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第4章 聖王都エルフェル・ブルグ

62話 膠着状態

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 本当に、ふざけている。
 と言うか、テンプレに沿ってくれたのはありがたいけど、よりにもよって複数効果とか!
 目印効果と、弱体効果、この時点で2つなわけだから、3つ目もある可能性を視野に入れてなかったのはオレの判断ミスだ。
 ちょっと考えれば、その可能性があるって気づけただろ!……いや、今はその反省は後回しだ。

 今やるべきことは、サディエルの奪還。それに集中しないと。

「リレル、ヒロト。今回の戦闘、被弾だけは絶対厳禁だ、いいな!?」
「難しい注文を付けてくださいますね。ですが……それしかありませんよね」
「だよね……オレが一番厳しいんだけど、そうも言ってられないか」

 まずは状況を打開する方法を考えないと。
 オレはまだ対人戦に関しては一切教わってない、下手に前に出たら余計な被害が出てしまうことになる。

 ならば、オレがこの状況でやるべきことは1つ。

「アルム! 後衛と作戦指示、任せてもらっていい!?」
「わかった。今回ばかりは、僕よりもお前が適任だ……ただ最初に少しでいい、奴の気を僕から逸らせてくれ。その間に、エルフェル・ブルグへ追加情報を通達する」

 そう言いながら、アルムはオレにだけ見えるように左手のモノを見せる。
 あったのは、ビー玉ぐらいの大きさの水晶。
 ギルドとかにある、通信用の水晶か!

「分かった。その通達で何が変わる?」
「救援の到着時刻だ」

 超特急で来てくれるようにってわけか。

「了解。こっちの勝利条件は、救援までの持久戦。それと、サディエルから何とかガランドを引き離す。耐えきってもそのままサディエルを連れていかれたらおしまいだ。時間稼ぎは任せて、1つ確認したいことがある」

 仲間が操られて、同士討ちを狙われている状況。
 この展開になった場合、どうすればいいかを必死に思い出す。

 とりあえず、まずはこれだけでも試さないと……

 オレは深呼吸して、めいっぱい空気を吸い込み、自分が発せることが出来る最大音量で叫ぶ。

「サディエル! 聞こえてる!? サディエル!!」

 まずはサディエルの精神がどんな状態か。
 それを確認しないといけない。
 こういうパターンだと、だいたい精神的な場所で身動きが取れないなりに、ガランドに対抗しているはずだ。

 とにかく、声を掛け続けて、少しでもサディエルに頑張ってもらわないと……!

「大丈夫だから! 絶対、オレらが助けるから! だから、もうちょっと踏ん張ってくれ!」
「……あっははは! 悪いが少年、それは無駄だ」
「無駄かどうか決めるのは、お前じゃない、オレたちとサディエルだ!」

「決める必要もない。さっきの攻撃でコイツは相当堪えたみたいだからな」

 さっきの……攻撃……?
 オレが近づいた時のアレ!?

「見物だったぞ。お前の首をはねたんじゃないかって、顔色悪くして……あっはははは、いやぁ傑作傑作。お陰で、今こうやって簡単に体を動かせるわけだ」

 くっそ、攻撃が当たっていなくてもかよ!
 アルムに間一髪助けてもらったけど、サディエルがそれを認識する前にってことだよな。

「ほんっと……この程度のことで、こんなにあっさり奪える奴に……ボクが負けたのが、とても腹立たしい」

 そう宣言すると同時に、強い風が吹き荒れる。
 いや、ただの風じゃないこれ、黒いなにか……魔力みたいなものがあふれ出ているような……

「この前の屈辱は返さないとな。お前らを殺してコイツの精神が完全に壊れるのが先か、お前らに殺されて体の方が先に死ぬか……選ばせてやる!」

 剣を構え、ガランドがリレルに向かっていく。
 それを見て、リレルはすぐさま無詠唱で魔術を発動させる。
 すると、地面から大量の蔦が生えてきて、ガランドの両手両足を拘束した。

 こういう術もあるのか……っと、今は感心している暇じゃない。

 何とか蔦を外そうとガランドが四苦八苦している間に、リレルは蔦に魔力を注ぎ続けながら、ゆっくりとオレたちの所まで後退してくる。
 こちらの会話を聞かれない為だ。

「アルム、リレル。サディエル次第だけど、恐らく1回だけならガランドの攻撃を無効化に出来るはずだ」
「その理由を聞きたいが、暇はなさそうだな。その1回はお前が上手く使え、ヒロト」
「わかった。それから……時間の方は?」

