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第4章 聖王都エルフェル・ブルグ
65話 覚悟を決めた日【前編】
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結局、サディエルが目を覚ますことは無かった。
1時間ほどアークさんと雑談しながら待っていたんだけど……やっぱり、相当ダメージが大きかったんだと思う。
時間も時間だしと、病院前でアークさんに別れを告げて、オレたちはクレインさんの屋敷へと戻って来た。
「おぉ、ヒロト君! 目が覚めたようで良かった!」
「クレインさん! すいません、ご心配おかけしました」
玄関を開けると、オレたちの帰りを待っていたのか、クレインさんが立っていた。
「気にしなくてよい、儂は何も力になれなかったからの。サディエル君の様子はどうじゃった」
「オレらが病院を出る時点では、まだ……」
「そうか。なぁに、あやつの事じゃ、直に目を覚ますじゃろ」
だから、心配せずドーンと構えておれ。と、クレインさんは言ってくれた。
オレ、不安そうな顔していたのかな……
けど、心配してくれるのはありがたいことだよな。
「はい。きっと、明日にでも目を覚ますと思います!」
「その心意気じゃ! さて、3人とも。エルフェル・ブルグの滞在はどれぐらいになる予定かね」
その問いかけに、オレはアルムとリレルを見る。
資料探しをするわけだから、そこそこの日数が必要になるよな。
いつだったか、エルフェル・ブルグの蔵書数は、オレの世界でいう所の国立国会図書館ぐらいなイメージかな? って思ったことがあったはずだ。
そんな場所を、アシスト無しで探すとなると、何日あっても足りなさそうだしなぁ。
「そうですね……2~3週間ほど、でしょうか」
想定される日数を指折り数えながら、リレルがアルムに問いかけるように言う。
「そのぐらいだろうな。資料の場所に心当たりこそあるが……当たってみないことには、なんとも言えないわけだし」
アルムもだいたい同一日数を想定しているらしい。
と言うか、資料の場所に心当たりあったんだ。
「それだったら、滞在中は儂の屋敷を使いなさい。何、仕事のお礼だ」
「え? いや、流石にそれは……僕とリレルは自宅がありますから、そっちに行きますよ」
「何年も使ってない家は、想像以上にもろくなっていて危ない。貸家にしたとしても今日戻って来たので返して、はいそうですか、と言うわけにもいかんじゃろ」
そう言われて、アルムとリレルは痛いところを突かれたのか黙り込む。
あー……色々聞きたい部分が増えたけど、とりあえず黙っておこう。
今はクレインさんとの会話の腰を折るのは申し訳ないし。
「じゃあこうしよう。普段使っていない部屋を、空気の入れ替えがてらに使ってくれないか? 屋敷の劣化防止の依頼じゃ」
「……そういう所、サディエルの奴とよく似てますよね、クレインさん」
「はっはっは! レックスにもたまに言われるぞ」
気が合いそうだもんなぁ、サディエルとクレインさん。
旅の途中も、打ち合わせとは別に結構あれこれ喋っていたし。
あと、口実作りが上手いというかなんというか……
「そういうわけで、レックス!」
「こちらに」
うおっ!? レックスさん、いつの間に。
スッ、っと現れたレックスさんに驚いていると、いつも通り一礼した後
「では皆様、滞在中に利用頂くお部屋へご案内致します。こちらへ」
そう言うと、先導するように歩き始めた。
「クレインさん、ありがとうございます!」
「気にしなくてよい。今日はゆっくり休みなさい」
改めてお礼を述べて、オレたちはレックスさんの後をついていく。
さてと、じゃあ落ち着いた所でと……
「アルム、リレル。さっきの話で気になったんだけど、もしかして2人の故郷ってエルフェル・ブルグだったの?」
「あー……そう言えば言ってなかったか。生まれ育ったという意味では違うが、旅立つ前まではここに居た」
「私もそうですね。長い間この国に居て、5年前にサディエルと出会って、アルムとも出会って、旅に出たのです」
あ、正確には少し違うのか。
あれかな、〇〇生まれの△△育ち、みたいな感じ?
「と言う事は、3人にとってもエルフェル・ブルグは思い出の地、ってやつか!」
「……思い出、ねぇ」
「思い出、ですか……」
ねぇ、普通は同意してもらうシーンだと、オレ思うんですけど。
何でいきなり黄昏るんだよ、2人揃って。
「あんま、いい思い出ねぇな……」
「同じくです」
いやだから、普通ここはですね!?
