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第3章 領地の防御

72ー作業場

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「鈍っとるぞぉーッ!!」
 ――おおー!!
 ――はぁ~い!!

 早速だ。ユリシスじーちゃんが張り切って鍛練を仕切っている。

「ココ! なんだそのへっぴり腰はぁーッ!!」

 もう本当、止めてほしい。俺はまだ8歳なんだよ。

「一心精進!!」
 ――おおー!!
 ――はぁ~い!!

「一意専心!! 鍛練を疎かにするなぁッ!!」
 ――おおー!!
 ――はぁ~い!!

 メイドのお姉さん達、平気でついていっている。凄いよ。尊敬しちゃうよ。
 俺なんて自慢じゃないけどヘロヘロさ。一体いつになったら慣れるんだ? 一生慣れる気がしない。

「お嬢さまぁ、飲みますかぁ?」
「あ、ありがとう……はぁはぁ」

 鍛練が終わって、咲がスポドリ擬きをくれた。
 それにしても、じーちゃん元気だね。

「お嬢はまだちびっ子ッスから」

 隆、お前さあ。ちびっ子て言うな。チビだけど。

「お嬢さまぁ、しばらくお勉強の方はお休みなんですぅ」
「え、司教様来られないの?」
「はいぃ、教会の方が例の事件でバタついているそうなのですぅ」

 なるほどね、シスターを騙った者が辺境伯の邸を狙ったんだ。さて、教会はどうするのかな?
 王都に居る父にも、今回の事は報告された。翌日に早馬が出たからな。

「どうしますかぁ?」
「何もないなら作業場に行くわ」
「はいですぅ」
「お嬢、新しい小屋も建て初めてるッスよ」
「そうなの?」
「はい、裏の小屋の並びッス」
「そう、じゃあそっちを先に見に行こうかしら」
「了ッス」

 と、言う事で俺達は裏に建てているセリスアラーネアの飼育場兼作業場を見に行った。

「おうッ! お嬢! 来たか!」

 元気だよ。ドワーフの親方さんだ。この世界は元気なおじさんやじーちゃんが多いのか? 俺の周りだけか?

「もう土台は終わったからな。後は直ぐだぞ」
「ええ、親方。ありがとう」
「いやいや。俺ももらったんだよ。例の下着をさ!」

 お、おう。ロディ兄とそんな話をしていた事は知っていたが、本当に貰ったんだ。

「あれは良いなぁ~! 着心地が全然違うぜ!」
「でしょう? 良いでしょう?」
「ああ! また追加でもらったんだよ! もう前のは着れねーぜ!」

 親方、思う壺だぜぃ。そんな事よりもさ。

「親方、頼んだわ」
「おうよ! 任せときなッ!」

 ちょっと眺めてみる。もう骨組みはできている。ここは、セリスアラーネア専用の小屋になる。小屋とは言えないな。3階建てだ。立派なもんだよ。ロディ兄が頑張ってくれたのだろう。
 人も増えたし、一気に産業にまで持っていきたいもんだね。

「お嬢、忙しくなるッスね」
「そうね、作業場に行くわ」
「はいぃ」

 俺達はいつものセリスアラーネアの小屋へと向かった。そしたら、そこで作業している女性陣がなにやら揉めていた。

「仕方ないわね。覚えなきゃ」
「すみません~!」
「え? どうしたの? 何かあったの?」
「あ、お嬢様」

 リーダー役のミリーさんが話してくれた。
 なんでも、数種類のパターンに名前を付けて整理していたのだそうだ。パターンも種類が増えたからだ。例えば、ロディ用とかだね。それを表記してあったそうなんだけど。

「あたし、文字が読めなくて……」

 と、言っているのが1番年下のナタリーさんだ。

「ナタリーだけじゃないんですよ。マニューと新しく入った2人もです。それで、指示したものと違うものを持ってきてしまって」

 なるほど。この世界の識字率は低い。それが、問題になっちゃったんだな。

「すみません」
「仕方ないわ」

 しかしだな。今後、まだ種類は増えそうなんだよな。だから、ここで一層のことさ。

「ねえ、文字を覚えない?」
「え? そんな簡単に覚えられますか?」
「簡単よ」
「覚えたいです!」
「私も!」

 うん、良い感じだね。まあ、ミスったのは仕方ないさ。読めないんだからさ。
 なのに、前向きに勉強しようと考えられる事は良い事だ。

「じゃあ、覚えやすい本を探してくるわ」
「お嬢様! 有難うございます!」
「それまで少し不便だけど……ミリーさんとルリアさんは読めるの?」
「はい」
「はい、私も大丈夫です」
「じゃあ、皆が覚えるまでフォローしてあげてくれる?」
「はい、分かりました」

 こんなところで文字の問題が出るなんてな。思いもしなかったよ。

「お嬢さま、でも本ってどうするんですか?」
「そうね、取り敢えず書庫に行くわ」
「はいですぅ」

 でもなぁ、俺がこの世界で文字を覚えた時ってどうやって覚えたんだっけ?

「お嬢さまはカテキョが付いてましたからぁ」
「そっか。じゃあサキ達は?」
「一緒ですぅ。まだお嬢さまが生まれる前だったので、ロディ様と一緒に勉強しましたぁ」

 なるほど。前世の小学生が初めて文字を学ぶ様な本てないかなぁ。
 と、思いながら我が家の書庫へとやって来たのだが。

「ないなぁ……」
「お嬢、そんな本ないっスよ」
「はいぃ。この世界では見た事ないですぅ」
「じゃあさ、みんな子供の時ってどうやって文字を読めるようになるの?」
「貴族だとカテキョに教わりますね。お手製でペラッペラのお手本みたいなのをもらうんです。庶民はそんな本に触れる機会なんてないっスよ」
「そうなんだ……作るか」
「えッ?」
「だって、ないなら作るしかないじゃない」
「ふふふぅ」

 咲、何笑ってんだよ。

「だってぇ、前世売れっ子絵本作家ですからぁ」
「そうだな」
「得意分野じゃないッスか?」
「得意じゃないだろ。文字を覚える本なんて書いたことないし」
「そりゃそうッスけど」
「でも、子供用のは慣れたものですよねぇ」
「子供用じゃないだろ? 大の大人が文字を覚えるんだ」
「お嬢、一緒ッス」
「そう?」
「そうッス。初めて文字を覚えるんスから」
「そうかなぁ……」

 取り合えず、原案を考えてみるか。
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