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お店のおばあちゃん

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クレナイに抱きしめられ、なかなか離してくれない腕からようやく抜け出した頃にはもう昼近くだった。
聞けば僕が起きた時点で朝と呼ぶには微妙な時間だったらしく、なるほど窓から入る日差しがきつかったのはそのせいかと納得した。

「スイ、宿で待っていてもいい」

「大丈夫、沢山寝たし元気だよ。行こ!」

なんだかうちの子は今まで以上に僕に対して過保護になっていて、いたわられるとそれはそれで気恥しい。
昨晩はその、痛いこともきついことも何もなかったし。気持ち良い事ばかりで――だから別に辛くない。

「スイ、顔が赤い」

「も……っ、黙って!」

荷物を全て背負ってくれる相手に酷い言い草かもしれないけれど、甘すぎるその視線は意味深すぎる。
今までの僕達の関係性が変わってしまったようで――実際変わってるんだけども、なんだか誰かにバレないか後ろめたく感じてしまうのはまだ親気分が抜けないせいだと思う。

小さな町を、クレナイと二人で歩く。宿から商店街までほんの僅かだというのに、彼は心配そうにチラチラと僕を見てくる。
居心地の悪さと嬉しさを感じながら、僕達はいつもの買い取りをしてくれる店の扉をくぐった。
ちりりん、と軽快な鈴の音がして、それに反応したいつものおばあちゃんの声がかかる。

「いらっしゃい。おやあんたたちかい。スイは久しぶりだね」

「……僕は?」

僕より随分小柄なこの店のおばあちゃんは、もう随分お年を召しているけどしっかりしている、と思っていただけに発言に引っかかった。

「ん?そっちの男前はしょっちゅうこの店に来てくれるからね。先週も猪肉を持ってきてくれたかね?新鮮な肉はありがたいから大歓迎さ」

「………………」

「………………」

サッとクレナイを見ると、同じスピードで目を逸らされた。
徒歩3日距離をそんなに頻繁に来ていたのか?……いや、クレナイの足なら僕を抱えて半日だ、彼一人なら尚更早いだろう。
ここ1年程、日中はそれぞれバラバラに活動する事が多かったのは確かだ。

「……クレナイ、僕に黙って町に来てたの?」

「ああ」

僕に言わずに……いやこれは隠していたと言っても良いだろう。
そんなクレナイの態度に、今までなら子供の成長だと喜ぶ事だって出来たはずなのに、何故か今はそれが出来ない。
嫌だ、モヤモヤとした感情が僕の中でグルグルと渦を巻く。

「まあ許しておやりよスイ。惚れた相手に楽させてやりたいって言うんだから健気なもんじゃないか。もうあんたたちもくっついたんだろう?ドーンと構えてやるのが姉さんに女房さね」

「へ……女房……!?うえ、え!?」

きっと僕の顔は真っ赤になっているだろう。口はただはくはくとして言葉が出ない。
惚れた相手に楽をさせたい?
ついにくっついた?
本人だって知らなかったクレナイと僕の事情を、どうしておばあちゃんが知っているのか?

「おや?もうくっついたんだろう?この間とはあんたたちの空気が全然違うよ。おめでとう、これは祝いだ持っておゆき」

「ありがとう。じゃあこれは今回の分……婆、買い取りを頼む」

「ちょ、え、ま……、えええ……?」

まだ混乱から抜け出せない僕だけを置いてきぼりにして、クレナイとおばあちゃんはサッサと取引を終わらせてしまった。




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