そうツッコミ入れたいけど、完全に現実逃避か何かをし始めた2人に、オレは無言になる。
……2人が現実に戻ってくるのを待つ方が、早そうだ。
と言うか、その"いい思い出が無い"の一端を担っている可能性がある、バークライスさんの件。
これもどうする気だろうね、2人とも。
サディエルが起きてからだな、これに関しては。
「皆さん、こちらになります」
アルムたちが黄昏ている間に、目的の部屋に着いたらしい。
どうぞ、と通された部屋は……めっちゃ広い、無駄に広い部屋だった。
あれ、だけどベッド類が一切ない。
オレが首を捻っていると、その答えをレックスさんがくれた。
「まずこちらの部屋は、滞在中の談話室としてご利用ください」
談話室!?
え、ちょっとまって、談話室って。
オレ、てっきりこの部屋で寝泊まりしてください、って流れだと思ってたんですけど。
「そして、この部屋の反対側にある札のかかった4部屋を、就寝時にお使いください」
おまけに、1人1部屋!?
クレインさん、いくらなんでも太っ腹を超えているんですけど……
「あの、レックスさん。流石に1人1部屋な上に、談話室までは……その、不要では?」
若干震えながら、オレはそう進言する。
すると、レックスさんはゆっくりと首を左右に振り、答えた。
「クレイン様の強いご希望となります。お気になさらず」
……クレインさん、ありがとうございます。
明日、改めてお礼言おう。心の底からの感謝を言わないとこれはダメだ。
「それから、滞在中の朝食と夕食は毎日準備致します。不要な場合は、前日のうちにご連絡頂けると幸いです。昼食は、朝食中にお話を頂ければ準備致します」
本当に至れり尽くせりなんですけど!?
オレだけじゃなく、アルムとリレルも展開についていけず、ポカーンとしている。
「説明は以上となります。御用があればなんなりと屋敷の者へと、それでは失礼致します」
優雅に一礼し、レックスさんは部屋を後にした。
あまりといえば、あまりな展開についていけなかったオレら3名が取り残された。
「あのさ、オレら……クレインさんを護衛しただけ、だよね。いや、オレはほとんど役に立っていなかったけど」
「ほぼ無報酬、という点を差し引いても、あっちが損してねぇか?」
「お2人とも、明日……何かお礼の品を見繕いましょう」
「賛成」
「異議なし」
明日の予定の1つが、音速で決定した瞬間であった。
全く別のベクトルで驚いたけれども、一旦落ち着いたオレたちは大きめのテーブルに備え付けられている椅子に座る。
「さってと、明日から、と言うか今後の予定を決めておこう」
まず口を開いたのはアルムだった。
その言葉に、オレとリレルは頷く。
「サディエルがいつ目覚めるかは分かりません。ですが、ただボーっと待っているわけにもいきませんからね」
「だよね。えっと、調べなきゃいけないことは、痣の件と、魔族への対抗手段と……」
「ヒロト、それよりも高い優先事項を忘れてどうする。元の世界に帰る為の手段、これが先だろう」
えぇー……
いや、うん、分かっちゃいるよ? 分かっちゃいるけど。
「帰りは今回みたいに、救援部隊が到着するまでの持久戦が無理になるんだよ。まずは……」
「最優先で最重要は『ヒロトを無事に元の世界に戻すこと』であり、『その結果における、僕らの生死は問わない』だ。そこだけは絶対に履き違えるな」
「だけど……!」
「お前が言いたいことは分かる。だが、以前サディエルが言った通り、こっちの件には時間制限が……」
「あるだろ!? そっちだって、半年ぐらいだって!」
1か月前の船旅。
その途中で判明した、ガランドによる弱体化の効果。
『あぁ。この進行度での弱体化なら、まだしばらくは戦えるとは思うけど……半年が過ぎる頃には、俺は完全にお荷物確定だろうな』
自身の右手を見ながら、サディエルが険しい表情でそう言った。
それからもう1か月。必死に毎日の運動量を増やしてはいるけど、実際にどれぐらい効果があるかはサディエル本人しか分からない。
おまけに、その辺りはシレっと黙っているからたちが悪い!
「オレ、言ったよ。そんな状態のサディエルを、皆を置いて元の世界に帰るのは嫌だって。帰ったらオレ、皆がどれだけピンチでも助けに行けないんだよ!? 助けに行けないどころか、ピンチかどうかすら分からない!」
あの時、心の中で思って言いそびれた言葉を紡ぐ。
そうだよ、本当にそう。
言葉にしないと、全然伝わらないんだから!
「何か月もしない間に……サディエルがガランドに殺されたんじゃないかって……そしたら、アルムとリレルはって……そんな思いはしたくないからな、オレ!」
「……ヒロト。僕らは冒険者だ、命の危険って意味ならば、別にガランドだけじゃ……」
「それ、反論になってないからな。ここまでの道中、皆がどれだけ最大限に注意を払って、旅を続けているかは、見ていれば分かるよ。普通、冒険ってもっと危ないし、危険だし、トラブル三昧が普通なの、オレの知っているファンタジーは!」
そう、オレの知っているファンタジーは常にそうだ。
立てばトラブル、座れば厄介事、歩く姿はフラグ回収機。
強敵を倒したと思えば、すぐに何処からともなくひょっこり次の強敵が湧いてきて、インフレ待ったなしを続けるのが常だ。
それなのに、サディエルたちの旅は全くの真逆!
出来うる限り、想定出来る限りの準備はしっかり念入りに。
旅の知識は当然だけど、道中どのルートが安全なのかも、街や国着くたびにしっかりチェックしている。
おまけに、魔物に対する対策だって熟知しているから、基本的に苦戦しないくせに、全く慢心の「ま」の字もない。
もうこれは、オレの世界でいう所の飛行機や車、何だったら常に使う家電製品とかでもいいや。
それらを利用する際に、『こういう問題を考慮して、こんな対策を実施してます。トラブルがあっても壊れません、安全です。ルールもしっかりしております』って保障している、そんな感じなんだよ。
「そこまでしっかりしている皆だから、心配なんだ。仮に最悪の事態になった時、オレはアルムやリレルを慰める事も、一緒に悲しむ事も出来ないんだよ!?」
「……」
「……ヒロト」
「もっと、こっちの優先度も上げよう。お願いだよ……! 命の優先度まで下げないでよ!」
オレの言葉に、2人は黙り込む。
どう返答すればいいのか、迷っている表情だ。
迷ってる所悪いけど、この件に関してだけはオレだって譲りたくない部分だ。
今日の襲撃でハッキリしたし、覚悟も出来た。
「オレ決めたから。元の世界に戻る前に、ガランドを何とかする! この決着がつかない限り、絶対に帰らないからな!」
1時間ほどアークさんと雑談しながら待っていたんだけど……やっぱり、相当ダメージが大きかったんだと思う。
時間も時間だしと、病院前でアークさんに別れを告げて、オレたちはクレインさんの屋敷へと戻って来た。
「おぉ、ヒロト君! 目が覚めたようで良かった!」
「クレインさん! すいません、ご心配おかけしました」
玄関を開けると、オレたちの帰りを待っていたのか、クレインさんが立っていた。
「気にしなくてよい、儂は何も力になれなかったからの。サディエル君の様子はどうじゃった」
「オレらが病院を出る時点では、まだ……」
「そうか。なぁに、あやつの事じゃ、直に目を覚ますじゃろ」
だから、心配せずドーンと構えておれ。と、クレインさんは言ってくれた。
オレ、不安そうな顔していたのかな……
けど、心配してくれるのはありがたいことだよな。
「はい。きっと、明日にでも目を覚ますと思います!」
「その心意気じゃ! さて、3人とも。エルフェル・ブルグの滞在はどれぐらいになる予定かね」
その問いかけに、オレはアルムとリレルを見る。
資料探しをするわけだから、そこそこの日数が必要になるよな。
いつだったか、エルフェル・ブルグの蔵書数は、オレの世界でいう所の国立国会図書館ぐらいなイメージかな? って思ったことがあったはずだ。
そんな場所を、アシスト無しで探すとなると、何日あっても足りなさそうだしなぁ。
「そうですね……2~3週間ほど、でしょうか」
想定される日数を指折り数えながら、リレルがアルムに問いかけるように言う。
「そのぐらいだろうな。資料の場所に心当たりこそあるが……当たってみないことには、なんとも言えないわけだし」
アルムもだいたい同一日数を想定しているらしい。
と言うか、資料の場所に心当たりあったんだ。
「それだったら、滞在中は儂の屋敷を使いなさい。何、仕事のお礼だ」
