52 / 77
―最終章―
第48話 暴走する破壊の衝動
しおりを挟む
「勝ったのじゃ、ハルトが勝ったのじゃ!」
「まさか【聖剣】を持った【勇者】に勝ってしまうなんて……ハルト様はなんと凄いのでしょうか!」
戦いの様子を固唾を飲んで見守っていた幼女魔王さまとミスティが、俺の勝利を見届けると一目散に駆け寄ってきた。
その顔には驚きと喜びが、これでもかと溢れ出していたんだけれど――、
「来るな――っ!」
俺は怒鳴り声のような大きな声で2人が近づくのを制止した。
「ハルト?」
「ハルト様?」
俺のとった予想外の行動に、2人は鳩が豆鉄砲でも喰らったかのように驚いた様子で顔を見合わせた。
でもダメだなんだ。
「俺に近づいちゃダメだ――!」
「あの、ハルト様?」
「ハルトよ、急に何を言っておるのじゃ――はっ!」
さすが精霊使いの素養があるだけあって、魔王さまは気付いたか。
「こ、これはいかんのじゃ! ハルトの中で精霊が暴走しかけておるのじゃ――!」
焦った声をあげる魔王さまに、
「暴走……ですか?」
ミスティはよくわからないと言った顔で問いかけた。
「破壊精霊【シ・ヴァ】の制御がまったくきいておらぬのじゃ!」
「そんな――!?」
そう、魔王さまの言うとおりだった。
俺の中に顕現した破壊精霊【シ・ヴァ】が、「こんなものでは物足りない」とばかりに激しく暴れはじめたのだ――!
原初の破壊精霊【シ・ヴァ】。
それは創世神話に語られる最強の精霊だ。
新世界の誕生前に旧世界を存在ごと消滅させると言われる、全てを無に帰す禁断の始原精霊――それが【シ・ヴァ】だ。
俺が【シ・ヴァ】を顕現させたのは【北の魔王】との最終決戦で、腹心である【四天王】の1人を俺一人で足止めした時以来、2度目のことだったんだけど――、
「だめだ、前と違って全く言うことをきかない……! くっ、ぐぅ……! がはっ――」
前回よりも今回の方が【シ・ヴァ】の存在感がはるかに大きい……っ!
「1回目をベースに、より密度を増して顕現しているんだ……!」
もはや俺には、破壊精霊が暴れ出そうとするのをただひたすら堪えるより他に、できることはなかった。
「あの魔王さま。初歩的な質問で恐縮なのですが、精霊が暴走するとどうなるのでしょうか!?」
「妾も初めてのことで実のところはよくはわからんのじゃが、見るにハルトの心がどんどんと【シ・ヴァ】によって塗り替えられていっておるように、喰われているように――そんな風に感じておるのじゃ」
「ハルト様の心が食われている――!?」
「【シ・ヴァ】は世界そのものを『無』へと変える禁断の破壊精霊と言われておる。人の心を消し去ることくらいは容易いであろう」
「なんということでしょう……!」
「もしこのまま制御がきかぬ状態で最強の破壊精霊が解放されるとなれば【南部魔国】は――いや大陸そのものが滅び消え去るやもしれぬ」
「そんな――」
幼女魔王さまの途方もない予測にミスティが絶句した。
「最強の武器と言われる【聖剣】の全力開放に打ち勝つほどの力を、ハルトが最後の最後まで使う素振りすら見せなかったのは、いったいなぜかと思っていたのじゃが――」
「出し惜しみしていたのではなく、制御できないから使うことができなかったのですね――」
「確かにこれほどの力であれば、さもありなんじゃ……!」
幼女魔王さまとミスティはのんきにそんな会話をしていたんだけど、
「2人とも! そんな話は今はいいから! 一秒でも早くここを離れるんだ! でないと――くっ、だめだ! 出てくるな【シ・ヴァ】……! もう一度、眠りにつけ……! 頼む、お願いだから眠ってくれ! あぐ、ぐぅ、グぁ、グギ――!!」
俺が、俺でなくなってユク――!
『オレ』は荒ぶる心に突き動かされるようにして、【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】を一振りした。
すると刃から巨大な漆黒の波動が放たれ、射線上にあった山が一つ、上半分が轟音と共に消し飛んだ。
文字通り跡形もなく消えてなくなったのだ。
「たった一振りで山が消失するなんて――」
「なんという凄まじい破壊力なのじゃ――」
漆黒の一撃を唖然と見つめている2人は――ああだめだ、もう逃げられない――もう助からない――なぜなら『オレ』が全てを破壊するからだ――この野郎、引っ込めっつってんだろ!
くっ、でもダメだ……!
