって辺りでスピードを固定して、そのテンポを崩さないように走り続ける。

(うーん、もっとスピード上げたくなるよなぁ、こういう走りだと。だけど……最初の街で経験した避難訓練、あの時に比べれば断然早いペースだ)

 あの頃は、少し全力で走ったらすぐに足が重くなり、息も苦しくなった。
 だけど今は、あの時の3倍以上の時間をすでに走っているのに、そこまで疲労を感じていない。
 うん、順調だな! と、自画自賛している間に、目的の病院に辿り着く。

 オレはゆっくりとペースを落として、走るから競歩、競歩から歩きに移行しつつ、息を整えながら病院前まで行く。

「……さっすがに早い時間だし、面会は無理かな」

 昨日、レックスさんに引きずられて病院に戻ったサディエル。
 軽く体調は聞いたけど、まだ何か隠してないかって部分も気になるし、それに……

(ガランドが言っていた言葉も、気になるんだよな)

『嫌に決まっているだろう? コイツの"顔"はボクが貰う。こんなをみすみす見逃すわけがないだろ』

 あの時、ガランドはハッキリと『珍しい』と言った。
 ただ、オレたちの視点で見て、サディエルが特別珍しいとか、特殊な何かがある、って雰囲気はほぼ皆無である。

 アルムたちが居る時に話した方が良いのは分かるけど、やっぱりちょっと気になる。

「……よしっ」

 少しだけ迷ったけど、面会出来そうならサディエルと話していこう。
 そう決意して、オレは病院へと足を踏み入れた。
 さすがに早朝だけあって、夜勤担当と思われる看護婦さんたちが作業をしている以外は、静かな院内である。

 さってと、受付は確か……と、昨日の記憶を思い出しながら進もうとした時

「ヒロト?」

 両手に複数の飲み物が入った瓶を持ったサディエルが声を掛けて来た。

「あれ、サディエル。病室に居なくていいの?」
「喉が渇いて、病院食堂から飲み物を貰ってきた所だ。ヒロトこそ、こんな早朝にどうした」

 そう言いながら、彼は手に持っていた飲み物のうち、色合いから牛乳っぽいものを渡してくる。
 ありがたく受け取りながら、オレは彼の質問に答えた。

「朝の運動ついでに病院まで来て、サディエルと少し話そうかなって」
「俺が寝ている可能性は考えてなかったのかよ」
「ちょっとは考えたけど、オレと一緒で昨日は大半寝ていたから、案外起きてるんじゃないかなって」
「あっははは……大正解」

 サディエルは苦笑いしながら答える。
 やっぱり、オレと同じだったか。

「ここで話すのもなんだ。病室に行くか」
「りょーかい」

 サディエルは一度受付に行って、オレが来ていることを伝えて、面会許可を取る。
 一瞬、大丈夫なんだろうか……と、不安になったものの、問題なく下りたようだ。

 受付を終え、その足でサディエルが滞在している病室へ。

「お邪魔しまーす」
「はい、いらっしゃーい」

 そんな会話をしながら、オレたちは病室に入る。
 昨日は遅い時間だったのと、サディエルが心配だったからしっかり室内を見ていなかったけど、オレの世界の病室とさほど大差はなかった。
 違いがあるとすれば、テレビが無いこと、光源は電気じゃなくてランプである事ぐらいだろう。

 サディエルはベッドに腰掛け、オレは近くの椅子に座らせて貰った。

「それで? 話って」
「昨日の事で、1つ気になって。ガランドの件なんだけど」
「あいつの?」

 うげぇ、とサディエルは露骨に嫌そうな顔をする。
 うん、そういう反応をするよな。

「俺、昨日の一件であいつに対する拒絶反応が酷いんだけど……」
「何があったんだよ、あの戦闘中」

「めっちゃ精神攻撃喰らった。途中で言ってる言葉を理解したくなくて、意識飛ばしかけた」

 思い出しただけでも嫌すぎる、とサディエルの顔色が悪くなる。

「ぐ、具体的には……」
「聞かない方が良い、結構本気で。一言だけ言うなら、気持ち悪い」
「あ、ハイ」

 あれかな、こういう場合だと、お前の体を貰い、その魂も永遠に~……とか?
 それとも、オレらをどうやって殺すかって具体的な内容を羅列したとか? まず内臓抉ってそれから……とか、なにそのグロ注意。
 うわぁ、仮にそうだったとしたら気持ち悪いを通り越して、拒否反応待ったなしだ。

「というか悪い、話を脱線させた。気になったことって?」
「あー、そうだった。ガランドのヤツ、サディエルのことを、"珍しい"って」
「珍しい?」

 鸚鵡返しのように呟いて、サディエルは眉を顰める。

「珍しいって意味なら、俺よりもヒロトだろ。なんでまた」
「そこが分かれば苦労してないって。以前、アークさんも聞いていたけど、心当たりは無い?」
「あの時と変わらずだ」

 オレの問いかけに、彼は首を左右に振る。
 まぁ、そうなるよね。

「しかし、俺が珍しい、ねぇ……」

「実は両親が凄い人たちで、その息子でした! とか、実はこんな能力隠し持っていました! とか、あったりしない?」
「両親は小さな店を営むごくごくふっつーの家庭だし、特別な能力を隠し持っているなら、そもそも古代遺跡の一件で、ガランドをさくっと返り討ちにして、こんなややっこしい状況にしていない」
「だよなぁ」

 普通、こういう展開なら絶対にサディエルに何かしら特殊なものがあるはず……なんだけど、残念ながら当人も心当たり無しと来た。
 幼馴染であるアークさんですら『アレじゃないか?』って意見が出なかった時点で、期待薄過ぎる。
 やっぱ、オレの世界のテンプレは魔族には通用するけど、それ以外にはかすりもしないか。

 うーん、そうなると、さっぱり分からない。

 魔族に狙われるなんて、十中八九何かしらあるはずなんだけど。

「知らないうちに、魔族に喧嘩売ってしまったとか」
「時系列的に言うと、古代遺跡に行く前までって話になるから……直近だと、せいぜいスケルトン襲撃時に、その親玉デーモンを倒しに行った時ぐらいか」

 あー……そう言えば、最初の街で起こったスケルトン襲撃。
 その親玉がデーモンだ、って言ってたっけか。

「だけど、あの時は俺らだけじゃなくて、襲撃に備えた他の冒険者たちと一緒に行動していた。デーモンを倒したのだって、俺じゃなくて、別の奴だ」

「あれ、でも怪我はしていたよね、確か」
「中衛と後衛の討伐準備が出来るまで、前衛組で足止めしていた時にな。その後は、ヒロトも知っての通りだ」

 その怪我の応急処置せず、オレが心配で街に戻ってきて、そのまま助けてくれて。
 放置の結果から、破傷風の危険待ったなしで、アルムとリレルにガンガンに叱られた……あー、懐かしいなぁ、あの騒動。

 あれからもう半年ぐらい経ってそうな気分だけど、まだ3か月前のことなんだよな。

「はぁ……ガランドの奴が襲撃してくれば、多少情報が増えると思ったいたんだけどな。分かったことは俺が珍しいってこと、あいつが気持ち悪いことだけとは」
「おまけに、謎が増えただけっていうね」

 普通なら、もっと情報が出そうなのにさ。
 正直、魔族が相手だからテンプレ通りにぺちゃくちゃ喋ってくれることを、結構期待していた。

 ……謎、と言えば。

「それでちょっと思い出した。レックスさんと、アークさんなんだけど、オレを初めてみた時、サディエルの親族かって聞いてきたの、覚えている?」
「ん? あぁ、覚えている。勘違いだったみたいだけど」

「……本当に勘違い、なのかな」

「というと?」
「アルムの言葉を借りるなら、"こういう偶然っていうのは、3回も立て続けに起これば必然"……ってやつかな」

 まだ3回ってわけじゃない。
 だけど、少なくとも2人は、初対面のオレとサディエルが似ている、と思ったわけだ。

「特に、サディエルの同郷であり、幼馴染で元旅仲間でもあるアークさんが、勘違いするのかなって。確信があったから、そう言ったんだろうし」
「一理あるかな。ただ、それだとアルムやリレルはどうするんだ。アークたちと同じ反応していないとおかしくなる」
「……そこだよなぁ」

 うん、そこが問題なんだ。
 アークさんたちの反応を考えると、アルムとリレル、それからクレインさんからも同じ反応が無いとおかしいわけで。

「ダメだ、ヒントがありそうな気がするけど、振出しに戻った」
「仕方ないさ。焦っても答えは見つからない、ゆっくりやろう」
「はーい」

 オレはサディエルから貰った飲み物の蓋を開け、口に含む。
 色の通り牛乳だったらしく、始めは薄甘いような味覚が舌の上にひろがり、次に芳醇な香りが喉から鼻腔に抜けた。

(そう言えば、サディエルとこうやってがっつり喋ったの、久しぶりだよな……)

 最後にこうやって2人っきりで喋ったのは、いつだっけか。
 そう思い返してみると、だいぶ前……アルムと衝突した日の夜ぐらいじゃないかな。

 そうそう、サディエルお手製の目標達成表について、あれこれと詳細な説明と、認識のすり合わせした時だ。
 それ以降は、だいたい近くにアルムかリレル、もしくはクレインさんが居たわけだし。
 ちらり、とオレは彼を盗み見る。
 同じように瓶の蓋を取って、喉を潤している姿が見えた。

『お前はサディエルと違って、顔に出まくるからな……こいつも顔に出やすけりゃいいんだが』
『あいつはあいつなりに、僕らを気にしての行動なんだろう。そういう姿を見る都度、リーダーとか、多少なりとも上の立場の人間は窮屈だっていつも思うよ。虚勢を張るのも仕事のうちだって、師匠も言っていた』

 ふと、最初に立ち寄った街と、ガランドが襲ってくる前に聞いたアルムの言葉が蘇る。
 不安や恐怖を感じてないわけがない。だけど、それを見せることが出来ない……か。
 素直に言ってくれれば楽なんだろうけど、サディエルの場合は、パーティ内の士気に関わる部分もあるから、もう癖に近いのかもしれない。

「なぁ、サディエル」
「んー?」

「不安なこととかあったらさ、いつでも言ってくれよ。聞くぐらいしか出来ないかもしれないけどさ、それでも……」

 オレが全てを言い終わる前に、頭に何かが乗せられた。
 そして、くしゃくしゃと撫でられる。

「ありがとう、ヒロト。頼りにしている」
「……うん」
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