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人外くんと社畜くん ※死にネタ含む 20230627

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人間がかつて愛玩動物として存在してた世界線。いまはもう存在すら忘れられた世界に突如人間が集団で現れた。そこに住む人外たちは大騒ぎ。何この可愛らしい生き物!?となる。言葉は通じるものの、環境に適応できず既に何匹かしんでしまってる繊細さに人外たちはちょっとビビる。
過去の文献引っ張り出してあれこれ協議した結果、動物園の一角に人間コーナーを作って保護するのが1番、ということになった。ニホンという世界から転移してきたと主張する彼らの生きる環境を整えてやる事にした。
さて人間たちが人外に保護される中で一匹取りこぼしがあった。
日々の激務で疲れ切り、部屋の隅の隅に丸まって寝ていた社畜くんだ。この世界にやってきたのはタチの悪い夢だと寝た彼は、気がつくと頃には周りには誰もいなくなっていた。
知らん材質の建物や妙に大きな間取りに焦る社畜くん。ウロウロしている所をある人外に見つかった。
掃除夫として働く人外くんだ。人間とやらが現れた噂は聞いていたけれど動き回る社畜くんを見てびっくりする。その小ささと愛らしさに、長年独り身だった人外くんは一瞬で虜になる。
「うちにくる?」おずおずとそう提案する。社畜くん警戒するもののこのままここにいても仕方ないと腹を括る。こうして社畜くんと人外くんの生活が始まった。
一緒に暮らしてみて分かったが、人外くんは結構そそっかしい。いつも大きな体を折り曲げて「ごめんねごめんね」と謝る。長年働く職場でもイマイチな扱いを受けているらしい。あの大きな建物をたった一人で掃除してるのだとか。社畜くんは呆れたけれど「情けなくてごめんね」と謝らせてしまって胸が傷んだ。
人外くんは社畜くんを大切にした。仕事の拘束時間が多くて留守がちだけど、それでも急いで家に帰って社畜くんとの時間を大切に過ごした。
社畜くんは外には出られない。
だけどだだっ広い家の中(人外くんは狭くてごめんねと言うがそもそものサイズ感が違うのかもしれない)、貰った板切れや小枝でDIYを楽しんだり、バカでかい調理器具を使って謎の食事を生み出したりするのは楽しかった。
気がつけばあっという間に月日が流れる。
一緒に暮らして10年経つ頃、人外くんが倒れた。人間に比べて格段に長寿だと聞いていたから社畜くんは焦った。人外くんは社畜くんのそれを「自分が死んだら保護先を失う」だと思い「大丈夫だよ、僕が死んだらちゃんと国に引き取って貰えるから」と伝えた。独身の人外くんだから万が一の際には全ての家財は国に吸収される。それは当たり前の事だったし、ペットは適切な場所に移管されるから悪いことではない。人外くんは社畜くんを心配させないようにそう言ったのに、社畜くんは見たことないような顔をした。まゆ根を寄せて瞳には薄く液体をたたえてる。
そのまま伏せる人外くんの上で、社畜くんは目からボロボロ液体を零して叫んでいた。死ぬな、とかお前がいい、とか。それと「お前が好きなんだ」とも。
ひょっとして求愛行動だろうか、それとも何か別の意味が?と考える人外くんに、社畜くんはぎゅうぎゅう抱きついて離れない。
可愛い可愛い社畜くんだ。どちらにせよ人外くんにとっては嬉しいことでしかない。
混乱する社畜くんに丁寧に説明した。こうして何度か動けなくなる時間が増えるけど、まだまだ生きられる事。短命の人間に比べて長寿だけど、そもそも人外くんはもう随分年嵩な事。その時間は恐らくあと30年ぽっちしかない事。そう伝えると社畜くんは目をまん丸に見開いた。それからまた目から液体を零しながら人外くんにしがみつく。
どうやら30年もすれば社畜くんも平均寿命とやらになるらしい。じゃあ死ぬまで一緒にいてね、と人外くんが笑うと社畜くんは顔を赤くした。どうやらその言葉は人間たちの求愛の定番らしい。
その後2人の生活はあまり変わらなかった。だけど前より甘い空気が漂って、社畜くんは身体を擦り寄せる事が増えていたし、人外くんも社畜くんが以前にも増して可愛く見えた。思わず素肌に触れてしまって慌てて離そうとする人格くんを社畜くんは引き止めたりーーつまり、そういう事にもなった。

優しくて穏やかな毎日を過ごした。長い間1人で生きた人外くんにとってそれは人生で1番幸福な時間だった。倒れる事も増えていよいよかなと覚悟してたある日、社畜くんの方が先に死んだ。
社畜くんは眠るようにして息をひきとっていたのだ。人外くんは喜んだ。彼を一人にさせずに済んだと。最後までそばに入れたことを誇らしく思った。
喜ぶ人外くんの瞳部分から、ボロボロと何か液体が零れた。それは初めての経験だった。拭っても拭ってもそれはこぼれ落ちる。
それが社畜くんの言う「涙」だと気がついた。悲しい時嬉しい時人間は涙をこぼすらしい。
人外くんにはそんなものはなかった気がする。不思議な事もあるものだと思って人外くんは笑った。だけど笑いは保持出来なくて、それは咽び泣きに代わり、溢れる嗚咽と涙を止められない。
ひとしきり泣いて、泣いて、泣いた。人外くんはその涙の意味を分からなったけど、その間ずっと社畜くんの事だけ考えていた。大好きで愛していた大切な彼のことを。
翌日、人外くんはその長い生涯を閉じた。眠るように横たわる彼を国の人間が処理しにいくと、その腕の中には
人間がいた事に驚いた。寄り添うように大切にそれを抱えていた人外くんは、それはもう幸せそうだったという。


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