59 / 77
おまけ(夏の終わり~秋 編)
第54話 精霊騎士の、初めての浴衣。
しおりを挟む
夏のある日。
俺と幼女魔王さまとミスティは、夜のお祭り=縁日にいく約束をしていた。
待ち合わせの時間は夕方だったんだけど、この日は約束の時間のかなり前に、幼女魔王さまとミスティが俺の部屋へとやってきた。
そしてその服装は、いつもと大きく違っていたのだった。
「どうじゃ、似合うかの?」
「ハルト様、よろしければ感想をいただけると、嬉しいです」
そう言うと、二人はその衣装を俺に見せつけるように、可愛くポーズをとったり、くるっと回ったりしてみせる。
幼女魔王さまのは、薄ピンクの生地に、赤い大輪の花が咲き誇り。
ミスティのは、水色の生地に赤い金魚が涼しそうに泳いでいた。
似合うか似合わないかと問われれば、もちろん、
「2人ともすごく似合ってるよ。すごく新鮮だし、あと生地が薄くて見るからに涼しそうだ」
「であるか」
「えへへ、ありがとうございます」
俺の素直なほめ言葉に、2人も素直に喜んでくれる。
「たしかこれって、【南部魔国】の、今は廃れた古い民族衣装なんだよな?」
ボタンなどの留め具を使わずに、腰の帯だけで締めて形をキープする独特の形状と様式をした民族衣装だ。
かなり昔、警備で行った帝都文化振興センターの展示で、ちらっと見たことがあった。
ええっと、なんて名前だったかな?
「や……よ……ゆ……、ユーカリ?」
「惜しいのぅ。これは『浴衣』と言うのじゃよ」
「そうそう、それだ!」
「でも廃れたというのは、少々いただけませんね。こういうお祭りのときなんかは、今でも着るんですよ?」
「え、そうなのか?」
「もちろん平素は着んがの。じゃが夏のお祭りでは、浴衣がむしろ正装になるのじゃよ」
「そうだったのか……他国のこととはいえ、文化振興センターに書いてあることって、意外といい加減なんだな……あれは子供も校外学習で見学にくるってのに」
帝都に帰る機会があれば、その旨、指摘してあげよう。
――機会があれば、だけど。
なんと言うかまぁ、そのね?
帝国の英雄で支持者も少なくなかった【勇者】を討伐しちゃったから、その帝国に帰れるかは、正直かなり微妙なとこなんだよな……へたすると暗殺されかねないし。
そういうわけで、最近は帝国への帰還をあきらめて、【南部魔国】への定住を考えている俺だった。
幼女魔王さまの命を救った恩人として、国民からの好感度はかなり高いみたいだし。
それに新【勇者】ミスティ率いる【勇者パーティ】のメンバーとして厚遇してくれるって、幼女魔王さまも言ってくれてるしな。
とまぁ。
ままならない人生について少し考えしまっていると、
「ハルト様の浴衣も用意してありますので、よかったら着てみますか?」
ミスティが浴衣をもう一着、取り出して見せてくれた。
幼女魔王さまとミスティが着ているのと比べて、とても落ち着いた色合いだ。
おそらく男物の浴衣なんだろう。
「本当か! ぜひ着てみたい」
もちろん俺は即答した。
だって、他国の古い民族衣装を着る機会なんて、下手したら一生ないもんな。
これはテンションも上がらざるをえないってなもんだ。
そういうわけで。
ミスティと幼女魔王さまに手取り足取り教えてもらいながら、初めての「浴衣」を着せてもらった俺は、姿見でいつもと違う自分を、何度も何度も確認していた。
「ほぅほぅ、ほほぅ。なぁなぁ、自分で言うのもなんだけど、けっこう似合ってるんじゃないか?」
「はい、よく似合ってますよ、ハルト様」
「ハルトは【南部魔国】に多い黒髪じゃからの。まったく違和感なしなのじゃ」
さらに、一緒に用意されていた浴衣用の「下駄」という履き物をはき、背中側の帯に団扇を差し、手には巾着を持つ。
「小物までガッツリそろえてもらって、テンションがもりもり上がってきたぞ……!」
俺は2人の好意に対して最大限の感謝をすると、意気揚々と縁日に出陣したのだった――!