「え? いや、流石にそれは……僕とリレルは自宅がありますから、そっちに行きますよ」
「何年も使ってない家は、想像以上にもろくなっていて危ない。貸家にしたとしても今日戻って来たので返して、はいそうですか、と言うわけにもいかんじゃろ」
そう言われて、アルムとリレルは痛いところを突かれたのか黙り込む。
あー……色々聞きたい部分が増えたけど、とりあえず黙っておこう。
今はクレインさんとの会話の腰を折るのは申し訳ないし。
「じゃあこうしよう。普段使っていない部屋を、空気の入れ替えがてらに使ってくれないか? 屋敷の劣化防止の依頼じゃ」
「……そういう所、サディエルの奴とよく似てますよね、クレインさん」
「はっはっは! レックスにもたまに言われるぞ」
気が合いそうだもんなぁ、サディエルとクレインさん。
旅の途中も、打ち合わせとは別に結構あれこれ喋っていたし。
あと、口実作りが上手いというかなんというか……
「そういうわけで、レックス!」
「こちらに」
うおっ!? レックスさん、いつの間に。
スッ、っと現れたレックスさんに驚いていると、いつも通り一礼した後
「では皆様、滞在中に利用頂くお部屋へご案内致します。こちらへ」
そう言うと、先導するように歩き始めた。
「クレインさん、ありがとうございます!」
「気にしなくてよい。今日はゆっくり休みなさい」
改めてお礼を述べて、オレたちはレックスさんの後をついていく。
さてと、じゃあ落ち着いた所でと……
「アルム、リレル。さっきの話で気になったんだけど、もしかして2人の故郷ってエルフェル・ブルグだったの?」
「あー……そう言えば言ってなかったか。生まれ育ったという意味では違うが、旅立つ前まではここに居た」
「私もそうですね。長い間この国に居て、5年前にサディエルと出会って、アルムとも出会って、旅に出たのです」
あ、正確には少し違うのか。
あれかな、〇〇生まれの△△育ち、みたいな感じ?
「と言う事は、3人にとってもエルフェル・ブルグは思い出の地、ってやつか!」
「……思い出、ねぇ」
「思い出、ですか……」
ねぇ、普通は同意してもらうシーンだと、オレ思うんですけど。
何でいきなり黄昏るんだよ、2人揃って。
「あんま、いい思い出ねぇな……」
「同じくです」
いやだから、普通ここはですね!?
そうツッコミ入れたいけど、完全に現実逃避か何かをし始めた2人に、オレは無言になる。
……2人が現実に戻ってくるのを待つ方が、早そうだ。
と言うか、その"いい思い出が無い"の一端を担っている可能性がある、バークライスさんの件。
これもどうする気だろうね、2人とも。
サディエルが起きてからだな、これに関しては。
「皆さん、こちらになります」
アルムたちが黄昏ている間に、目的の部屋に着いたらしい。
どうぞ、と通された部屋は……めっちゃ広い、無駄に広い部屋だった。
あれ、だけどベッド類が一切ない。
オレが首を捻っていると、その答えをレックスさんがくれた。
「まずこちらの部屋は、滞在中の談話室としてご利用ください」
談話室!?
え、ちょっとまって、談話室って。
オレ、てっきりこの部屋で寝泊まりしてください、って流れだと思ってたんですけど。
「そして、この部屋の反対側にある札のかかった4部屋を、就寝時にお使いください」
おまけに、1人1部屋!?
クレインさん、いくらなんでも太っ腹を超えているんですけど……
「あの、レックスさん。流石に1人1部屋な上に、談話室までは……その、不要では?」
若干震えながら、オレはそう進言する。
すると、レックスさんはゆっくりと首を左右に振り、答えた。
「クレイン様の強いご希望となります。お気になさらず」
……クレインさん、ありがとうございます。
明日、改めてお礼言おう。心の底からの感謝を言わないとこれはダメだ。
「それから、滞在中の朝食と夕食は毎日準備致します。不要な場合は、前日のうちにご連絡頂けると幸いです。昼食は、朝食中にお話を頂ければ準備致します」
本当に至れり尽くせりなんですけど!?
