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第一章

36ー断罪

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「あ、ジュノー様あちらにいらしたわ」
「お父上と一緒だな」

 まだ第2王子は挨拶受けてるもんね。てか、男爵令嬢めっちゃ睨んでくるし。マジでレオン様狙いなんじゃないの? 怖いわー。

「ルル、離れるんじゃないよ」

 と、レオン様が腰に手に力を入れます。だからと言って、くっつくこともないと私は思う。

「だって男爵令嬢めっちゃ睨んでるし」
「いいじゃないか。俺達は婚約者なんだから」
「ルル。あそこ、サクソン・モルドレッド侯爵だ」

 黒幕ですか。ラウ兄様が見つけました。これだけの人数がいると、どこに誰がいるのか分からないわ。ジュノー様から目を離さない様にしなくちゃね。
 そして、貴族の挨拶が全員終わった頃です。

「何か空気が変わってきたぞ。皆、ジュノー嬢の近くまで移動だ」

 お父様の指示が入りました。お父様、勘がいいのよね。
 その時突然、第2王子の声が響きました。

「ジュノー・クロノス! 本日たった今をもってお前との婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」

 突然始まりました。第2王子が婚約破棄を告げています。第2王子の腕には、例の男爵令嬢が身体を擦り付ける様にしてくっついています。

 ――キラン……

 ん? 今、光ったな。

「お前は、シャーロット・プロセル嬢に嫌がらせをしていたな!」
「殿下、私はその様な事はしておりません」
「嘘をつけ!」
「殿下、わたしは怖かったですぅ。先日もシュークリームを態とぶつけられて、ドレスを汚されてしまいましたぁ!」

 ――キラン……キララン……

「可哀想なシャーロット。私が代わりに断罪してやろう!」
「殿下、殿下の真実のお相手はそちらの方ですか?」
「何をしらばっくれているんだ! シャーロットに嫉妬して、嫌がらせをしていただろう!」
「全く身に覚えがございませんわ」
「殿下、酷いですぅ。わたしが嘘を言っているみたいですぅ」

 ――キララン……

「婚約破棄はかまいません。確と承りました。しかし、無実の罪を着せられるのは嫌で御座います。証拠をお見せ下さい」

 ジュノー様、頑張ってる! なんて健気なの。よく見たら身体が震えてるのに、それでも頑張ってる。て言うか、男爵令嬢めっちゃニヤけてるじゃない! 気がつかないの? このバカ王子が!

「レオン様、見えました? めっちゃキランキランしてましたよ」
「マジで? 俺、見えないわ」
「バッカス、この様な場でそんな大事な事を決めるものではない。控えなさい」

 あら、第1王子はマトモね。

「兄上、私はこんな卑怯者は許せません!」
「黙りなさい。陛下の御前だぞ」
「兄上!」
「畏れながらバッカス殿下」
「オーベロン公爵」

 私のお祖父様の事ですね。さぁ、反撃開始です。

「失礼ながら、先程からその腕に着けてられるブレスレットがチクッとしませんでしたか?」
「オーベロン公爵、何を言って……」
「どうか、殿下も……そして皆様方も腕のブレスレットをご確認下さい。透明だった石が真っ黒になっておりませんか?」

 お祖父様が、会場にいる皆様へ声を大きくして呼びかけられます。一気に会場内がザワつき始め……

 ――何だ、これは?
 ――やだわ、気持ち悪い。真っ黒だわ!
 ――どう言う事なんだ?

 と、会場内がざわつき始めました。

「皆様にお配りしたブレスレットは、あるスキルを無効化するものなのです。そして、そのスキルを受けるとピリッと痛みが走り透明だった石が黒く変化する魔道具なのです」
「オーベロン公爵、何を仰っているのですか?」
「バッカス殿下、ご自分の手元をご覧下さい。真っ黒でしょう?」
「……ッ!!」
「これは、そこのシャーロット・プロセル男爵令嬢がスキルを使用した証拠です!」
「オーベロン公爵、何を……シャーロットがそんな事をする筈がないです!」
「酷いですぅ! わたしはなにもしておりませんわぁ」

 ――キララン……
 ――チクッ!

「……ッ! シャーロットがそんな事をする筈がない!」
「皆様、今チクッとしませんでしたか?」
 ――したわ!
 ――あぁ、確かに令嬢が喋った途端チクッとした
 ――一体、何のスキルなんだ!

 会場内がより騒つきます。

「陛下、王子殿下。シャーロット・プロセル男爵令嬢が使ったスキルは、魅了です!」
「なんとっ!?」
「オーベロン公爵、魅了なんて今はもう失われたと言われるスキルではないですか!?」

 陛下だけでなく、第1王子も驚いてらっしゃいます。

「そうですな。魅了は目に見えませんからな。しかし実際に魔道具は反応しております」
「そんな! シャーロットを虐めた証拠があるんだ!」
「バッカス殿下、その証拠とはなんでしょう?」

