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【クレナイ視点】襲来

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 一部屋で一人ずつ寝ていたベッドを、昨晩は二つぴたりとくっつけた。
 そうして夜を過ごし、今は朝日が差し込む室内で、腕の中で眠るスイを抱きしめてまどろんでいた。一晩どろどろに溶けあった体はもうぐちゃぐちゃで、最後は倒れ込むようにして眠りについた気がする。
 起きたら一緒に風呂だなと考えていると、上空から何か強い気配がした。
 ――魔物?
 いやそれはない。神通力に近い何かを感じるそれは、この世界に迷い込んでから感じたことのないもの。だが問題ない、どんどんこの家に近づくなにかから、俺はただスイを守るだけだ。いつでも神通力を解放できるように、俺は体に気を纏わせる。

 200、100、50――距離は徐々に詰まってくる。

――ドォン……!

 庭に落ちた、いや降りたらしいそれの衝撃で家が大きく揺れ、腕の中の男が身じろぎをした。

「んんん……?クレナイ……?」

 寝起きのぽやっとしたスイが、あどけない顔で俺の名を呼ぶ。昨晩あんなに呼んでもらったはずなのに、懲りもせず欲望が高まるが今はそれどころではない。
 何者かがこの家に、結界石のある敷地内に侵入をしたのだ。

「スイ、すまない。何か――いや誰かがこの家に――」

「スイ!元気にしておるか!おじいちゃんが帰ってきたぞおおおお!」

 激しい音とともにドアを蹴破り、現れたのは長い銀髪の美青年だ。かっちりとした詰襟のジャケットは繊細な柄が織り込まれ、この辺では見ないような明らかに生活レベルの違う人種だし、全身から迸る神通力がその辺のニンゲンとは異質だと告げている。
 しかも、こいつは何と言った?

「ふあ……?おじいちゃん……?なあに帰ってきたの?」

 寝ぼけたスイが体を起こしそう応える。が。真実この男が育ての親と聞いていた祖父ならば。

「……スイ?おぬし?なんだねその……体の痕と……そもそもその男とどどどど同衾を??」

 ふむ、確かに情事の色を濃く残したスイを身内に見せるのは目の毒だろう。近くにあった俺のシャツをスイにすっぽりと被せた。多少大きいだろうが問題はない。

「初めまして、スイの伴侶のクレナイだ。よろしく頼む祖父殿」

「ふえ!?は、伴侶!?えっ僕……伴侶なの?」

「嫌か?」

「えっ、……ううん、嬉しい、けど」

「おぬしらああああっ!じじいの前でいちゃつくより先に服を着ろおおおおおお!!!」

 神秘的な美貌の持ち主はキイキイと喚く。確かに俺は素っ裸のままだし着衣の必要はあるだろう。とにかく。

「祖父殿、すまないが風呂に入らせてもらって宜しいか。スイの中を子種を掻き出してやらないと――」

「だから身内に言うもんじゃ無かろうが!!破廉恥だぞ貴様!」

 騒がしい祖父殿を置いて、ひとまず風呂を沸かしに行った。


――――――


 湯上りにくたりと脱力するスイにざっと服を被せ、その身体を抱きしめてキッチンで待つ祖父殿の元へ向かう。湯上りのスイはオレと同じ石鹸を使っているはずなのに良い匂いがする。
 ドアを開けると長い脚を組み、いかにも不機嫌といった様子の祖父殿がいた。

「遅いっ!お前たちどれだけ待たせるのだ!」

 騒がしい祖父殿を尻目に、椅子に座り自分の膝にスイを抱く。少ししっかりしてきたスイに水を飲ませると、すっきりとした顔をした。

「すまない、掻き出すついでに盛り上がってしまって」

「お前本当にデリカシーに欠ける男じゃな!?スイっ、こんな男が伴侶でいいのか!おじいちゃんがもっと良い嫁でも婿でも探してやったぞ!?人族でも獣人でも竜人でも!何もこんな異界の男を選ばんでも良かろうに!」

「……なぜ」

 オレは一度も異世界から迷い込んだと話した事は無い。そう、スイ相手にもまだ話していない事を、何故この男は知っている?

「はー!ほんに番いとはやっかいなものよスイ!異世界から番いを引き寄せるとは、薄くなったとはいえ竜の血がそうさせたのかの?」

「は?」

「ふぇ!?つ、つがい!?」

 番い、引き寄せる、竜の血。
 思いもよらなかった方向から、どうやら俺とスイが出会った理由を知る事となった、らしい。
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