オレだけじゃなく、アルムとリレルも展開についていけず、ポカーンとしている。
「説明は以上となります。御用があればなんなりと屋敷の者へと、それでは失礼致します」
優雅に一礼し、レックスさんは部屋を後にした。
あまりといえば、あまりな展開についていけなかったオレら3名が取り残された。
「あのさ、オレら……クレインさんを護衛しただけ、だよね。いや、オレはほとんど役に立っていなかったけど」
「ほぼ無報酬、という点を差し引いても、あっちが損してねぇか?」
「お2人とも、明日……何かお礼の品を見繕いましょう」
「賛成」
「異議なし」
明日の予定の1つが、音速で決定した瞬間であった。
全く別のベクトルで驚いたけれども、一旦落ち着いたオレたちは大きめのテーブルに備え付けられている椅子に座る。
「さってと、明日から、と言うか今後の予定を決めておこう」
まず口を開いたのはアルムだった。
その言葉に、オレとリレルは頷く。
「サディエルがいつ目覚めるかは分かりません。ですが、ただボーっと待っているわけにもいきませんからね」
「だよね。えっと、調べなきゃいけないことは、痣の件と、魔族への対抗手段と……」
「ヒロト、それよりも高い優先事項を忘れてどうする。元の世界に帰る為の手段、これが先だろう」
えぇー……
いや、うん、分かっちゃいるよ? 分かっちゃいるけど。
「帰りは今回みたいに、救援部隊が到着するまでの持久戦が無理になるんだよ。まずは……」
「最優先で最重要は『ヒロトを無事に元の世界に戻すこと』であり、『その結果における、僕らの生死は問わない』だ。そこだけは絶対に履き違えるな」
「だけど……!」
「お前が言いたいことは分かる。だが、以前サディエルが言った通り、こっちの件には時間制限が……」
「あるだろ!? そっちだって、半年ぐらいだって!」
1か月前の船旅。
その途中で判明した、ガランドによる弱体化の効果。
『あぁ。この進行度での弱体化なら、まだしばらくは戦えるとは思うけど……半年が過ぎる頃には、俺は完全にお荷物確定だろうな』
自身の右手を見ながら、サディエルが険しい表情でそう言った。
それからもう1か月。必死に毎日の運動量を増やしてはいるけど、実際にどれぐらい効果があるかはサディエル本人しか分からない。
おまけに、その辺りはシレっと黙っているからたちが悪い!
「オレ、言ったよ。そんな状態のサディエルを、皆を置いて元の世界に帰るのは嫌だって。帰ったらオレ、皆がどれだけピンチでも助けに行けないんだよ!? 助けに行けないどころか、ピンチかどうかすら分からない!」
あの時、心の中で思って言いそびれた言葉を紡ぐ。
そうだよ、本当にそう。
言葉にしないと、全然伝わらないんだから!
「何か月もしない間に……サディエルがガランドに殺されたんじゃないかって……そしたら、アルムとリレルはって……そんな思いはしたくないからな、オレ!」
「……ヒロト。僕らは冒険者だ、命の危険って意味ならば、別にガランドだけじゃ……」
「それ、反論になってないからな。ここまでの道中、皆がどれだけ最大限に注意を払って、旅を続けているかは、見ていれば分かるよ。普通、冒険ってもっと危ないし、危険だし、トラブル三昧が普通なの、オレの知っているファンタジーは!」
そう、オレの知っているファンタジーは常にそうだ。
立てばトラブル、座れば厄介事、歩く姿はフラグ回収機。
強敵を倒したと思えば、すぐに何処からともなくひょっこり次の強敵が湧いてきて、インフレ待ったなしを続けるのが常だ。
それなのに、サディエルたちの旅は全くの真逆!
出来うる限り、想定出来る限りの準備はしっかり念入りに。
旅の知識は当然だけど、道中どのルートが安全なのかも、街や国着くたびにしっかりチェックしている。
おまけに、魔物に対する対策だって熟知しているから、基本的に苦戦しないくせに、全く慢心の「ま」の字もない。
もうこれは、オレの世界でいう所の飛行機や車、何だったら常に使う家電製品とかでもいいや。
それらを利用する際に、『こういう問題を考慮して、こんな対策を実施してます。トラブルがあっても壊れません、安全です。ルールもしっかりしております』って保障している、そんな感じなんだよ。
「そこまでしっかりしている皆だから、心配なんだ。仮に最悪の事態になった時、オレはアルムやリレルを慰める事も、一緒に悲しむ事も出来ないんだよ!?」
「……」
「……ヒロト」
「もっと、こっちの優先度も上げよう。お願いだよ……! 命の優先度まで下げないでよ!」
オレの言葉に、2人は黙り込む。
どう返答すればいいのか、迷っている表情だ。
迷ってる所悪いけど、この件に関してだけはオレだって譲りたくない部分だ。
今日の襲撃でハッキリしたし、覚悟も出来た。
「オレ決めたから。元の世界に戻る前に、ガランドを何とかする! この決着がつかない限り、絶対に帰らないからな!」
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