 お祖父様が片手を挙げられました。合図です。そして会場に大きく映し出された。
 そう、シュークリーム事件の証言よ。

『二人のお嬢様が店から出てくるのを狙って、ピンク色した髪の令嬢が自分からぶつかりに行ったんだ』
『そうよ、私も見たわ。狙ってぶつかってたわ』
『栗色の髪のお嬢さんが、態とぶつかったって? 違う違う逆だよ。ピンクの髪のお嬢さんが侍女達を避けて態とぶつかりに行ったんだ。しかもよ、自分のドレスにシュークリームが付くようにだぜ』
『そうそう! しかもその後如何にも自分がやられました、て態とらしく泣き叫んだんだ。可哀想に栗色の髪のお嬢さんは泣いてしまってよ。気の毒で見ていられなかったぜ』
「これは……これは何だ!?」
「殿下、これは先日シャーロット嬢がジュノー嬢へ態とぶつかりに行ったと言う証言です」
「違うわ! わたしはぶつかられてドレスを汚されたのよぅ!」

 ――キラン……
 ――チクッ!

 ――きゃあ、またチクッとしたわ!
 ――ブレスレットの石が真っ黒だ!
 ――なんて酷い嘘をつくんだ!
 ――ジュノー嬢、お可哀想に!

 会場が騒然とします。さらに、学園での証言も続きます。

『何度も何度も、ジュノー嬢を陥入れようと、自分で服を汚したりさも意地悪された様に騒ぎ立てたり。酷いものでした』
『今から思えば、何故あんな令嬢の肩をもったのか。気持ち悪い程身体を擦り付けてくるんです』
『私は見ました! 自分で自分の本を破いて、ジュノー様のせいにしたんです!』
『バッカス殿下の前では泣いていても、陰ではしてやったりと高笑いしていましたね』

 ……うわ、酷いわね。

「殿下、証拠とはこの事ですか?」
「そ、そんな! そんなバカな! シャーロットがその様な事をする筈がない! 罠だ! そう、罠なんだ! なんて卑怯なマネをするんだ!」

 その時です。突然、男爵令嬢が前に出て話し出しました。

「レオン様! レオン様はわたしを助けに来て下さったのでしょうぅ? いらして下さったのですよねぇ!」 

 やっぱり、隠しキャラ狙いだ。確定だわ。

 ――キラン……

「わたしの事を連れ出して下さるのですよねぇ!」

 ――キララン……

「シャーロット! 君は何を言ってるんだ!?」

 第2王子が目を見張ってます。レオン様は淡々と仰います。

「私は貴女など存じ上げませんが?」
「そんなぁ! レオン様ぁ!」

 ――キラン……キララン……

「本当は私、レオン様をお待ちしていたんですぅ!」

 ――キララン……

「私はルルーシュア・ティシュトリア嬢の婚約者です。男爵令嬢如きが馴れ馴れしく皇族の名を呼ばないで頂きたい!」
「え、なんでぇ? レオン殿下はわたしの事を愛して下さってますよねぇ!」

 ――キララン……キラン……

「シャーロット・プロセル嬢、帝国皇子に対して無礼だぞ! 控えなさい!」
「そんなぁ、陛下! バッカス王子! どうしてぇ!? こんなのおかしいですぅ! わたしはヒロインなのにぃ!」

 ――キランキラン……

「兵よ! シャーロット・プロセル嬢を取り押さえなさい!」
「えぇー! こんな筈ではぁ……!」

 警備していた近衛兵が、男爵令嬢を抑えます。

「やだぁ! 痛いですぅ! 離して下さいー!」

 ――キランキラン……

 兵達は微動だにしません。

「どうして? どうして効かないのぉ! レオン殿下、助けて下さいー! 殿下はルルーシュア様に騙されているんですぅ!」

 ――キララン……

 まだ言うか!! 誰にも魅了は効かないのよ!

「陛下、バッカス殿下にこの解呪薬をお飲み頂きたいのですが、宜しいでしょうか?その令嬢のスキルを解呪するものです。あぁ、毒見は私が致しますので」

 お父様が魅了を解呪する解呪薬を差し出しました。

「ティシュトリア公爵、毒味などよい。バッカス、その解呪薬を飲みなさい」
「父上!」
「どうした? その令嬢を信じているのだろう? 帝国第3皇子のレオン殿下にも言い寄っている様だがな」

「……ッ! 分かりました、父上。ティシュトリア公爵、その解呪薬をこちらへ」
「どうぞ、殿下」
「こんなものを飲んでも私の気持ちは変わらないぞ!」

 バッカス王子は一息に飲んだ……。
 バッカス王子の身体の頭上から足元まで光のヴェールが通り過ぎて消えていきました。

「殿下、ご気分は如何ですかな?」
「……え? 私は一体何を……?」
「バッカス殿下、婚約破棄は承りました。私の無実も証明された事と存じます」

 ジュノー様の言葉です。静かに怒ってらっしゃるのが、伝わってきます。

「なんだと!? ジュノー嬢どうして!?」

 あれ? 第2王子、何言ってるの?

「先程、ご自分で仰っていらしたではないですか?」
「バッカス殿下、失礼ながら我が娘をここまで貶められて親として黙ってはいられませんな」
「……オーベロン公爵、ティシュトリア公爵、クロノス侯爵。皆、別室へ来てはくれまいか」

 陛下が項垂れていらっしゃいます。
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