俺と幼女魔王さまとミスティは、夜のお祭り=縁日にいく約束をしていた。
待ち合わせの時間は夕方だったんだけど、この日は約束の時間のかなり前に、幼女魔王さまとミスティが俺の部屋へとやってきた。
そしてその服装は、いつもと大きく違っていたのだった。
「どうじゃ、似合うかの?」
「ハルト様、よろしければ感想をいただけると、嬉しいです」
そう言うと、二人はその衣装を俺に見せつけるように、可愛くポーズをとったり、くるっと回ったりしてみせる。
幼女魔王さまのは、薄ピンクの生地に、赤い大輪の花が咲き誇り。
ミスティのは、水色の生地に赤い金魚が涼しそうに泳いでいた。
似合うか似合わないかと問われれば、もちろん、
「2人ともすごく似合ってるよ。すごく新鮮だし、あと生地が薄くて見るからに涼しそうだ」
「であるか」
「えへへ、ありがとうございます」
俺の素直なほめ言葉に、2人も素直に喜んでくれる。
「たしかこれって、【南部魔国】の、今は廃れた古い民族衣装なんだよな?」
ボタンなどの留め具を使わずに、腰の帯だけで締めて形をキープする独特の形状と様式をした民族衣装だ。
かなり昔、警備で行った帝都文化振興センターの展示で、ちらっと見たことがあった。
ええっと、なんて名前だったかな?
「や……よ……ゆ……、ユーカリ?」
「惜しいのぅ。これは『浴衣』と言うのじゃよ」
「そうそう、それだ!」
「でも廃れたというのは、少々いただけませんね。こういうお祭りのときなんかは、今でも着るんですよ?」
「え、そうなのか?」
「もちろん平素は着んがの。じゃが夏のお祭りでは、浴衣がむしろ正装になるのじゃよ」
「そうだったのか……他国のこととはいえ、文化振興センターに書いてあることって、意外といい加減なんだな……あれは子供も校外学習で見学にくるってのに」
帝都に帰る機会があれば、その旨、指摘してあげよう。
――機会があれば、だけど。
なんと言うかまぁ、そのね?
帝国の英雄で支持者も少なくなかった【勇者】を討伐しちゃったから、その帝国に帰れるかは、正直かなり微妙なとこなんだよな……へたすると暗殺されかねないし。
そういうわけで、最近は帝国への帰還をあきらめて、【南部魔国】への定住を考えている俺だった。
幼女魔王さまの命を救った恩人として、国民からの好感度はかなり高いみたいだし。
それに新【勇者】ミスティ率いる【勇者パーティ】のメンバーとして厚遇してくれるって、幼女魔王さまも言ってくれてるしな。
とまぁ。
ままならない人生について少し考えしまっていると、
「ハルト様の浴衣も用意してありますので、よかったら着てみますか?」
ミスティが浴衣をもう一着、取り出して見せてくれた。
幼女魔王さまとミスティが着ているのと比べて、とても落ち着いた色合いだ。
おそらく男物の浴衣なんだろう。
「本当か! ぜひ着てみたい」
もちろん俺は即答した。
だって、他国の古い民族衣装を着る機会なんて、下手したら一生ないもんな。
これはテンションも上がらざるをえないってなもんだ。
そういうわけで。
ミスティと幼女魔王さまに手取り足取り教えてもらいながら、初めての「浴衣」を着せてもらった俺は、姿見でいつもと違う自分を、何度も何度も確認していた。
「ほぅほぅ、ほほぅ。なぁなぁ、自分で言うのもなんだけど、けっこう似合ってるんじゃないか?」
「はい、よく似合ってますよ、ハルト様」
「ハルトは【南部魔国】に多い黒髪じゃからの。まったく違和感なしなのじゃ」
さらに、一緒に用意されていた浴衣用の「下駄」という履き物をはき、背中側の帯に団扇を差し、手には巾着を持つ。
「小物までガッツリそろえてもらって、テンションがもりもり上がってきたぞ……!」
俺は2人の好意に対して最大限の感謝をすると、意気揚々と縁日に出陣したのだった――!
0
お気に入りに追加
1,065
あなたにおすすめの小説
クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。
大前野 誠也
ファンタジー
ー
子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。
しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。
異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。
そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。
追放された森で2人がであったのは――
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる