ショートストーリーまとめ

そんな男はある日貴族に見染められた 20230626

ある所にとても綺麗な男がいた。綺麗で心まで美しく、非の打ち所があるとすればその出自が孤児だった事だ。
そんな男はある日貴族に見染められた。当然だと思う反面何故あいつがと思う人間がいた。少しでも白い目で見られれば良いと「淫売だ」とありもしない噂を流し、それは尾ひれをつけて街中に広まる。美しく清廉な男を疎ましく思う人間だけではなく、仲の良かったはずの周囲にまで手のひらを返された男は、理由が分からず混乱する。そして男を見染めたはずの貴族すらその噂を信じて男を突き放した。
男は傷心のまま街から消えた。
周囲は「ほら見ろやましい所があるからだ」「前から胡散臭いと思っていた」「騙されるところだった」と嗤う。男が消えてしばらくはその話題で楽しめた。

1年経った頃、突然隣国の侵略を受けたこの国はあっさりと負けて属国となった。統治する隣国の王が現れたがその隣にはあの美しい男が寄り添っていた。
「裏切り者！」「淫売め！」口汚く罵る彼らを隣国の王は斬らせる。そして男があの時の真実を話す。だが彼らはやはり「自分たちは騙されただけ」「それなら男も違うとちゃんと説明するべきだった」と言う。
直接何も言わず遠巻きに噂した彼らは自分たちに非がないと信じて疑わない。攻撃した訳でも直接非難した訳でもないというのに、何故、と。
男はもはや何も言わなかったが、隣に立つ王は静かに彼を抱きしめた。

彼らは生涯その重い課税に苦しみそして男を呪いながら生きたという。