上 下
8 / 35

8.グッジョブだよ〜!

しおりを挟む
 それから、ばーちゃんが僕にペンダントを作ってくれた。まあ、普通のペンダントじゃないよね。

「ばーちゃん、これ何?」

 ――バシッ!

「だから、痛いよ!」

 また叩かれちゃったよ。直ぐに手が出るんだから。僕の背中がヤバイじゃん。まあ、絶対に首から上は叩かないし本気じゃないんだけどね。めちゃいい音を出すからつい『イテッ!』て、言っちゃうんだ。本当は大して痛くない。エヘヘ。

「ばーちゃんじゃないでしょう?」
「はい、お祖母様ッ」
「良し。そのペンダントを肌身離さず身につけておくのよ」
「だから、何?」
「トップの魔石に、精神干渉はもちろん精神異常を完全防御する効果を付与しておいたわ」
「おおー! 完全防御!」

 精神異常て、嫌なワードだよぉ。

「聖女候補はおそらく、精神に干渉しているわね。魅了とか、隷属とか自分の思う様に操るスキルよ。まさか、そんな事を堂々とする人間がいるとは思わなかった。油断したわ」

 隷属だって!? 超怖い!

「人間て大変だな。俺様はドラゴンだから精神干渉なんて受けないぜ。俺達は精神異常を完全防御するからな」

 え、ドラゴンてそうなの? スゴイじゃん。

「テテが言うその聖女候補御一行? その子達はもうかかっているでしょうね。だから、何でも聖女候補に都合の良い様にしか考えないのよ。そうなると、この魔石だと駄目なの。ディスペルじゃないとね」

 そっか、普通じゃないんだ。普通に信頼関係を作って、て事じゃないんだ。
 ゲームだと好感度をコツコツと上げるけど、そんなんじゃないんだ。反則じゃんか!

「でも、早くディスペルしてあげないと、その子達の精神が崩壊するから」

 待て待て、待って! それって、廃人になってしまうと言う事なの?

「これはね、呪いと同じ様なものなの。禁忌ね。禁断の魔術よ。
 大司教のいる大聖堂も確認しておきたいわ。ラティに連絡する方が良いわね」

 出たよ。ラティは僕の姉だ。最終兵器だ。いや、人間だけど。

「お義母様、お茶になさいませんか?」

 母がメイドを連れて入ってきた。
 ブランが喜んでフワフワと飛んでいる。
 え? ここでお茶すんの? ここ、僕の部屋だよ? 応接室に行こうよ。

「テテ、なぁに?」
「母上、僕の部屋ですけど。」
「まあ、私がテテの部屋に入ると困る事でもあるのかしら? 色々、好奇心の強いお年頃ですものね。男の子ですもの。ウフフ。」
「グフフ」

 いや、何言ってんの? ブランも何笑ってんの?

「大丈夫よ。見ちゃいけない物はそのままそっとしておくわ」
「ブヒャヒャヒャ」

 いや、違うし。そんなのないし! もういいけどさ。ブランも笑うのやめて。

「そんな事よりお義母様。ラティに連絡しますか?」
「そうね。早い方が良いわ」
「分かりましたわ」

 母が目配せをすると、メイドが部屋を出て行った。きっと、姉に連絡するんだ。
 うちの身内だけの連絡方法があるんだ。姉はハイスペックだと言ったでしょ? なんと精霊召喚なんて事ができるんだよ。
 姉だけが出来る方法で精霊さんに連絡係をしてもらっている。超便利。一瞬で行ってくれるからね。早ければ数分で姉がやってくる筈だよ。
 だって嫁入り先が直ぐ近所だもん。きっとダッシュでやって来るよ。嬉しがってさ。

「相変わらず、ラティは規格外だわ」
「ばーちゃんだって規格外じゃん」
「テテもよ。自覚がないの?」

 母に言われた。僕は規格外なんかではないよ。領地に引っ込んでいる間、ばーちゃんに叩き込まれた成果だよ。
 あれは、シゴキだよ。マジで。小さい頃なんて思わず泣いちゃったもんね。

「ラティは天才、テテは凡才ね。努力の人と言う方が聞こえは良いかしら?」
「まあ! お義母様、お上手ですわ! ウフフ」
「ブヒャヒャヒャ!」

 ウフフ、じゃないからね。ブラン、笑ってばかりだね。僕は、大人しくお茶を飲んでいよう。あ、お茶菓子があるじゃん。こ、これは……!