「10分だ。どうやら思ったよりも近くまで救援隊を派遣してくれていたみたいだ。事前連絡が功を奏した」

 10分間か。
 1時間近くを覚悟していたけど、思ったよりも短期決戦になるか。
 いやまぁ、その10分だけでもかなりきついわけだけど。

「……とはいえ、この拘束の魔術も長くは持ちませんよ」
「サディエルの体を使っているからか、ギリギリ効いてるが、まぁ時間の問題か」

 となれば、今すぐ伝えなければならないことを2人に伝えないと。

「まずやれることとして、武器を奪いたい。サディエルが持っている剣を使われたら、こっちはいつまでたってもじり貧だ。お願いできる? アルム、リレル」

「無理難題ってわけじゃないが厳しいな……だが、やるぞ、リレル」
「わかりました」

 そう言いながら、アルムは弓筒から矢を取り出す。
 同時に、ぶちりっ、と引きちぎられる音がして、ガランドが再びこちらに向かってくるのが見えた。

 リレルが前衛として前に出て、初撃を回避し、槍の柄部分を棒のように扱い、奴の右手首を打ち上げる形で振り上げる。

 その瞬間を狙い、アルムが矢を放ち、剣に当てた。
 衝撃で奴の右手から剣が吹き飛ぶ。それを追うようにリレルは脇を通り抜け、地面に落ちた剣を拾い距離を取る。

「こういう時、3本持ちは厄介だな、ったく!」

 そう愚痴りながら、アルムは次の矢を取り出す。
 リレルの方は剣を右手に、槍を左手に持ち、再び臨戦態勢を整えた。

 2人が頑張ってくれている間に、オレは目の前の戦闘から目を離さず、必死に考えを巡らせる。

 仲間が操られるパターンはいくつかある。
 だいたいは倒せばなんとかなるわけだけど……さっき、ガランドが言っていた言葉が気になる。

 あいつは、仲間に"殺されてやる"と言っていた。

(殺されてやる……わざと殺される様に、動く? いや、まさか……だけど、あいつの最終的な目的を達成する為に、サディエルが死ぬことが必須であれば……)

 ガランドが2本目の剣を抜き放つ。
 そのまま、今度はアルムに向かって距離を詰めてくる。

「チッ!」

 アルムは僅かに射線をずらして矢を放とうとする。

「……っ!? あんにゃろう!」

 だけど、何かに気が付いたのか弓を降ろして腰にある短剣を抜き放ち、振り下ろされた剣を間一髪で受け止める。
 ギリギリと剣と剣が摩擦する音が響く。

「"風よ、切り裂け!"」

 咄嗟に風の魔術を発動させ、ガランドの頬や腕が切り裂かれ僅かに血がにじみ出る。
 僅かに剣が離れた隙に、アルムは大きく後退して相手を睨みつけた。

「よく気づいたな。勘がいい奴……せっかくここに当たるように調整してやったのに」

 そう言いながら、ガランドは自身のこめかみをトントンと指で叩く。
 思いっきり人体の急所じゃないか!

「ふざけるな、くそっ! リレル、攻撃する時は注意しろ! こいつ、致命傷になる部分で僕らの攻撃を受けるように動くぞ!」

 本当に殺される様に動いてきた!?
 自分の体じゃないからって、なんてことしてくれるんだ。

 下手にダメージは負えない上に、こっちの攻撃をあちらはワザと受けに来るから、むやみやたらに手出し出来ない。

 ダメだ、この戦闘……10分は絶対に持たない!

(考えろ、考えろ……! 次の手を……何か、何か他に手はないか!)

 僅かに時間を稼げる可能性がある1つは、本当にギリギリまで使いたくない。
 1回だけ、恐らく1回だけ可能であろう、ガランドの攻撃を無効化にする手段……これは、操られた仲間が、味方を殺そうとした瞬間だけ発動する。

 漫画とかで良くある、攻撃が直前で止まって、一瞬だけ操られている味方が正気に戻るあれだ。
 これを使うタイミングを間違えたら、救援までは持たない。

 その間にも、ガランドの猛追は止まらない。

 回避しきれなかった攻撃は、どうしても武器で応戦するしかなくなり、少しづつだけれどサディエルの体には傷が増えていく。
 それでも、致命傷にならないように、アルムとリレルはギリギリまで間合いを調整して反撃している状態だ。
 そして、2本目の剣もなかなか奪えない。
 それもそうだ、こっちが不用意に手を出しにくくなった以上、取れる手段が一気に減ってしまっている。

 おまけに、同じ手段で奪わせてくれる相手でもない。

 完全に悪い意味での膠着状態だ。

(……せめて、サディエルと連絡が取れれば……連絡?)

 そこで、ハタと気づく。
 サディエルに声を掛けた時、ガランドの奴はなんていった?

『見物だったぞ。お前の首をはねたんじゃないかって、顔色悪くして……あっはははは、いやぁ傑作傑作』

 顔色を悪くして、その後は?
 その先をわざとボカしている。
 そのタイミングは、オレがサディエル声を掛けていた時……遮るように言ってきた。

『貴重品と知られずに、いい品だと誉めつつ、安く買い取るのがあちらさんの目的なのさ。だから、さっきも店長さんはこう言ってたはずだぞ。『スカーティングも丁寧にされている』『保存状態も良好、刈り取りも綺麗』』
『商品価値じゃなくて、商品の状態を誉めてる……』

 いつだったか、アルムと交わした言葉を思い出す。
 こっちに知られたくない、気づかれたくないのが目的だとして……あいつは、ガランドは、ボカした、遮ってきた。

 くそっ! もっと早く気づけばよかった!

 サディエルは今も対抗している!
 その抵抗を強くさせない為に、わざと誤解させるようにガランドの奴はそう言ってきた!
 奴の中で、サディエルは意識がある。体の主導権を取り戻すために、今も何かしているはずだ。

「サディエル! 少しでいい! ガランドの動きを止められない!? 足を少しでも、腕をちょっとでもいい!」

 オレは必死に声を張り上げる。
 聞こえててくれ、サディエル……!

「ヒロト、ナイスだ!」

 そう叫ぶように、アルムが言う。
 同時に、槍の柄が再びガランドの右手に当たり、すかさず矢が放たれ、剣が弾かれた。

 今の、まさか!

「無事とは言えないでしょうが、あちらも頑張ってくださっているみたいですね」

 素早くもう1本の剣を回収し、リレルが一旦オレの所まで戻ってくる。
 と言う事は、オレの声が

「届いてた……!」
「そうみたいだ、お陰で相手に隙が出来た。これであと1本!」
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