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第四章 ゲーゲンパレス・スローライフ(後編)
第33話 キャンプ
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俺と幼女魔王さまとミスティは、【ゲーゲンパレス】近くの山へキャンプにやってきていた。
カレーライスを作り、テントを立てて一泊するというベーシックな野外活動だ。
まずは俺が焚き火用の枯れ枝を拾い集めている間に、幼女魔王さまとミスティがテントを立ててカレーの準備をするという段取りだ。
散策がてらに両手で抱えるほどの枯れ枝を集めた俺がベースキャンプに戻ると、そこには既にテントが組み立てられていて、カレーとご飯もあとは火にかけるだけだった。
「割と早く戻ってきたつもりだったんだけど、そっちの準備が終わる方が早かったか。悪いな待たせちゃって」
「ミスティは野外活動もお手の物なのじゃ」
「……えっとそういう魔王さまは何をしたんだ?」
「魔王さまも野菜の皮むきをやりましたよね」
「こう見えてジャガイモの皮をむくのは大の得意であるからして」
つまりテントを立てるのもカレーの下ごしらえも、ほとんどミスティが一人でやったってことだな……。
「そう言うハルトもさすがじゃの。この短時間でこんな大量に枯れ枝を拾い集めてくるとは」
「しかもどれもしっかりと乾燥した燃えやすい枝ばかりです、さすがですねハルト様」
幼女魔王さまとミスティに手放しでほめられてちょっと嬉しかった俺は、
「森は精霊がたくさんいるからな、ちょっと手伝ってもらったんだよ。特に【ドライアド】は親身な精霊だし、たくさん枯れ枝を拾ってきてくれたよ」
ちょっと自慢げにそう言ったんだけど、
「も、森の女王とまで言われる最高位精霊【ドライアド】を、枯れ枝拾いごときに使ったじゃと!?」
「魔王様、深呼吸です深呼吸!」
今日も今日とて意識を失いかけた幼女魔王様を、ミスティがすぐに支えに走った。
とまぁ、そんなこんなのいつものやり取りを終えてから。
俺が拾ってきた枝にミスティがマッチの火から巧みに大きな火を作ってみせる。
「燃えやすい小枝で種火を作ってから、大きな枝に火を移す。上手いもんだな」
「どうじゃ、さすがであろう。ミスティはなんでもできるのじゃ」
なぜか幼女魔王さまがふんすと胸を張って言った。
「ああ、見事すぎて【イフリート】を使う間もなかったよ」
「やはり使う気じゃったか……」
「もし火がつかなかったら最終手段でって、思ってただけだよ」
「どうじゃかのぅ……」
幼女魔王さまが半分諦め、半分疑念の目を向けてくる。
「でもハルト様は旅が長かったんですよね? 火を起こしたことはなかったんですか?」
「俺はその気になれば【イフリート】でいくらでも火を使えるからな。特にその技術を習得する必要はなかったというか」
「ほんとお主ときたら事あるごとに【イフリート】を生活の道具に使いおってからに……最強の炎の魔神を何だと思っておるのじゃ……?」
「もちろん頼れる相棒だ。雨が降っても問題ないすごいやつだぞ?」
「日々、自信満々で言われすぎて、妾は最近それが正しい気すらしてくるのじゃが……」
…………
……
そうしてカレーを食べて一通り後片付けをした後。
俺たち3人は開けた場所に出て、肩を並べて夜空に浮かんだ満天の星空を見上げていた。
「やはりキャンプは良いの。人の手が入った管理された自然とはまた違う趣きがあるのじゃ」
「はい。でも女の子的には汗をかいたまま、軽く拭いただけで寝るのはちょっと気になってしまいます」
「こればっかりは仕方ないじゃろうて。それもまた一興じゃ――」
「やれやれ、今度こそ俺の出番だな」
「ハルト?」「ハルト様?」
「まぁ見てなって。【カオウ】、精霊術【バブ・エ・モリカ】発動だ!」
――りょーかい――
浄化の最高位精霊【カオウ】に呼びかけた俺は、とある精霊術を起動した。
すぐに清き浄化の光が俺たち3人を優しく包み込んだかと思うと、
「こ、これはなんと……!」
「身体から汗が綺麗さっぱり消えて、ほのかに石けんの香りがしてきました――!」
幼女魔王さまとミスティが目を見張った。
「綺麗に身体を洗ったのと同じ効果をもたらす補助系の精霊術だ。服も一緒に綺麗になる。【勇者パーティ】で旅していた時はめちゃくちゃ重宝されたんだぜ?」
特に女性陣からは大人気だった精霊術の一つだ。
「すごいですね。これがあれば旅が格段に快適になります!」
きれいさっぱり汚れを落とせたミスティはとても嬉しそうだった。
ミスティは普段から綺麗好きで、近づくとうっすらと香水のいい匂いがしてたもんな。
「ド派手な戦闘から生活応援まで、ハルトの精霊術はほんになんでもありじゃのう……」
幼女魔王さまが顔に手を当てるとふらりとふらつく。
「ま、魔王さま、お気を確かに――」
「うーむ、今日はもう寝るのじゃ……妾ちょっと現実に打ちのめされたゆえ……」
カレーライスを作り、テントを立てて一泊するというベーシックな野外活動だ。
まずは俺が焚き火用の枯れ枝を拾い集めている間に、幼女魔王さまとミスティがテントを立ててカレーの準備をするという段取りだ。
散策がてらに両手で抱えるほどの枯れ枝を集めた俺がベースキャンプに戻ると、そこには既にテントが組み立てられていて、カレーとご飯もあとは火にかけるだけだった。
「割と早く戻ってきたつもりだったんだけど、そっちの準備が終わる方が早かったか。悪いな待たせちゃって」
「ミスティは野外活動もお手の物なのじゃ」
「……えっとそういう魔王さまは何をしたんだ?」
「魔王さまも野菜の皮むきをやりましたよね」
「こう見えてジャガイモの皮をむくのは大の得意であるからして」
つまりテントを立てるのもカレーの下ごしらえも、ほとんどミスティが一人でやったってことだな……。
「そう言うハルトもさすがじゃの。この短時間でこんな大量に枯れ枝を拾い集めてくるとは」
「しかもどれもしっかりと乾燥した燃えやすい枝ばかりです、さすがですねハルト様」
幼女魔王さまとミスティに手放しでほめられてちょっと嬉しかった俺は、
「森は精霊がたくさんいるからな、ちょっと手伝ってもらったんだよ。特に【ドライアド】は親身な精霊だし、たくさん枯れ枝を拾ってきてくれたよ」
ちょっと自慢げにそう言ったんだけど、
「も、森の女王とまで言われる最高位精霊【ドライアド】を、枯れ枝拾いごときに使ったじゃと!?」
「魔王様、深呼吸です深呼吸!」
今日も今日とて意識を失いかけた幼女魔王様を、ミスティがすぐに支えに走った。
とまぁ、そんなこんなのいつものやり取りを終えてから。
俺が拾ってきた枝にミスティがマッチの火から巧みに大きな火を作ってみせる。
「燃えやすい小枝で種火を作ってから、大きな枝に火を移す。上手いもんだな」
「どうじゃ、さすがであろう。ミスティはなんでもできるのじゃ」
なぜか幼女魔王さまがふんすと胸を張って言った。
「ああ、見事すぎて【イフリート】を使う間もなかったよ」
「やはり使う気じゃったか……」
「もし火がつかなかったら最終手段でって、思ってただけだよ」
「どうじゃかのぅ……」
幼女魔王さまが半分諦め、半分疑念の目を向けてくる。
「でもハルト様は旅が長かったんですよね? 火を起こしたことはなかったんですか?」
「俺はその気になれば【イフリート】でいくらでも火を使えるからな。特にその技術を習得する必要はなかったというか」
「ほんとお主ときたら事あるごとに【イフリート】を生活の道具に使いおってからに……最強の炎の魔神を何だと思っておるのじゃ……?」
「もちろん頼れる相棒だ。雨が降っても問題ないすごいやつだぞ?」
「日々、自信満々で言われすぎて、妾は最近それが正しい気すらしてくるのじゃが……」
…………
……
そうしてカレーを食べて一通り後片付けをした後。
俺たち3人は開けた場所に出て、肩を並べて夜空に浮かんだ満天の星空を見上げていた。
「やはりキャンプは良いの。人の手が入った管理された自然とはまた違う趣きがあるのじゃ」
「はい。でも女の子的には汗をかいたまま、軽く拭いただけで寝るのはちょっと気になってしまいます」
「こればっかりは仕方ないじゃろうて。それもまた一興じゃ――」
「やれやれ、今度こそ俺の出番だな」
「ハルト?」「ハルト様?」
「まぁ見てなって。【カオウ】、精霊術【バブ・エ・モリカ】発動だ!」
――りょーかい――
浄化の最高位精霊【カオウ】に呼びかけた俺は、とある精霊術を起動した。
すぐに清き浄化の光が俺たち3人を優しく包み込んだかと思うと、
「こ、これはなんと……!」
「身体から汗が綺麗さっぱり消えて、ほのかに石けんの香りがしてきました――!」
幼女魔王さまとミスティが目を見張った。
「綺麗に身体を洗ったのと同じ効果をもたらす補助系の精霊術だ。服も一緒に綺麗になる。【勇者パーティ】で旅していた時はめちゃくちゃ重宝されたんだぜ?」
特に女性陣からは大人気だった精霊術の一つだ。
「すごいですね。これがあれば旅が格段に快適になります!」
きれいさっぱり汚れを落とせたミスティはとても嬉しそうだった。
ミスティは普段から綺麗好きで、近づくとうっすらと香水のいい匂いがしてたもんな。
「ド派手な戦闘から生活応援まで、ハルトの精霊術はほんになんでもありじゃのう……」
幼女魔王さまが顔に手を当てるとふらりとふらつく。
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