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髪の毛を洗って

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 家に着くとさすがにもう日暮れだった。いや、徒歩3日の距離を半日で移動できたというのもおかしな話なんだけど。
 
 さあ、話を。と思ったけれど、森の中を移動してきたからか少し体が埃っぽい。
 そして僕はともかく、大人の男を一人抱えて疾走したクレナイの疲れも心配だ。

「ねえ――」

「スイ、一緒に風呂に入らないか。髪を、洗って欲しい」

「うん?うん、もちろん良いけど」

 疲労回復にも入浴は効果的だ。僕は早速家の裏に回ると、乾かしていた薪をくべた。 


――――――

 しっかりと筋肉が盛り上がった身体は、同じ男であるはずの僕のものと全く違う。豪快に服を脱ぐクレナイの横で、僕は何故か恥ずかしくてシャツを外す指が遅くなる。

「スイ、風呂が冷める。手伝う」

「え……ひゃ、ちょ……っ」

 一糸まとわない姿で何のためらいも無く僕の服を脱がしていく。これは何だか子どもの頃の逆転のようだ。

「まっ、わ、あ!」

「スイを待っていたら日が暮れる」

 森の移動ですっかり慣れたはずの抱っこだって、お互い生まれたままの姿となると話は別だ。触れた男の肌の感触はしっとりとしていて、それは昨晩の触れ合いを思い出させた。
 鼓動が早まる僕をよそに、洗い場で静かに下ろしてくれるクレナイの表情は変わらない。ドキドキしているのは一人だけかと思うと、何だか年上として悔しい気持ちだ。

 でも、ただの親子だと思っていた時でも、クレナイが少し大きくなると一緒に入ることなんて無かった。変化した二人の甘い関係に、なんだかくすぐったさを感じる。

「よし、じゃあクレナイそこに座って。洗ってあげる」

「ん」

「目を閉じててね、お湯、かけるから」

 言われるがままに目を閉じる、年下の男の髪の毛を濡らしていく。手のひらで石鹸を泡立てて、膨らんできたところでその赤毛に乗せた。
 ふいに初めてお風呂に入れた日のことを思い出す。あの時は髪の毛を洗おうとして嫌がられたんだっけ。

「あれ……?」

 座ったクレナイに向き合って、濡れた赤髪に指を絡めると、コツンとなにかに当たった。探ると髪の毛の中に、尖った小さな何かが2つ。

「これ……もしかして、つの?」

 この子が幼いときもたしかあった。
 その時はコブかしこりかと思っていたけど。

「俺の育った里では、角は誰にも触らせない」

 僕は驚いたが、静かに言葉に耳を傾けた。彼が、ここに来る前のことを話すのは初めてだからだ。
 閉じていた赤い瞳がゆっくりと開き、そして視線が重なる。

「俺たちxxxにとって、角は神聖なものだ。裸も、数え3つからは親であろうと見せない。だから――初めてスイに風呂へと誘われた時は驚いたし、剥かれたときは何事かとおもった」

 ふふ、と目を細めるクレナイ。
 あの時の事は、僕もよく覚えている。お風呂を嫌がっていた子どもは日に日に汚れていくし、本当に必死で――たしかに引ん剝いた気もする。
 腰にそっと手を回され、優しくその膝に抱えられる。
 耳元で低く甘く囁かれるクレナイの声はとても心地よい。

「俺の角はxxxxxをすることで生えると言われていた。だが相手が見つからないままオレはスイの元に流れ着いた。そして拾われ――スイを愛した。だからきっとオレがここに来たのは運命なのだろうとおもう」

「うんめい……」

 泡のついた僕の手を、クレナイは握りしめる。
 運命なんて、そんな美しいものなのかはわからない。おとぎ話のような美しさがここにあるのかもわからない。
 だけど美しく微笑むこの子が、こんなにも幸せそうにしてくれるなら、きっとこれは僕の運命なのだろうと、そう受け入れられた。
 
「触っただろう、角を。xxxxxをしたことで、スイを愛する永久の近いを立てた。そうしえて生えてきたこの角は、オレの愛の証なのだと思う」

「うん」

 握った手を、その角に導かれる。
 柔らかな濡れた癖毛の中には、確かに二つの角があった。

「xxx……、そうだな……俺の全て、魂の片割れ……うまく訳せないが……。スイ。お前だけが俺の愛する相手だ。xxxに誓って……永遠にお前を愛し、この命、この体、全てをスイに捧げる」

 僕にそんな風に言ってもらえる価値があるなんて分からない。でも僕だって、この子を……いやこの男を愛すると、誰にも渡さないと決めたのだ。

 言葉の代わりに、僕はそっと誓いのキスを捧げた。
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