137 / 137
第三章
閑話 ルルのやらかし 3
しおりを挟む
ここはオーベロン王国辺境の地、ティシュトリア公爵領。リッシュ湖という豊富な水源が有り、自然豊かで気候にも恵まれた平和な地です。
辺境故に魔物が生息する森が隣接していますが、屈強な領主やそれに追従する領主隊達の力により領内は安全に保たれています。
そんな平和な地を揺るがすかの様な大きな声が、ティシュトリア公爵邸の中に響きます。
「イワカムー! イワカムー!」
紫掛かった銀糸の髪をおさげに結ってもらった小さな女の子が、飛び跳ねる様に駆けて行きます。公爵家の末っ子令嬢です。その横には、女の子を守るかの様に直ぐそばをこれまた飛ぶ様に駆けて行く小さなシルバーのトイプードルが一緒です。
「キャンキャン!」
「イワカムー! どーこー!」
「ルル嬢様! どうしました!?」
と、厨房から顔を出したのは、料理人見習いの少年です。
「いた! イワカム!」
さてさて、この女の子。今日は何を仕出かすのでしょう?
「イワカム、モーモーちゃんのミルクある?」
「ありますよ。飲みますか?」
「飲まないの! バターを作って! イワカム!」
小さな女の子は、さっさと厨房に入り勝手に座ってます。女の子の足元にはシルバーのトイプードルも小さな丸い尻尾をフリフリしながらお座りしています。
「嬢様、バターて何スか?」
「美味しいものよ! うんとね、パンに入れて焼いたり、クッキーに入れたり、パンに塗って食べたりするの!」
「そうなんスか?」
「イワカム、瓶にミルクを入れてちょうだい」
料理人見習いの少年は、瓶を持ってきてミルクを入れます。
「はい、これでいいですか?」
「うん、しっかり蓋をしてちょうだい」
「はい、しましたよ」
「そしたらイワカム、瓶を振って!」
「振るんですか?」
「そうよ、思いっきり振って!」
「はい、こんな感じッスか?」
料理人見習いの少年は、言われた通りに瓶をシャカシャカ振ります。
「そう! 振って!」
「はい、嬢様」
シャカシャカシャカシャカ……
「嬢様、まだですか?」
「まだよ、まだ振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカ……
「もっと振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカ……
「まだまだ振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ……
「嬢様、まだッスかー?」
「まだまだよ。またまだ振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ……
「あれ? 嬢様、重くなってきました」
「もっと振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ……
「あれ? 嬢様、固まってきましたね」
「イワカム、もう少しよ! 頑張って!」
「はい、嬢様!」
ジョボジョボジョボジョボジョボジョボ……
「イワカム、見せて」
「はい、嬢様。はぁはぁ…」
料理人見習いの少年はかなり疲れてますね。ずっと瓶を振らされてますからね。
蓋をパカッと開けました。
「イワカム、濾してほしいの!」
「濾すんスか?」
少年は濾す為のザルと器を持ってきました。
「嬢様、濾しますよ……固まりましたね」
「イワカム! 完璧よ! ジャガイモを蒸してちょうだい!」
「今度はジャガイモですか?」
「そうよ。早く!」
「はい、嬢様」
少年はジャガイモを蒸しに掛かります。
「嬢様、ジャガイモをどうするんスか?」
「今作ったバターを塗って食べるの!」
「食べるんスか?」
「そうよ、イワカム。美味しいわよー!」
「嬢様、パンに入れて焼くと言ってたのは?」
「えっとね、コネコネして丸く出来たらバターを入れてまたコネコネするの」
「ほう。じゃあ、クッキーに入れるのは?」
「一緒よ。粉を捏ねる時に入れてコネコネしてから焼くの」
「なるほど」
この少年、女の子の無茶振りに慣れっこなのか、聞き出してしっかりメモをとってます。
そうこうしている内に、ジャガイモが蒸しあがりました。
「嬢様、できましたよ」
「イワカム、バッテンに切ってちょうだい」
「こうですか?」
少年はジャガイモを十字に切ります。
「そこにバターをのせるの!」
「こうですか?」
ホワッと良い匂いがしてきました。
「イワカム、一緒に食べるわよ!」
「はい! 嬢様!」
二人でハフハフしながらジャガイモにバターをのせて口に入れます。
「美味しいー!」
「嬢様! 美味いッス!」
この日からこの邸ではバターが使われる様になりました。そして、バター作りはイワカムと呼ばれていた少年の仕事になりました。
この一部始終を影に隠れて見ていた少年が二人。
「イワカム、かわいそうー」
「ルルは何考えてんだー?」
等と言いながら、必死に笑いを堪えています。一人はフンワリした紫掛かったシルバーヘアに瑠璃色の瞳をした利発そうな男の子。もう一人は、紫のサラサラヘアに翡翠色の瞳をしたヤンチャそうな男の子です。
この二人が女の子と一緒にモーモーちゃんと言われる魔物を捕獲してきた張本人です。
影から見ていた少年二人と、バターを作ると言っていた女の子は、この侯爵邸の子供達です。まだまだ3人共、やんちゃ盛りです。
次は何を仕出かすのやら。楽しみです。
辺境故に魔物が生息する森が隣接していますが、屈強な領主やそれに追従する領主隊達の力により領内は安全に保たれています。
そんな平和な地を揺るがすかの様な大きな声が、ティシュトリア公爵邸の中に響きます。
「イワカムー! イワカムー!」
紫掛かった銀糸の髪をおさげに結ってもらった小さな女の子が、飛び跳ねる様に駆けて行きます。公爵家の末っ子令嬢です。その横には、女の子を守るかの様に直ぐそばをこれまた飛ぶ様に駆けて行く小さなシルバーのトイプードルが一緒です。
「キャンキャン!」
「イワカムー! どーこー!」
「ルル嬢様! どうしました!?」
と、厨房から顔を出したのは、料理人見習いの少年です。
「いた! イワカム!」
さてさて、この女の子。今日は何を仕出かすのでしょう?
