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第四章ガードマン、オークの花嫁になる
ガードマン、オークの花嫁になる【27】
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閲覧ありがとうございます。本日から四章完結まで1日2回更新します。
◆◆◆◆◆
ザックの気持ちが嬉しい。幸せ。でも。
僕は声を張り上げた。
「だ、駄目だよ!しがらみがないなんて嘘じゃないか!ご両親と疎遠になって心配させてるし、お兄さんのお墓参りもできてないし、オグルさんたち上司同僚だって君を思っているし、ザックは何だかんだでこの家での生活を楽しんでいるし、何より……。
ザックが、姿を偽らないと生きていけないなんて嫌だ。悲しいし寂しいよ」
「ミツバ……」
ザックが移動して僕の肩を抱いた。心配そうに揺れる緑の瞳を、僕はキッと睨んだ。
「だから僕が君の世界に移り住む!」
「なっ!だ、だが君にはご両親に遺された家があるだろう!?」
「家は誰かに譲るか売ればいい。どっちみち、結婚したり子供を作る気はなかったから、将来的にはそうするつもりだったし」
「魔獣がいる危険な世界だ!昨日のことを忘れたのか!?」
「でも剣で斬り落とせた。他にも対処法はあるでしょう?もっと強くなれるよう訓練するし、対処法を勉強する。どうしても無理だったら、寂しいけど近くの人里で暮らしてザックが通ってくるのを待つよ」
「う、それなら……いや……しかし……」
戸惑っていたザックが、ハッと閃いた顔になる。
「ガードマンの仕事は「辞める」
仕事はとにかく辞めたい。なんで続けてたのか、今となってはわからない。
色んな意味で心身共に回復した今ならわかる。うちの会社ってブラック企業だし、このままだと過労死一直線じゃん!
もう仕事のこと考えたくないから、このまま流そう。
「父さん母さんの墓参りが出来なくなるのは悲しいけど……。
でも、『子供はいつか巣立つもの。一人でも生きていけるよう勉強して様々な経験を積みなさい』って父さんは言ってた。
母さんも、『どうしてもやりたい事が見つかったら、思いっきりやってみなさい』って。
もちろん『やったことの責任は取るように』とも言われたけどね」
ザックは優しく微笑んだ。
「……優しくて厳しい、良いご両親だな」
「でしょう?だからザックの世界に行く。ありのままの姿のザックと一緒になりたいから」
「っ!そうか……そうか……ありがとう……だが、俺も君に君が生まれ育った世界を捨てて欲しくない。これは我儘だろうか……」
ザックの瞳から涙があふれる。葉っぱについた雨粒みたい。キラキラして綺麗。
膝立ちになって、ザックの頭を両手で包んだ。涙をぬぐって見つめ合う。
「僕も我儘だからいいの。夫婦は似てくるって言うしね」
「ああ、こちらでも【円満夫夫は見分けがつかぬ】という言葉があるな」
「全然違う世界なのに、似たような言い回しがあるんだ。面白いね。……僕、そっちの世界でも生きていけると思う。もちろん苦労するだろうし、そっちで使える財産も仕事もないけど、頑張るよ。
だからザック、僕の愛しい人。僕と一緒に生きて」
「っ!もちろんだ!」
僕らは抱きしめあった。
◆◆◆◆◆
あれから二週間近く経った。今日まで色々なことがあった。
仕事を辞めると上司に告げたり、僕の家にザックを招いて父さん母さんの写真に紹介したり、すでにシフトを組まれた残業と休日出勤で疲れ果てたり、ザックに癒されたり、上司や先輩に引き留められて暴言をぶつけられたので戦ったり、ザックとイチャイチャしたり、警備課と人事課と上層部が揉めだしたり。
「やってらんないよ」
晩御飯後のイチャイチャタイムで愚痴った。
ザックの膝に乗って甘える。ソファみたいに安定感があって身体が楽だ。
「なんとか退職できる事になったけどさ。一ヶ月で辞めたかったのに、引き継ぎと有休消化の関係で三ヶ月に伸びちゃった。やだなあ。もうさっさと辞めたい。
……僕らのこれからの事、決めなきゃいけないのに」
明日は休みだ。そしてシスルさんたち魔法局が来て【門】の調査をする。
結局、どちらがどちらの世界に行くかは、調査結果を聞いて決めることにした。【門】は閉じないかもしれないしね。
「ミツバ、お疲れ様。たとえ【門】を閉めると決まったとしても、三ヶ月程度は待ってもらえる。その間、どちらが相手の世界に行くか話し合って決めよう」
「うん」
出来れば僕がザックの世界に行きたいけど、ザックもそう思っている。しっかり話し合った方がいい。
覚悟を決めて、この日はSEXせずにまったりイチャイチャしながら眠った。
……本当はしたかったけど、仕方ない。抜くだけでもその気になっちゃうもんね……。
◆◆◆◆