もうあと少しで【シ・ヴァ】が完全覚醒してしまう。
俺が甘かった、甘すぎた。
前回どうにか抑え込めたから、だから今回もできるだろうってそんな風に考えちまった。
俺のせいで世界が滅ぶのか――いいや『オレ』が世界を滅ぼすんだ。
もう……だめだ、心が飲み込まれル……とても堪えきれナイ――。
相手は最強の破壊精霊【シ・ヴァ】だって言うのニ――俺ハなんて腑抜けた考えヲしてしまったンダ――俺は、オレは――、
「――そうだ、オレが【シ・ヴァ】だ」
「まさか【聖剣】を持った【勇者】に勝ってしまうなんて……ハルト様はなんと凄いのでしょうか!」
戦いの様子を固唾を飲んで見守っていた幼女魔王さまとミスティが、俺の勝利を見届けると一目散に駆け寄ってきた。
その顔には驚きと喜びが、これでもかと溢れ出していたんだけれど――、
「来るな――っ!」
俺は怒鳴り声のような大きな声で2人が近づくのを制止した。
「ハルト?」
「ハルト様?」
俺のとった予想外の行動に、2人は鳩が豆鉄砲でも喰らったかのように驚いた様子で顔を見合わせた。
でもダメだなんだ。
「俺に近づいちゃダメだ――!」
「あの、ハルト様?」
「ハルトよ、急に何を言っておるのじゃ――はっ!」
さすが精霊使いの素養があるだけあって、魔王さまは気付いたか。
「こ、これはいかんのじゃ! ハルトの中で精霊が暴走しかけておるのじゃ――!」
焦った声をあげる魔王さまに、
「暴走……ですか?」
ミスティはよくわからないと言った顔で問いかけた。
「破壊精霊【シ・ヴァ】の制御がまったくきいておらぬのじゃ!」
「そんな――!?」
そう、魔王さまの言うとおりだった。
俺の中に顕現した破壊精霊【シ・ヴァ】が、「こんなものでは物足りない」とばかりに激しく暴れはじめたのだ――!
原初の破壊精霊【シ・ヴァ】。
それは創世神話に語られる最強の精霊だ。
新世界の誕生前に旧世界を存在ごと消滅させると言われる、全てを無に帰す禁断の始原精霊――それが【シ・ヴァ】だ。
俺が【シ・ヴァ】を顕現させたのは【北の魔王】との最終決戦で、腹心である【四天王】の1人を俺一人で足止めした時以来、2度目のことだったんだけど――、
「だめだ、前と違って全く言うことをきかない……! くっ、ぐぅ……! がはっ――」
前回よりも今回の方が【シ・ヴァ】の存在感がはるかに大きい……っ!
「1回目をベースに、より密度を増して顕現しているんだ……!」
もはや俺には、破壊精霊が暴れ出そうとするのをただひたすら堪えるより他に、できることはなかった。
「あの魔王さま。初歩的な質問で恐縮なのですが、精霊が暴走するとどうなるのでしょうか!?」
「妾も初めてのことで実のところはよくはわからんのじゃが、見るにハルトの心がどんどんと【シ・ヴァ】によって塗り替えられていっておるように、喰われているように――そんな風に感じておるのじゃ」
「ハルト様の心が食われている――!?」
「【シ・ヴァ】は世界そのものを『無』へと変える禁断の破壊精霊と言われておる。人の心を消し去ることくらいは容易いであろう」
「なんということでしょう……!」
「もしこのまま制御がきかぬ状態で最強の破壊精霊が解放されるとなれば【南部魔国】は――いや大陸そのものが滅び消え去るやもしれぬ」
「そんな――」
幼女魔王さまの途方もない予測にミスティが絶句した。
「最強の武器と言われる【聖剣】の全力開放に打ち勝つほどの力を、ハルトが最後の最後まで使う素振りすら見せなかったのは、いったいなぜかと思っていたのじゃが――」
「出し惜しみしていたのではなく、制御できないから使うことができなかったのですね――」
「確かにこれほどの力であれば、さもありなんじゃ……!」
幼女魔王さまとミスティはのんきにそんな会話をしていたんだけど、
「2人とも! そんな話は今はいいから! 一秒でも早くここを離れるんだ! でないと――くっ、だめだ! 出てくるな【シ・ヴァ】……! もう一度、眠りにつけ……! 頼む、お願いだから眠ってくれ! あぐ、ぐぅ、グぁ、グギ――!!」
俺が、俺でなくなってユク――!
『オレ』は荒ぶる心に突き動かされるようにして、【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】を一振りした。
すると刃から巨大な漆黒の波動が放たれ、射線上にあった山が一つ、上半分が轟音と共に消し飛んだ。
文字通り跡形もなく消えてなくなったのだ。
「たった一振りで山が消失するなんて――」
「なんという凄まじい破壊力なのじゃ――」
漆黒の一撃を唖然と見つめている2人は――ああだめだ、もう逃げられない――もう助からない――なぜなら『オレ』が全てを破壊するからだ――この野郎、引っ込めっつってんだろ!
くっ、でもダメだ……!
もうあと少しで【シ・ヴァ】が完全覚醒してしまう。
俺が甘かった、甘すぎた。
前回どうにか抑え込めたから、だから今回もできるだろうってそんな風に考えちまった。
俺のせいで世界が滅ぶのか――いいや『オレ』が世界を滅ぼすんだ。
もう……だめだ、心が飲み込まれル……とても堪えきれナイ――。
相手は最強の破壊精霊【シ・ヴァ】だって言うのニ――俺ハなんて腑抜けた考えヲしてしまったンダ――俺は、オレは――、
「――そうだ、オレが【シ・ヴァ】だ」
0
お気に入りに追加
1,065
あなたにおすすめの小説
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる