上 下
3 / 7

暑い暑い教室で

しおりを挟む
 親世代では教室にエアコンが無かったらしい。
 信じられない、と茹るような室内で机に突っ伏した。

「江崎、生きてる?」

 ひょいと背中に冷たい感触。
 思わずビクリと反応して身体を起こすと、楽しそうな森永の顔。
 この暑さの中でよく元気だな。
 森永の顔にかかる髪の毛を払ってやるとじっとりと汗ばんでいる。
 なんだ、暑くない訳じゃないのか。

「はい、お土産。めっちゃ急いで帰ってきたんだぜ~。杏仁アイスとバニラ、どっちにする?」

 昼休みに学校を抜け出して、いつもつるむ奴らとコンビニに行った森永の手には二つの袋。これがさっき背中に当たったのか。
 見れば森永のグループの奴らの姿はない。相変わらず自由だな、多分俺にアイスを渡すために一人走ってきたんだろう。

「ん……バニラ」

「はいはーいどうぞ!」

 森永の好物は決まっているのに、いつも俺に選択させてくれる。アホみたいだけどこいつなりに気を使っているんだよな。
 だから俺はいつだってそうじゃない方を選ぶ。
 ほら、こんなに嬉しそうな顔をするんだから。自分の買ってきたアイス一つでご機嫌だなんて可愛いじゃないか。
 
 袋を開けて口に入れればヒンヤリと冷たい。
 はあ生き返る。この蒸し暑い教室では、アイスのアイデンティティを最大限に発揮するな。

「エアコン夕方には直るって先生言ってたぜ」

「……今直してくれ。もしくは早退させてくれ」

「はははっ江崎暑いの駄目だもんなー」

 森永はいつも元気だ。暑い室内はクラス全員同じ環境のはずなのに、暑くてもいつもと大差ないこいつの身体の作りはどうなっているのか。

 固かったはずのバニラアイスがあっという間に柔らかくなり、溶けたアイスが手を汚した。

「わ、江崎!制服汚れる!」

 もったいない、と言う幼馴染は俺のそれを舌でぬぐった。
 それは一瞬だったけど、確かに江崎の唾液の感触で。

「……サンキュ」

「ん、気を付けろよー」

 分かってる、小さい妹のいるこいつにとったら、気にするほどでもない些細な事なんだって。家族にするのと大差ない、普段の事なんだろう。

 残っていたバニラアイスを一気に口に入れて嚥下する。
 喉を潤す冷たさは身体もひやしてくれるはずなのに。

「おーい、江崎どした?腹いっぱい?」

 再び机に突っ伏した俺を、森永はのんびりアイスを齧りながらツンツンとつつく。
 その顔は暑さに汗ばんでいて少し上気している。
 整った顔をくしゃくしゃにして笑いながら、自分だって手にアイスが垂れてきているの、気付いていないじゃないか。

 ぐっとその手を寄せて、べろりと舌を這わせる。
 杏仁の味と、森永の汗の味。
 初めて味わう幼馴染の肌は少し熱っぽくて興奮した。

「ちょ……!江崎、そんな舐めなくても……ははっくすぐってぇ!」

 ふざける行為に紛れ込ませて、俺は身体の中に籠る熱を少しだけ森永にぶつけた。
 いつか本当に、お前の肌を全部舐めてやりたい。

「杏仁味だな、森永」

 ちら、と視線をやれば、暑さのせいだけじゃない赤い顔をしている。
 少しは意識してくれただろうか?
 いや、そんなに察しの良いやつなら俺も何年も苦労はしない。
 自分に向けられる好意に、一番近い俺からの行為に、鈍すぎるほど鈍いのがこの森永なんだから。

「……うまかったかよ」

「ごちそうさま」

 ふてくされるように呟くけれど、付き合いの長い俺には分かる。照れてる顔だ。
 ごちそうさま森永。今夜はお前の肌を思い出す事にするよ。

 手洗い場に向かいながら、俺はその汗ばむうなじをジッと見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

運営主導BL営業アイドルグループメンバーと強制課題セックス

ルシーアンナ
BL
男の娘アイドルグループに所属する一軍DK男子と愛され落ちこぼれDC男子が、BL営業の延長線上で運営(事務所)命令でセックスすることになる話。 飛×参理

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

処理中です...