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第53話 聖女、決意をする。
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「はっ! 主だった上級貴族は討たれ、シェンロン王は捕虜となっている模様です」
「まさかそんなことが――」
ライオネルが完全に絶句してしまった。
「またニセ『神龍の巫女』バーバラ・ブラスターですが、王宮にある屋上庭園から身を投げたとのことです」
「バーバラが……死んじゃったんだ……」
バーバラとの間に、いい思い出はこれっぽっちも無かったけれど。
それでも知り合いがあっけなく死んでしまったことを、わたしは少しだけさみしく思っていたんだ。
「協力員の分析によりますと、度重なる増税で民の不満が高まっているところへ、一月ほど前から『神龍災害』が各地で発生し、それによって民の怒りに火がついたとのことです」
「やはりシェンロン王国では『神龍災害』が発生していたのか……」
「国境を封鎖したのも、これが他国に漏れるのを防ぐためだったんですね」
「ああ、そういう意図だったことで間違いない。報告ご苦労だった、下がってくれたまえ」
「はっ!」
「それとキングウルフが出没し封鎖された国境を越えてまで、急の報せを伝えてくれた協力員には、ボクがとても感謝していたと伝えておいてくれ。後日、改めて褒美をとらせるとね」
「かしこまりました。その旨お伝えいたします」
ピシっと美しい最敬礼をすると、近衛兵は下がっていった。
「ふぅ……これはまた、大変なことになったね」
「はい。大変なことになっちゃいました」
そしてもう既にこの時点で、わたしは覚悟を決めていた。
そんな、決意を決めたわたしを見て、
「それで、クレアはどうするつもりなんだい?」
ライオネルが優しく問いかけてくる。
「シェンロン王国に行こうと思います」
「シェンロン王国は、君をないがしろにして、使いつぶそうとしたところだよ?」
「シェンロンの民には、関係ありませんから」
「今のシェンロンに向かうのはあまりに危険だ。王都は反乱によって大きく混乱している。行政機能は完全に麻痺しているはずだ。君の安全は保障できない」
「それでも行きます。神龍さまの怒りを鎮められるのは、龍の声を聞ける『神龍の巫女』しかいません。わたししかいないんです」
「シェンロンの東部、つまりブリスタニアとの国境付近では、キングウルフの群れが多数確認されている。それを突破するには相応の戦力が必要だ」
「ライオネルの力で、どうにかできませんか?」
「ブリスタニア軍が今このタイミングで国境を越えるのは、正直言ってとてもまずい。混乱に乗じてシェンロンに侵攻したと見られても、仕方ないからね」
「それでもわたしはいかないといけないんです! 罪のない人たちを見捨てることはできないんです! ライオネル、どうにかなりませんか? お願いします! この通りです!」
わたしはガバッと勢いよく頭を下げた。
地面と平行になるくらいに腰を折って、必死にお願いをする。
わたし一人の力ではとてもシェンロン王国の王都までは、たどりつけないから。
ライオネルの力を借りないと、どうしようもないから――。
そんなわたしに、
「その言葉を聞けて安心したよ」
ライオネルがニコッと笑って言った。
「えっと、ライオネル?」
わたしは「ふぇ?」って感じで顔をあげた。
「わかった。今からすぐにシェンロンに向かう手はずを整えよう。国境を越える以上、どうしてもシェンロン側との調整が必要だ。だから出発は明日の昼でどうかな? それまでに何とか準備を整えてみせよう」
「っ! ライオネル、ありがとうございます!」
「なーに。今はもう他国の人間だからと言って、簡単に見殺しにするようなクレアじゃないってことを、ボクはよくよく知ってるからね。むしろこうでないと困るくらいさ。クレアがクレアらしくいてくれて、ボクは嬉しいよ」
「ライオネル……」
ライオネルが全幅の信頼をしてくれていたことを改めて知って、わたしは嬉しさで胸がいっぱいになっていた。
「さてと、今日はもう遅いから、クレアはしっかり寝て明日に備えて欲しい。主役は君だからね。万全の体調で臨んでくれ」
「えっと、ライオネルはどうするんですか?」
「ボクは今から権力とコネとツテをフルに使って、君をシェンロン王都に送り届ける下準備さ。だから安心して眠ってくれていいよ」
ライオネルは華麗にウインクをすると、さっそうと部屋を出ていった。
わたしは言われた通りにすぐにベッドに入った。
