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食事をする彼と僕

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 クレナイとの生活は思っていたよりスムーズだった。

 基本的な躾はされていたのだろう、食事の仕方に戸惑う様子はあったが直ぐに慣れて綺麗に食事ができていたし、子供ながらに所作は決して乱暴ではない。
 フォークを使う手つきはたどたどしいけど、口に運ぶ動きは綺麗だ。ただ彼は靴を脱ぎ、椅子の上で何故か足を折り曲げて座る。理由は分からなかったけど、でもそうすることで彼の低い身長でもテーブルの高さが合うのだから丁度良い。少しだけ目を伏せて丁寧に食事をする様子は大人と変わらないのではないだろうか? 小さい子供と食事をする機会が無かったから比較はできないけれど。

「美味しい?クレナイがとってきてくれた魚だよ」

 少し離れた所にある清流に、大小様々な川魚が泳いでいる。僕もたまにのんびりしたいときに釣りをするけれど、今日彼と一緒に行くと素手で魚を掴んではポイポイと獲ってくれた。
 釣りをするという発想しかなかった僕は本当に驚いて、魚って手で捕まえられるのかと一緒に川に入ってみたけど、最後にはバランスを崩して川の中に沈んでしまった。
 表情をあまり変えない彼にしては珍しく焦った様子で手を貸してくれて、大人として親として、少しだけ居た堪れない。

 クレナイは食事を終えると、何故か両手を合わせる。彼の習慣だと気付いた頃から、僕もそれに倣う事にした。見知らぬ土地で少しでも馴染みのあるものに触れて欲しいから。

「xxxxxxx」

「ゴチソ……マデチタ?」

 彼の呟く言葉を復唱する。目の前の子どもは少しだけ目を見張って、その後微笑んだ。ふわりと優しい笑みなのに、何故か胸が締め付けられる。

「ゴチソウサマデシタ、スイ」

「ゴチ……ゴチソマサ、タ?」

 いつも僕がするように、今日はクレナイが言葉を教えてくれる。彼の言葉は独特で発音も難しいけれど、祈るように呟くあの言葉は、きっと大切なものなんだろう。
 たどたどしいながら聞くとそれは神様や食材や料理人、そんなすべてに感謝を捧げる言葉らしい。この大陸の神といえば、世界を治め滅多に地上に現れない竜王陛下を指すけれど、そんな風習がある地方もあるんだな。

「ゴチソウサマデシタ……?合ってる?」

「じょうず。スイ、じょうず。……ありがとう」

 笑顔を見せてくれるはずのクレナイの、その整った顔が少しだけ弱弱しく見えるのはなぜだろうか。健気な子供の言葉に、僕はたまらず彼を抱きしめた。



 クレナイは家にある本を読み文字を覚えた。簡単な歴史の本もあったから、一緒に読んで聞かせたこともある。
 お風呂を嫌がったのは最初の一度だけだった。それ以降は自分から服を脱ぎ、一緒に小さな湯船に浸かった。ただ、洗髪だけは固辞されたけど。
 夜は、1つしかないベッドで一緒に眠った。夜中にうなされる彼を、ポンポンと宥めて寝かしつける事もあった。。

 そうして、あっという間に5年の月日がたち、小さかった子供は異常なスピードで大人の男へと変わったのだった。
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