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俺と森永

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暑くじめじめとした毎日が続いている。教室の窓から見えるグラウンドにはいくつもの大きな水たまりが出来ていて、そこには小さな波紋が広がっているのだろう。

 男ばかりの教室では、今日も昼休みは騒がしい。昼食も食べ終わった今、各々が好きなように過ごしているがクラスの中心で騒いでいるやつらもいる。
 俺は開いていた文庫本に目を落とすフリをしながら、その会話に耳をそばだてる。

「―――だろ!なあ森永!」

「うるさいな!俺だって彼女くらい出来るよ!いいか見てろ!」 

森永と呼ばれる名前を耳にして、ピクリと動きそうな肩を押しとどめる。
それはクラスメイトの名前で、それは俺の幼馴染の名前で、それは。

 森永はいつも話の中心だ。今も複数の友人に囲まれて楽しそうに会話をしている。

「ば~か!森永そう言って全然!彼女できねえじゃん。こないだの合コンもお前女子に囲まれてっから珍しくモテてんのかって見てたらさ、はははっおもちゃにされて化粧されてんの!」

「お、お前それは言わない約束だろおおおお!?」

「森永は俺らを裏切らねえな」

「んだんだ」

 友人らしい距離感で頭を小突いたり肩に手を回したりしている。
俺は文庫本からチラリと顔を上げると、こちらをみていた森永と目が合った。

「江崎ぃ~!こいつら俺をおもちゃにするんだよ!!」

 そう言いながら森永は俺に寄ってくる。自然と森永を追うようにクラスメイトも移動する。人を引き付けるやつなんだよな、こいつは。

「ああ。お前合コン行ったのか。俺聞いてないぞ」

「う、いや、だってお前そういうの嫌いだろ?い、言わない方がいいかな~って」

「聞いた方が良かった」

 後から他人の口からお前の事を聞きたくない。幼馴染らしからぬ独占欲を無表情で隠して、俺は森永の髪の毛をさらりとなでた。艶のある黒髪は撫でるだけでも心地よくて、それが森永のものなら尚更撫でる手をやめられない。

「ん~ごめん。じゃあ今度は言うわな!」

「行って欲しく無いけど行くなら言って」

「えっ、江崎俺に行ってほしくねえの!?」

「ああ」

撫でる手を止める事もせずに感触を味わうと、森永は気持ちよさそうに顔を寄せてくる。へへへ、と笑うこいつが可愛い。

「あ~森永と江崎って幼馴染だっけか?マジ距離感バグってね?」
「いやこいつら小学校からずっとこう」
「まじかよ羨ましい」

おい最後の奴。

俺が言うのもなんだが、森永は結構顔がいい。いつもアホな顔で笑っているから気付かれにくいが、静かに黙っていればそれなりにモテる顔だ。

だから俺は森永が変なやつに絡まれないように気を配る必要がある。幼馴染が変な目にあったら困るからな。

ふぁ、とあくびをする森永の目に溜まった涙を吸い上げたい。少し気だるげに見えるときの森永は、いつもの元気さもなりを潜めて薄幸な美人に見えてしまうから困りものだ。
 本当のこいつの姿は俺だけが知っていればいい。いつもの姿に隠されている、繊細で傷つきやすい幼馴染。

「っ、江崎ぃ~そんな目で見んなよ!」

「見てない」

「こええんだよ~」

「幼馴染として、森永は俺が守るって決めてるから」

 今日も俺の森永は可愛い、そう思いながら擦り寄ってくる頬をするりと撫でた。

そうして油断している森永は、ホントに幸せそうな柔らかい素の笑顔を見せる。
おいやめろ、これ以上俺のライバルを作らないでくれ。

今だけはせめて、俺だけに。


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