ベッドに入ってすぐは、シェンロンにいた時のこととか色んなことが頭のなかをグルグル回っていたけど、わたしはいつの間にかぐっすいり寝入ってしまっていた。
寝つきがいいもので……えへっ。
「まさかそんなことが――」
ライオネルが完全に絶句してしまった。
「またニセ『神龍の巫女』バーバラ・ブラスターですが、王宮にある屋上庭園から身を投げたとのことです」
「バーバラが……死んじゃったんだ……」
バーバラとの間に、いい思い出はこれっぽっちも無かったけれど。
それでも知り合いがあっけなく死んでしまったことを、わたしは少しだけさみしく思っていたんだ。
「協力員の分析によりますと、度重なる増税で民の不満が高まっているところへ、一月ほど前から『神龍災害』が各地で発生し、それによって民の怒りに火がついたとのことです」
「やはりシェンロン王国では『神龍災害』が発生していたのか……」
「国境を封鎖したのも、これが他国に漏れるのを防ぐためだったんですね」
「ああ、そういう意図だったことで間違いない。報告ご苦労だった、下がってくれたまえ」
「はっ!」
「それとキングウルフが出没し封鎖された国境を越えてまで、急の報せを伝えてくれた協力員には、ボクがとても感謝していたと伝えておいてくれ。後日、改めて褒美をとらせるとね」
「かしこまりました。その旨お伝えいたします」
ピシっと美しい最敬礼をすると、近衛兵は下がっていった。
「ふぅ……これはまた、大変なことになったね」
「はい。大変なことになっちゃいました」
そしてもう既にこの時点で、わたしは覚悟を決めていた。
そんな、決意を決めたわたしを見て、
「それで、クレアはどうするつもりなんだい?」
ライオネルが優しく問いかけてくる。
「シェンロン王国に行こうと思います」
「シェンロン王国は、君をないがしろにして、使いつぶそうとしたところだよ?」
「シェンロンの民には、関係ありませんから」
「今のシェンロンに向かうのはあまりに危険だ。王都は反乱によって大きく混乱している。行政機能は完全に麻痺しているはずだ。君の安全は保障できない」
「それでも行きます。神龍さまの怒りを鎮められるのは、龍の声を聞ける『神龍の巫女』しかいません。わたししかいないんです」
「シェンロンの東部、つまりブリスタニアとの国境付近では、キングウルフの群れが多数確認されている。それを突破するには相応の戦力が必要だ」
「ライオネルの力で、どうにかできませんか?」
「ブリスタニア軍が今このタイミングで国境を越えるのは、正直言ってとてもまずい。混乱に乗じてシェンロンに侵攻したと見られても、仕方ないからね」
「それでもわたしはいかないといけないんです! 罪のない人たちを見捨てることはできないんです! ライオネル、どうにかなりませんか? お願いします! この通りです!」
わたしはガバッと勢いよく頭を下げた。
地面と平行になるくらいに腰を折って、必死にお願いをする。
わたし一人の力ではとてもシェンロン王国の王都までは、たどりつけないから。
ライオネルの力を借りないと、どうしようもないから――。
そんなわたしに、
「その言葉を聞けて安心したよ」
ライオネルがニコッと笑って言った。
「えっと、ライオネル?」
わたしは「ふぇ?」って感じで顔をあげた。
「わかった。今からすぐにシェンロンに向かう手はずを整えよう。国境を越える以上、どうしてもシェンロン側との調整が必要だ。だから出発は明日の昼でどうかな? それまでに何とか準備を整えてみせよう」
「っ! ライオネル、ありがとうございます!」
「なーに。今はもう他国の人間だからと言って、簡単に見殺しにするようなクレアじゃないってことを、ボクはよくよく知ってるからね。むしろこうでないと困るくらいさ。クレアがクレアらしくいてくれて、ボクは嬉しいよ」
「ライオネル……」
ライオネルが全幅の信頼をしてくれていたことを改めて知って、わたしは嬉しさで胸がいっぱいになっていた。
「さてと、今日はもう遅いから、クレアはしっかり寝て明日に備えて欲しい。主役は君だからね。万全の体調で臨んでくれ」
「えっと、ライオネルはどうするんですか?」
「ボクは今から権力とコネとツテをフルに使って、君をシェンロン王都に送り届ける下準備さ。だから安心して眠ってくれていいよ」
ライオネルは華麗にウインクをすると、さっそうと部屋を出ていった。
わたしは言われた通りにすぐにベッドに入った。
ベッドに入ってすぐは、シェンロンにいた時のこととか色んなことが頭のなかをグルグル回っていたけど、わたしはいつの間にかぐっすいり寝入ってしまっていた。
寝つきがいいもので……えへっ。
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