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―最終章―

第38話 もやもや

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 魔王さまとミスティを見送った後、俺は数日ほど何をするでもなくだらだらと無為に過ごしていた。

「今日はラノベでも読むか……」

 今日も今日とてどうにも外に出る気が起きなかった俺は、部屋にこもってラノベを読み始めた。

「街に出ると幼女魔王さまやミスティの顔が浮かんできて、あ、ここでこんな話したなとか思い出しちゃうんだよな……」

 そのたびに今、何もできないでいる自分を再認識してテンションが下がってしまうのだ。

 そう言うわけで俺は愛読書である『無敵転生』を読みなおしていたんだけれど――、

「だめだ、ちっとも気分が乗らない……」

 あれだけ大好きで何度も読み返した『無敵転生』の第一巻を、俺は読み始めてすぐだというのにもう投げ出してしまっていた。

「はぁ……」

 俺は大きなため息をつくと、まだ午前中だというのに行儀悪くベッドにゴロンと横になった。
 手足を投げ出してぼぅっと天井を見つめる。

「……あれからどうなったのかな。野戦をするって言ってたよな。定石じょうせきなら籠城戦ろうじょうせんをすべきなのに、敢えてしなかったのは十中八九、魔王さまの意向なんだろうな」

 短期決戦を望む敵にはそうするだけの理由がある。
 それに対して徹底して時間を稼ぐ籠城戦は極めて有効な戦法だ。

 【勇者】はまず間違いなく帝国の同意なく攻め込んできている。
 根回しも十分ではないだろう。
 となればまずはすぐに食料が尽きるはずだ。

 なら幼女魔王さまを守って籠城し、【勇者】の軍が空腹で消耗するのをひたすら待つのが最良の策だ。

 【ゲーゲンパレス】の北にはそこそこ堅牢な城塞都市がある。
 確実に勝ちに行くなら野戦よりもそこでの籠城戦を選ぶべきだった。

 けれど幼女魔王さまはそうしなかった。
 おそらく【勇者】の軍が近隣の村や町で略奪を繰り返すだろうと考えたからだ。

 それだけじゃない、ここ【ゲーゲンパレス】への襲撃の可能性も捨てきれない。
 【ゲーゲンパレス】は文化的に優れた都市ではあるものの、防衛力はさほど高くはない。

 さらに最低限の防衛戦力だけを残して主力が北部に出払っている今、落とされる可能性は十分にある。

 だから幼女魔王さまは周囲への被害を出さないために、短期決戦に対して短期決戦で挑もうとしているのだ。

「人のいい魔王さまのことだ。最悪の場合、自分の命を差し出すことで和睦わぼくに持ち込もうとか考えているんだろうな……」

 くそっ、分かっているのに何もできないでいることが、無性にイライラする……!

「……だめだ。部屋にこもってると同じことばっかり考えて堂々巡りになる……そうだな、気分転換にメイド喫茶に行ってメイドさんと楽しくお話でもするか――」

 無力感からくるもやもやをどうにも処理しきれないでいた俺は、ガバッと起き上がると【ゲーゲンパレス】に来て最初に案内してもらった「お・も・て・な・し」が素晴らしいメイド喫茶へと向かうことにした。
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