「母上、これアップルですか? それとも、スィートですか?」
「テテ、喜びなさい。両方よ」
「ん? 両方!? 」

 ブランがパイに飛びついた。パイを抱えてサクサクと食べている。

「超うめー!! 」

 ブラン、ドラゴンらしくないよね。
 それより両方てなに? ま、食べてみよう。茶菓子で出てきたパイを口に入れる。

「……!! 」
「ウフフ。ね、両方だったでしょ?」
「母上、これ僕超好きです! ダントツで1番好き!」

 本当にアップルとスィートが両方入っていたんだよ!
 スィートとは! 僕の大好物のさつまいものペーストだ。スィートポテトとは違うんだよ。もっと滑らかでペースト状なのが好き。大好き。
 りんごを砂糖で甘く煮てシナモンをたっぷりかけたのも好き。大好き。
 だから、このりんごを甘く煮てシナモンをたっぷりかけたものと、さつまいものペーストを入れたパイは神だよ!

「ウフフ。良かったわ」
「母上が作ったのですか?」
「私は焼いただけよ。中身はお父様が昨夜作ってらしたの。パイ生地はシェフよ」

 なんだ。要するに、母は何にもしてないじゃん。どうせ、焼く時だってシェフが焼いているのを座って見ていただけだろうね。
 まあ、貴族のしかも公爵夫人だから。普通は厨房にも入らないよね。だが、父よ! グッジョブだよ!!

「まだ、レウスは料理をしているの?」
「ええ。お仕事でも、その聖女候補と大司教様が少し問題になってきているらしいですわ。詳しくは教えてもらえませんけど。ストレスが溜まるそうなんです。夜中に無心で作ってましたわ」

 父は、国の特殊情報部隊の長官をしている。王族に付いている影もこの部署らしい。
 仕事柄、ストレスが溜まるんだって。そして、ストレス発散の為に父は料理をするんだ。趣味も兼ねているんだろうね。料理の腕はプロ級なんだよ。
 父の部署は公にはしていないので、知っている者は限られている。王女のソフィアでさえ詳しくは知らない事なんだよ。
 兄が後を継ぐ。僕も手伝いをする事になると思う。代々、王族の誰かが担ってきた役職らしい。
 父は王弟なので王位継承権がある。でも、今の王に男の子が産まれて10歳になったのを機に継承権を放棄している。ソフィアの兄さんだよ。王太子殿下だ。
 兄も父の後を継ぐのが決まってから放棄した。
 俺はまだなんだ。理由は知らないけど、まだ放棄しないらしい。

「大司教が後ろ盾と言う事は、あの大司教が連れて来たの?」
「お義母様、そうですよ。テテが8歳の頃ですわ」
「まず身元を確認したいわね」
「そこは、主人に聞く方が早いと思いますわ」

 て、事はあれだね。父もかなり調査をしている、て事だよ。ヤバイじゃん。
 そんな人間を、普通に学園に通わせていても大丈夫なの? てか、なんで普通に通ってんの?

「テテの言ってた、聖女候補御一行を作る為でしょうね」
「ええ。しかも、名だたる貴族の子息ばかりですもの」

 え? 母も知っていたの?

「テテ、あなたがボーッとしている間に皆情報を集めているのよ。学生とは言っても次世代の国を担う子達だもの」

 なるほどね~。情報は大事、て訳だね。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。 かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。 ついでに魔法を極めて自立しちゃいます! 師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。 痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。 波乱万丈な転生ライフです。 エブリスタにも掲載しています。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...