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ホームシックらしい
しおりを挟む「アルバート様のお相手の方に使用人と同じ扱いはできません」
胸に手を当てて頭を下げるセバスチャンを見て、何かを誤解されているような気がすると気づく。お相手ってなんだろうか。お相手。
「お相手とは……?」
「とりあえず、朝食と昼食、夕食をお部屋に運んでいただいてご一緒に食事なさってください」
「は、はい」
無理やり話を切り上げられ、仕事の話に戻っていった。結局はアルバートの客人という扱いのままということだろう。ここではどうしても仲間としては受け入れてもらえないのかもしれない。それでも、頑張って働いていけばだんだんと仲間扱いしてもらえるかもしれない。そう願って頑張るしかあるまい。
「そのあとは執務室でアルバート様のお手伝いいただければと思います」
「お手伝い」
「簡単な書類整理や荷物運びなどでしょうか。アルバート様のご指示に従ってください」
「わかりました」
仕事はしたことないけれど、それくらいだったら自分にもできるかもしれない。あんまり自信はないけれど。
「ご夕食とご入浴のお手伝いも、」
「ご入浴!?」
「ええ、入浴の」
「え!?」
大きい声を出してしまって慌てて口を塞いだ。セバスチャンは驚いたような顔をしていた。そうか、ここは自分がいた世界ではないのだった。この世界では入浴は一人でするものではなく、手伝いが必要なのか。それこそ、風呂だって自分が思っているものではなく砂風呂とかなんか全然違う風呂という可能性だってある。
「……あ、すみません。わかりました……」
「大丈夫ですか?」
「た、多分」
ここは己がいた世界ではないということを自分に言い聞かせて納得するしかない。それに男同士だし。背中流すぐらいなら。そう思えば気も楽になるというものだ。自分から働きたいと言い出したのだから我儘は言えない。
「一通りは説明しましたが、質問はありますか?」
色々と聞きたいこともあるのだけれど、伊織はとりあえず飲み込んだ。風呂のこととか、食事のこととか、お相手が何ということなのか。それを今聞かずとも、実際やってみればわかるだろうと思ったのだ。
「分からなかったらまた聞いてもいいですか?」
「もちろんです。いつでもお聞きください」
セバスチャンは好意的に見えるし、意地悪なことは言われないだろう。初めての仕事に緊張はしつつも、伊織はぐっと拳を握って気合いを入れた。
「あの、頑張ります」
「はい、応援しております」
にこりと笑ったセバスチャンの目元の皺に、己の祖父のような安心感を覚える。祖父は元気にしているだろうか。餅を喉につまらせてはいないだろうか。己が突然いなくなって驚いてはいないだろうか。いつかは帰ってまた祖父に会いたいものだ。またホームシックになってしまって唇を噛み締めた。いつかは帰れる日が来るのだろうか。
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