「イワカム、モーモーちゃんのミルクある?」
「ありますよ。飲みますか?」
「飲まないの! バターを作って! イワカム!」
小さな女の子は、さっさと厨房に入り勝手に座ってます。女の子の足元にはシルバーのトイプードルも小さな丸い尻尾をフリフリしながらお座りしています。
「嬢様、バターて何スか?」
「美味しいものよ! うんとね、パンに入れて焼いたり、クッキーに入れたり、パンに塗って食べたりするの!」
「そうなんスか?」
「イワカム、瓶にミルクを入れてちょうだい」
料理人見習いの少年は、瓶を持ってきてミルクを入れます。
「はい、これでいいですか?」
「うん、しっかり蓋をしてちょうだい」
「はい、しましたよ」
「そしたらイワカム、瓶を振って!」
「振るんですか?」
「そうよ、思いっきり振って!」
「はい、こんな感じッスか?」
料理人見習いの少年は、言われた通りに瓶をシャカシャカ振ります。
「そう! 振って!」
「はい、嬢様」
シャカシャカシャカシャカ……
「嬢様、まだですか?」
「まだよ、まだ振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカ……
「もっと振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカ……
「まだまだ振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ……
「嬢様、まだッスかー?」
「まだまだよ。またまだ振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ……
「あれ? 嬢様、重くなってきました」
「もっと振って!」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ……
「あれ? 嬢様、固まってきましたね」
「イワカム、もう少しよ! 頑張って!」
「はい、嬢様!」
ジョボジョボジョボジョボジョボジョボ……
「イワカム、見せて」
「はい、嬢様。はぁはぁ…」
料理人見習いの少年はかなり疲れてますね。ずっと瓶を振らされてますからね。
蓋をパカッと開けました。
「イワカム、濾してほしいの!」
「濾すんスか?」
少年は濾す為のザルと器を持ってきました。
「嬢様、濾しますよ……固まりましたね」
「イワカム! 完璧よ! ジャガイモを蒸してちょうだい!」
「今度はジャガイモですか?」
「そうよ。早く!」
「はい、嬢様」
少年はジャガイモを蒸しに掛かります。
「嬢様、ジャガイモをどうするんスか?」
「今作ったバターを塗って食べるの!」
「食べるんスか?」
「そうよ、イワカム。美味しいわよー!」
「嬢様、パンに入れて焼くと言ってたのは?」
「えっとね、コネコネして丸く出来たらバターを入れてまたコネコネするの」
「ほう。じゃあ、クッキーに入れるのは?」
「一緒よ。粉を捏ねる時に入れてコネコネしてから焼くの」
「なるほど」
この少年、女の子の無茶振りに慣れっこなのか、聞き出してしっかりメモをとってます。
そうこうしている内に、ジャガイモが蒸しあがりました。
「嬢様、できましたよ」
「イワカム、バッテンに切ってちょうだい」
「こうですか?」
少年はジャガイモを十字に切ります。
「そこにバターをのせるの!」
「こうですか?」
ホワッと良い匂いがしてきました。
「イワカム、一緒に食べるわよ!」
「はい! 嬢様!」
二人でハフハフしながらジャガイモにバターをのせて口に入れます。
「美味しいー!」
「嬢様! 美味いッス!」
この日からこの邸ではバターが使われる様になりました。そして、バター作りはイワカムと呼ばれていた少年の仕事になりました。
この一部始終を影に隠れて見ていた少年が二人。
「イワカム、かわいそうー」
「ルルは何考えてんだー?」
等と言いながら、必死に笑いを堪えています。一人はフンワリした紫掛かったシルバーヘアに瑠璃色の瞳をした利発そうな男の子。もう一人は、紫のサラサラヘアに翡翠色の瞳をしたヤンチャそうな男の子です。
この二人が女の子と一緒にモーモーちゃんと言われる魔物を捕獲してきた張本人です。
影から見ていた少年二人と、バターを作ると言っていた女の子は、この侯爵邸の子供達です。まだまだ3人共、やんちゃ盛りです。
次は何を仕出かすのやら。楽しみです。
58
お気に入りに追加
1,086
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる