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第5章 王都へ

158ー秘密だッ!

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 皆で領主邸へと向かう。すると少し離れた場所からでも領民達が騒いでいるのが聞こえてきた。皆、口々に訴えている。
 どうして、こうなったのか?
 街に排水が流れ込むところだったじゃないか!
 下水道工事を途中で止めるからだ!
 そんな事を皆訴えている。

「鎮まれぃ! 皆の訴えは分かっておるッ!」

 大きな声が聞こえた。これは父の声だ。

「ああ、前面に出てしまっているな」
「お祖父さま、領主はどの人ですか?」
「出てきていないな」
 
 なんだって? 領主が出ないでどうやってこれだけの領民達を静めるんだ?

「だから父上が出てきたのだろう」

 それってズルくないか? 自分が悪いのに、普段は相反するとか言ってる父に面倒を押し付けるのか?

「いくら領民とはいえ、これだけの人数で押しかけられたら普通は怖いだろうからね」
「ロディ兄さま、そんな問題じゃありません」
「そうだね。でも貴族には多いタイプだ」
「アレクシスや兄上は魔物を相手にしているだろう? だから度胸が付いているというか、慣れているんだね。しかし、情けない事だな」

 そんな話をしながら領主邸へと入って行く。それを見つけた父がまた大きな声で叫ぶ。

「叔父上! ロディ! 止まったかぁッ!?」
 
 もう大きな声だよ。みんなこっちを見ているじゃん。

「大丈夫だ!」

 ディオシスじーちゃんが手を挙げて応える。

「旦那達、ありがとうよ!」
「街を守ってくれてありがとう!」
「本当だよ! 領主は何もしないのにさ!」

 ああ、ほらやっぱ不味いぞ。
 少し領民達の声が収まってきた頃になってやっと領主らしき貴族が出てきた。
 いかにも、て感じの人だ。ちょっとでっぷりとしている。良いもん食べてんだろうなぁ。と、一目で分かる。着ている服もだ。贅沢しているんだ。

「……下水道工事を再開する事にした」

 蚊の鳴くような声で話している。そんな声だと皆に聞こえねーぞ。

「なんだって!?」
「何て言ってんだ!?」
「聞こえねーぞ!」
 
 ほらみろ、言われている。

「皆ぁッ! 静まれぇぃ!」

 また父の大きな声だ。こんな時は便利だな。よく通る大きな声だ。

「下水道工事を再開する事を約束してもらった! 急に工事が中断して仕事がなくなり困っている者もいただろう! 大丈夫だぞぅ!」
「おぉーッ!」
「最後まで下水道工事が終わったらもうこの様な事はないぞッ!」
「これからも変わらず頑張ってくれッ!」
「おおー!」

 なんだよ、結局父とユリシスじーちゃんで収めちゃった。最悪を心配していたんだが、父とユリシスじーちゃんの言葉で皆納得して大人しくなった。

「もしかして、噂のインペラート辺境伯じゃねーのか!?」

 どこからか、父の名前が上がった。
 そりゃそうだ。国では有名らしいからな。

「俺、見た事あるぞ! 辺境伯だ!」
「なんだって!」
「ありがとう!」
「辺境伯様、ありがとうございます!」
「「辺境伯!」」
「「辺境伯!」」

 声援の様な状態になってしまっている。
 国の守護神として有名な辺境伯だ。しかも、辺境伯が自分達の街を守ってくれた。そんな思いからか、父の名前を呼ぶ声が大きくなる。小さくなっていた領主がより小さくなっている。立場がないよな。今後、どうなるのか。不安だ。

「ココ、私達は戻ろう」
「でも父さま達が……」
「もう大丈夫だよ、ココ」
「はい、兄さま」

 宿へと戻る道すがら、何度も声を掛けられた。みな、ありがとうと言ってくれている。
 みんな見ていたんだな。
 そして宿に入ると大歓迎だった。

「あんた達、凄いじゃないか!」
「あんな魔法が使えんだな!?」
「坊ちゃんもカッコよかったぞ」

 と、揉みくちゃにされる。

「まさか辺境伯様御一行だとは思わなかったぜ」

 宿の主人らしき男性が声を掛けてきた。

「うちみたいな宿屋じゃなくて、もっと良い宿に泊まるんじゃないのか?」
「そんな事はないさ。あまり大っぴらにしないでくれないか?」
「おう、分かったぜ」

 大っぴらも何も、もう遅い気がするよ。だって、彼方此方で『辺境伯ばんざーい!』とか言って乾杯してるぜ。いいのかよ?

「仕方ないさ。人の口に戸は立てられないと言うだろう?」

 確かにそうだ。まるで、英雄だな。
 ディオシスじーちゃんとそんな話をしていた。ロディ兄や領主隊、メイドさん達も皆戻ってきた。なのに、父やバルト兄、ユリシスじーちゃんが戻ってこない。

「気にしなくても大丈夫だよ」
「ロディ兄さま」
「多分、領主邸で食事でもしているのだろう」
「え? そうですか?」
「今回は父上が事を収めたからね。あの領主も文句は言えないだろう」
「なら良かったです」
「何かあったとしても、あの領主には負けないさ」

 確かに、それはそうだ。軽く返り討ちにするだろうな。
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