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第49話 クレア襲撃(下)

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「ふぅ……どうにか勝ったか」
 ライオネルは緊張を解くと、大きく息を吐いた。

「でも怪我をしています!」

 わずかにかすったんだろう。
 ライオネルの左腕の軍服が切れて、その下の肌がわずかに血でにじんでいる。

「ああ、これならかすり傷さ。心配はいらないよ」

「良かったぁ」
 それを聞いて、わたしもほっと一安心だった。

「本当は生かしたまま捕まえて、黒幕が誰なのかを吐かせたかったんだけどね……だけどものすごい剣の使い手だったから、正直ボクも手加減する余裕はなかったよ――、っとと……」

 突然フラリと、ライオネルの身体がグラついたかと思うと、その身体がバタンと地面に倒れたのだ――!

「ど、どうしたんですかライオネル!? かすり傷だったんじゃ――」

 わたしは慌ててライオネルを助け起こす。
 すると、ライオネルが苦しそうに言うんだ。

「くっ……意識がもうろうとしてきた……これは、そうか……どうやら、刃に強力な毒が塗ってあったようだ……」

「毒!? そんなっ!?」

『お前もすぐに俺の後を追うだろうよ……くくっ』

 拉致工作員のあの最後の捨て台詞は、こう言うことだったんだ!
 毒の刃がかすったのが、分かってたからだったんだ!

「これは、本気でまずいな……ぐ、クレアすまない……どうやらボクはここまでのようだ――」

 ライオネルはそう言うと、力なく目を閉じた。

「ライオネル! ライオネル! しっかりしてください! ライオネル!」

 だけどわたしがどれだけ呼びかけても、ライオネルはぐったりとしたまま返事をしないのだ。
 顔は土気色つちけいろをしていて、呼吸もほとんどしていない。

 隊長さんがすぐに医者を呼ぶように部下に命令したけど、それじゃきっと間に合わない――!

 ――だったら、わたしがやるんだ!
 わたしのやるべきことを、わたしにしかできないことを――!

 わたしはライオネルを地面に寝かせると、すっくと立ちあがった。

「すーーー、はーーー」
 一度大きく深呼吸をする。

 そして意識を集中すると、『神龍かぐら』を舞い始めた。
 水龍さまに『奉納の舞』を捧げるのだ。

 今は祭壇も舞台も、道具も、ここには必要なものが何もなかった。
 完全な身一つでの『奉納の舞』は、さすがに初めての経験だ。

 でも、わたしはやってみせる!
 絶対にライオネルを助けるんだから!

 水龍さま、お願いです、わたしに力を貸してください――!

 大切な人への強く深い想いを乗せて舞い踊るわたしは、

『クレアのピンチに私、参上!』
 すぐに水龍さまとのコンタクトに成功した。

「水龍さま、どうかライオネルの毒を解毒してください!」
 わたしは水龍さまにお願いをした。

『まかせてー。毒の分解くらいよゆーよゆー。じゃ、いっくよー、神通力フルパワー! おりゃーーっ!』

 ライオネルの身体が、水龍さまの神通力が具現化した、青い光で包まれる。

 すると――!

「あれ、ボクは……? たしか毒の刃で斬られたはずじゃ……?」
 ライオネルが、それはもうあっさりと目を覚ましたんだ!

「水龍さまの力で、解毒してもらったんです」

「そんなことが――。やれやれ、だめだなボクは。クレアと水龍さまには助けてもらってばかりだ。本当に頭が上がらないよ」

 ライオネルはそんなことを言うんだけど、

「あはは、助けてもらってのるはわたしの方ですよ。今日のことだけじゃありません。初めて会った時もそうでした。わたしのほうこそ、ライオネルにいっつも助けてもらってるんですから」

 それにわたしはただ、水龍さまにお願いして、水龍さまの力を借りてるだけなんだもん。
 すごいのはわたしじゃなくて、水龍さまだよね。

「じゃあそうだね、助けてもらったのは、お互いさまってことで。改めてありがとうクレア」

「はい、お互い様です! 今日は助けてくれたありがとうございました。これからも助け合っていきましょうね」

「もちろんさ。クレアには、これからもずっとボクの隣にいてほしい」

「えへへ、ライオネルも、ずっとわたしの隣にいてくださいよ?」

「ああ、約束しよう」

 わたしとライオネルは、小指を絡め合って指切りげんまんをした。

 こうして。
 拉致工作員によるわたし襲撃事件は、大きな被害を出すこともなく、無事に解決したのだった。

 めでたしめでたし。
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