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第3章 領地の防御

85ー良い機会

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「おう! 皆ここにいたのか!?」

 と、ユリシスじーちゃんの大きな声と共に爺ちゃん達が入って来た。ユリシスじーちゃんにディオシスじーちゃん、それに何故かずっと滞在しているシゲ爺だ。ユリシスじーちゃんの肩には霧島が乗っている。

「ディオお祖父様、どうでした?」
「ああ、まだ足取りがつかめん」
「どこに潜んでいるのか」
「もしかしたら、森に入っているのかも知れませんぞ」

 そう言っているのは、シゲ爺だ。

「シゲ爺、森に?」
「ああ、ロディ様。こんだけ領地内を捜索してもいないとすれば、森しかねーだろう?」
「え? だって森には……」
「そうだな、ココ。森には魔物がいるなッ!」
「ユリシスお祖父さま、だから森に潜伏するなんて自殺行為ですよ?」
「そうとも言えねーんだ」

 シゲ爺がそう言う。どうしてだ? 森なんて危険じゃないか?

「奴等な、相当訓練されてんだ」
「まあ、嫌だわ」

 空気が張り詰めそうになっていたのに母の呑気な一言で和らいだ。これは、天然なのか? それとも、態とか?

「ココ、天然だね」

 ロディ兄がまた俺の心を読んだぞ。そして頭を撫でられる。俺ってそんなに顔に出てる?

「お嬢さまぁ、今更ですぅ」

 そうかよ。分かったよ。

「で、その盗賊団だがな」

 ディオシスじーちゃんが話を続ける。霧島、話聞いてないな。クッキーに夢中じゃん。両手でクッキーを持ってガシガシと夢中で齧っている。

「ぐッ、ココ! 喉が詰まった! グフッ」
「はいはい、ほらお水よ」
「すまねーな!」

 霧島、落ち着こうぜ。俺は霧島のゴツゴツとした小さな背中を摩る。
 その、盗賊団をずっと追ってきたディオシスじーちゃんの見解だ。
 どうやら、盗賊団にしては統率がとれていて腕も立つらしい。しっかりと訓練されているらしいんだ。盗賊団で訓練されているなんて、そんな事あるのか?

「隣国で数年前に内乱があっただろう。その時に、あぶれた元兵士じゃないかと予測している」

 国境が接している隣国は大国だ。たしか数年前に起きた内乱も、皇帝一族の誰かが反乱を起こしたと勉強した覚えがある。だからと言って、元は国民を守る立場だった兵士がか?

「その内乱でかなり疲弊したのだろう。国内はまだ治安が悪いらしい」

 なんだよ、それ。だからって、兵士があぶれるのか? 逆に必要になる様な気がするんだけど。だが、それなら今回の事は王子とは無関係って事でいいんだよな?

「ココ、さすがに今回は無関係だろうね」

 また心を読まれた。頭を撫でるのも、セットでついてくる。いいけどさ。でも王子に関係なくて良かったよ。そう度々狙われるのはあまりにも酷い。

「では、お祖父様。森に?」
「ああ、俺達で行こうと思う」
「ワシも行くぞ!」

 え? シゲ爺、何言ってんだ!?

「もちろん俺も行くぜ!」

 霧島、もうクッキーは食べたのか?

「じゃあ、あたしも行きます!」
「ココちゃん」
「ココ、じゃあじゃないよ?」
「だってあたしも行きたいです!」
「ココちゃん、セリスアラーネアを捕獲しに行くのとは違うのよ?」
「母さま、分かってます!」
「ココ、さすがに連れては行けないな」
「ディオシスお祖父さま、どうしてですか?」
「どうしても何も、ココ。危険だ」

 別にさ、興味本位で着いて行くと言ってるんじゃないんだ。そりゃ、俺はこの世界ではまだ8歳だ。つい最近記憶が戻ったばかりだし。だけど、こっちの世界の家族や領地だって守りたいんだ。その気持ちは本当なんだ。
 今後、もっとピンチな場面が訪れるかも知れない。そんな時、実戦をまともに経験していないのは家族の中で俺だけだ。そりゃあ、小競り合いはあるけど経験が少ない。実戦の経験があるのと無いのとでは天地の差が出る。いざという時に、ものを言うのはやはり経験なんだ。なら、今回の盗賊団の事は丁度良いと言ってはいけないだろうが、俺はそう思うんだ。

「なるほどなッ!」

 どうやら、ユリシスじーちゃんが納得してくれたらしい。

「兄上?」
「ココ、ワシが連れて行ってやろうなッ!」
「ユリシスお祖父さま!」
「お義父様、本気ですか?」
「ああ! 良い機会だッ! な、ココ!」
「はいッ、お祖父さま!」
「なるほど、そう思っているのか。ココ」
「はい、兄さま」
「もう、仕方ない子ねぇ」
「母さま、あたしも父さまの子です」
「ふふふ、そうね」
「サキ、リュウ、頼めるかな?」
「はいぃ、ロディ様。もちろんですぅ」
「そうッス。お嬢なら行くと言い出すと思ってました!」

 咲、隆、悪いな。今世でまでさ。

「お嬢、何言ってんスか」
「そうですよぅ」

 ハハハ、ありがとう。

「ちょ、ちょっと待って。まさか、本当にココ嬢も行くの!?」
「はい、殿下」
「そんな……どうして? 危険なのに」
「殿下、ココなりに考えがあるのですよ」
「ココちゃんは言い出したら聞かないから」
「そんな……」
「殿下、あたしも辺境伯の子なんです」
「ココ嬢……」
「俺が守ってやるぜ! ココ!」
「頼りにしてるわ、キリシマ」
「おうよッ!」

 ハハハ、頼んねーけどな。ありがとうな。けど、盗賊団や魔物には負けないさ。

「あら、でもココちゃんの戦闘服がないわ」

 また、呑気な母だ。

「ココちゃんの戦闘服を例の生地で作りなさいな」
「母さま、そうですか?」
「ええ、丁度いいわ」

 あ……俺、実験にされてる?

「まあ、嫌だわ。ココちゃんにそんな事する訳ないじゃない」

 と、言いながら母はにっこりと笑った。ああ、怖い。あの生地にどれだけ防御力があるのか実験しようとしているよ。いやいや、そんな事はないと信じたい。
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