翌朝。
シスルさんとオグルさんが、ザックの家にやって来た。【門】と……何故か僕を調査する。
そして、もう一人意外な人物がいた。
◆◆◆◆◆
ザックの気持ちが嬉しい。幸せ。でも。
僕は声を張り上げた。
「だ、駄目だよ!しがらみがないなんて嘘じゃないか!ご両親と疎遠になって心配させてるし、お兄さんのお墓参りもできてないし、オグルさんたち上司同僚だって君を思っているし、ザックは何だかんだでこの家での生活を楽しんでいるし、何より……。
ザックが、姿を偽らないと生きていけないなんて嫌だ。悲しいし寂しいよ」
「ミツバ……」
ザックが移動して僕の肩を抱いた。心配そうに揺れる緑の瞳を、僕はキッと睨んだ。
「だから僕が君の世界に移り住む!」
「なっ!だ、だが君にはご両親に遺された家があるだろう!?」
「家は誰かに譲るか売ればいい。どっちみち、結婚したり子供を作る気はなかったから、将来的にはそうするつもりだったし」
「魔獣がいる危険な世界だ!昨日のことを忘れたのか!?」
「でも剣で斬り落とせた。他にも対処法はあるでしょう?もっと強くなれるよう訓練するし、対処法を勉強する。どうしても無理だったら、寂しいけど近くの人里で暮らしてザックが通ってくるのを待つよ」
「う、それなら……いや……しかし……」
戸惑っていたザックが、ハッと閃いた顔になる。
「ガードマンの仕事は「辞める」
仕事はとにかく辞めたい。なんで続けてたのか、今となってはわからない。
色んな意味で心身共に回復した今ならわかる。うちの会社ってブラック企業だし、このままだと過労死一直線じゃん!
もう仕事のこと考えたくないから、このまま流そう。
「父さん母さんの墓参りが出来なくなるのは悲しいけど……。
でも、『子供はいつか巣立つもの。一人でも生きていけるよう勉強して様々な経験を積みなさい』って父さんは言ってた。
母さんも、『どうしてもやりたい事が見つかったら、思いっきりやってみなさい』って。
もちろん『やったことの責任は取るように』とも言われたけどね」
ザックは優しく微笑んだ。
「……優しくて厳しい、良いご両親だな」
「でしょう?だからザックの世界に行く。ありのままの姿のザックと一緒になりたいから」
「っ!そうか……そうか……ありがとう……だが、俺も君に君が生まれ育った世界を捨てて欲しくない。これは我儘だろうか……」
ザックの瞳から涙があふれる。葉っぱについた雨粒みたい。キラキラして綺麗。
膝立ちになって、ザックの頭を両手で包んだ。涙をぬぐって見つめ合う。
「僕も我儘だからいいの。夫婦は似てくるって言うしね」
「ああ、こちらでも【円満夫夫は見分けがつかぬ】という言葉があるな」
「全然違う世界なのに、似たような言い回しがあるんだ。面白いね。……僕、そっちの世界でも生きていけると思う。もちろん苦労するだろうし、そっちで使える財産も仕事もないけど、頑張るよ。
だからザック、僕の愛しい人。僕と一緒に生きて」
「っ!もちろんだ!」
僕らは抱きしめあった。
◆◆◆◆◆
あれから二週間近く経った。今日まで色々なことがあった。
仕事を辞めると上司に告げたり、僕の家にザックを招いて父さん母さんの写真に紹介したり、すでにシフトを組まれた残業と休日出勤で疲れ果てたり、ザックに癒されたり、上司や先輩に引き留められて暴言をぶつけられたので戦ったり、ザックとイチャイチャしたり、警備課と人事課と上層部が揉めだしたり。
「やってらんないよ」
晩御飯後のイチャイチャタイムで愚痴った。
ザックの膝に乗って甘える。ソファみたいに安定感があって身体が楽だ。
「なんとか退職できる事になったけどさ。一ヶ月で辞めたかったのに、引き継ぎと有休消化の関係で三ヶ月に伸びちゃった。やだなあ。もうさっさと辞めたい。
……僕らのこれからの事、決めなきゃいけないのに」
明日は休みだ。そしてシスルさんたち魔法局が来て【門】の調査をする。
結局、どちらがどちらの世界に行くかは、調査結果を聞いて決めることにした。【門】は閉じないかもしれないしね。
「ミツバ、お疲れ様。たとえ【門】を閉めると決まったとしても、三ヶ月程度は待ってもらえる。その間、どちらが相手の世界に行くか話し合って決めよう」
「うん」
出来れば僕がザックの世界に行きたいけど、ザックもそう思っている。しっかり話し合った方がいい。
覚悟を決めて、この日はSEXせずにまったりイチャイチャしながら眠った。
……本当はしたかったけど、仕方ない。抜くだけでもその気になっちゃうもんね……。
◆◆◆◆
翌朝。
シスルさんとオグルさんが、ザックの家にやって来た。【門】と……何故か僕を調査する。
そして、もう一人意外な人物がいた。
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