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【5の巻】

「ってことでいきなり先手必勝、てりゃー!」

 アタシは自然体から流れるように二刀を抜くや否や、一気に踏み込んでの鋭い先制攻撃をお見舞いした――しようとしたところで、

「わたっ!? おっとっと――」

 アタシの目の前をものすごいスピードで剣が疾走はしった――!
 佐々木小次郎コジローが大上段から強烈に振り下ろしたのだ。

 チッって音とともに、アタシの前髪が数本ひらりと舞う。

「あぶなっ!?」

 ちゃんとけたから目の前を通り過ぎただけですんだけど、もちろん避けなければ今頃アタシは真っ二つにされていたはずだ。

 岩をも砕くという佐々木小次郎コジローの上段切り。
 うーむ、噂には聞いていたけど、ものすごい力だね。

 しかも今のは、アタシの間合いのはるか外からの攻撃だった。

 ――その名を『物干し竿』。

 佐々木小次郎コジローの使う刀は、そんな風に呼ばれている、とても珍しい長刀だった。

 普通の刀よりもはるかに長いその刀は、攻撃範囲という意味において圧倒的に有利な武器なのだ。

 でもぶっちゃけていい?
 長物ながもの使うってせこいよね(笑)

 『剣術三倍段』って言葉があるくらいだ。

 これはつまり、刀(=剣術)で槍(=長物)と戦うには、三倍の技量が必要ってゆーこと。

 つまり獲物の長さは、技術を3倍も超えちゃうちょお大事な要素なのだった。

 ま、佐々木小次郎コジローが別に何を使おうがいいんだけどね?
 ちょっとくらいハンデがあった方が、いい勝負になるでしょ?

 そしてまたもやこれは前情報。
 佐々木小次郎コジローと言えば――、

「おおおおおおっっっ!!」

 佐々木小次郎コジローの腹の底から吠え猛った大音声とともに、振り下ろされた直後の『物干し竿』が、尋常ならざるスピードで今度は切り上げられたのだ――!

「秘剣『燕返つばめがえし』――!!」


【6の巻】

 佐々木小次郎コジロー佐々木小次郎コジローたらしめる、その猛烈な切り返しの一刀を、

「てやぁ!」

 アタシはぎゅわっと身体をひねって、ぎりぎりで回避した。

「おおっと、あぶないあぶない」

 これもアタシはちゃんと予習よしゅー済みだったからね。

 というか佐々木小次郎コジローは、このツバメガエシだけで勝ってきたようなもんだし?

 であれば当然、この初撃を外した後の切り返しについては、最大限注意していたのだった。

 それでも情報と実際に経験するのは全然違ってたから、ちょっぴし危なかったけど。
 さすが、今まで無敗で通してきただけのことはあるね、うん。

 アタシじゃなかったらまず間違いなく、今のツバメガエシで終わってた。

「へぇ、やるじゃん佐々木小次郎コジロー
 素直な称賛を贈ったアタシに、

「今のをかわすか。なかなかどうして、大口を叩くだけのことはあるな武蔵」
 佐々木小次郎コジローもにやっと笑ってみせた。

「気分乗らなかったし、怒らせて楽して勝っちゃおうなんて思ったけど、やっぱやーめた!」

 この辺は強い相手と戦うと楽しくなっちゃう剣士のサガってやつだ。
 アタシも佐々木小次郎コジローも、剣に魅入られたうつけ者――という意味で根っこは同じなのだった。

 いやでもさ。
 飛んでるツバメを打ち落とすなんて、そんなの人には無理じゃん?

 なんなのこいつ。

 今見せた、長刀を無理やりに跳ね上げて切り返せるだけの膂力りょりょくも、とても人の力とは思えないんだけど。

「こんなのぜったい違法なオクスリでドーピングしてるよね」

 いくら佐々木小次郎コジローが細身のわりに筋肉質な細マッチョだからって、人間にはできることとできないことがあるよ。

 あーあと、脳にかかってるリミッターも外してるっぽいなー。
 火事場の馬鹿力ってやつだ。

 多分だけど佐々木小次郎コジローはツバメガエシのその一瞬だけ、脳のリミッターを解除することで、常人をはるかに超えた力を出すことができるんだろう。

 いじょー、アタシのアタシによるアタシのための分析終わり!
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