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黒狼獣人の自覚と行動

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 俺は冒険者になった。まだまだ駆け出しだが、それなりに依頼をこなせている。
 予定通り王都を拠点にしている。今みたいに大通りを堂々と歩ける程度には、身形みなりも良くふところも温かい。
 思った通り、王都は獣人への偏見も少ない。周りとも上手くやっている。今のところ特定のパーティと組んではいないが、誘いは引っ切りなしにある。

(『冒険者になって独り立ちする』ガキの頃からの夢が叶った。なのに俺は……)

 そうだ。それなのに、じわじわと寂しさが募っていった。何かが足りない。腹一杯に飯を食っても、好きなだけ酒を飲んでも物足りない。
 原因はわからなかった。いや、考えればわかりそうだが、考えたくなかった。だから寂しさを紛らわすために、さらに仕事にのめり込んだ。
 そのおかげで、ルークの笑顔も声も忘れていた。ついさっきまで。

 改めて、ショーウィンドウの中をじっと覗き込む。

 様々な土地の写真や絵に紛れた一枚。たった一枚の風景写真が、ルークの笑顔と声を蘇らせたのだ。

 風景写真には、あの日ルークが語ったままの光景が映っている。写真にえられた紙に書かれた地名も同じだ。

『古城は湖の辺りにあるんだ。湖は天気や季節で色が変わる。僕は、春の晴れた日のエメラルド色が一番好きだな。古城は崩れかけているけど、白い石で出来ていて彫刻がとっても見事なんだよ。古城には緋色蔦スカーレットアイビーっていう赤い蔦が絡んでいて、春が特に綺麗で……』

 ルークの声と共に、共に過ごした日々を思い出す。俺たちは四六時中一緒にいた。

 俺が上官に飯を抜かれて、ルークが飯を分けてくれた朝。
 ルークがまだ幼い敵を殺して泣き喚いて、俺が担いで逃げた昼。
 俺がカードゲームでカモられかけて、ルークが受けて立って全勝した夜。
 二人とも血塗れで、絶対に生きて帰ろうと誓った朝焼け。
 そして、あの別れの日。お前は俺に言ってくれた。

『ダン。僕の村に来て欲しい。一緒に暮らそう』

 何もかもが鮮やかだ。ルークが俺の隣にいない現実ですら。

(俺、どんだけルークに依存してるんだよ。
 ……ああ、認めるさ。俺はルークのことを……。
 ルークは俺を戦友か友達としか思っていない。しかも、あんなに純粋な目で信頼してくれているのに。俺は不純で欲望まみれだ。嫌になる。……これも、俺が不吉な黒狼だからか?)

 ルークの「そんな訳でないだろ!馬鹿!」という怒鳴り声が蘇る。戦況があやしくなった時、周りの何人かが俺に絡んで来た。いつもの事だ。
 無視してやり過ごすつもりだったが、ルークは本気で怒って言い返した。「たかが毛の色で言いがかりをつけて怯えるだなんて情け無い!ダンに酷いこと言うな!」と、叫んだ。乱闘になってまとめて謹慎を食らったが、俺は嬉しかった。
 俺はますます、ルークが大事になった。

 だからこそ、俺は寂しさの原因を考えないようにしたし、ルークを思い出さないようにしていたのだろう。
 だけどもう、思い出して自覚してしまった。狼獣人としての本能が、俺を突き動かす。

「ルークに会いたい」

 俺は急いで依頼を片付け、王都から南部へと旅立ったのだった。


 ◆◆◆◆◆


 一カ月後。俺はルークの村に到着した。
 季節は爛漫らんまんの春。そこら中に野花が咲いていて、長閑のどかで美しい。

(やっとルークに会える!……いや、会っていいのか?俺はルークのことを……。
 しかも、手紙すら送らずいきなり来てしまった。流石に引かれるんじゃないか?)

 俺は今さら悩みつつ、とりあえず村の門に向かった。
 山間部の村らしく、村の周りは石を積んだ壁に囲われている。こういった場合、余所者よそものは門で審査を受けなければ出入りできない。

 門は開かれていて、詰所には初老人間の男と、ドワーフの男女が三人ほどいる。うち、ドワーフの男女二人は斧を持っている。彼らが門番なのだろう。

 入村許可を得るため俺は近寄った。しかし。

「冒険者だ。入村手続きをし……」

「はいはい……は?あ、あんた……」

「お、狼だー!黒狼が来たぞー!」

「おばちゃん!おっちゃん!俺!あいつを呼んでくる!」

 三人は俺の顔を見た瞬間、目を見開いて絶句したり、叫んだり、村の内部へと駆け出したりした。

(しまった!獣人嫌いが多い村か?)

「ま、まて!俺は怪しい者ではない!村には友人が……!」

 俺は焦った。
 残ったうちの一人。おばちゃんと呼ばれた門番が、俺の腕を掴み引き寄せる。ドワーフなだけあり力が強い!

(クソ!抵抗したらルークに迷惑が……!)

「アンタ!早く中に入んな!今あの子を呼びに行ったから!」

「は?」





◆◆◆◆◆



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