上 下
32 / 77
第二章王太子、オークの花嫁になる

王太子、オークの花嫁になる【16】

しおりを挟む
 シスルが緑鉄国に連れて来られて一週間と少し経った。今日は、クオーンとツカサの結婚式だった。無事に終わり、後は披露宴だ。待ち時間の間、ツカサとクオーンは控え室でイチャイチャしていた……のだが、今のツカサはブチ切れていた。

「このむっつりオーク!すけべ!すけべ!」

「ツカサ、落ち着きたまえ」

「落ち着いてられるかー!」

 罵られているのは、シスルと共に挨拶に来たオグルである。

「うるせえ!テメェにだけは言われたくねえんだよ!万年発情期が!」

「オグル落ち着け!王配陛下に向かって失礼だろうが!」

 オグルもまた怒鳴り返す。シスルが止めるが止まらない。
 どうしてこうなってしまったのか。話は少しだけさかのぼる。

 ◆◆◆◆◆

 オグルが王族の一員として、自分の花嫁であるシスルを伴い控え室に挨拶に来てくれた。オグルは近衛騎士隊長であり、今回の披露宴の警備責任者だ。それと同時に参列者でもある。始まってしまえば話す間も無いので、披露宴が始まる前に挨拶をしたかったのだという。

「オグル叔父、シスル殿、お越しいただきありがとうございます。どうか楽になさって下さい」

「二人ともいらっしゃい。お茶とお菓子もあるから食べてくれ」

「おう。邪魔するぜ」

「お邪魔します」

 ツカサは人払いをし、大喜びで席をすすめた。二人からの挨拶と祝福を受けつつ様子を観察する。色々と心配だったのだ。
 シスルは、オグルの婚約者になったその日の内に花嫁に……要するに初夜を迎えて婚姻していた。
 知らせを受け、ツカサとクオーンは度肝を抜かれたものである。オグルは『あくまで保護だ。手は出さん』とか言っていた。なのに一日経つか経たないかで手を出したのだ。
 ツカサは、『くっ殺王子RTA』『頭の固いことばかり言ってたけど肉棒の方が固かったか』などと、自分のことを棚上げして下品極まりない感想を抱いた。同時に、シスルのことが心配だった。かつての拉致誘拐の恨みはもう無い。だってあの女王様怖すぎる。シスルの身の上にひたすら同情していた。クオーンも同じ気持ちだ。

「シスル、この砂糖菓子は美味いぞ」

「どれ……ほう、これは花の香りか?美味いな」

(大丈夫だったみたいだな。よかった)

 二人は仲睦まじそうだ。また、シスルは以前の険しさや傲慢さが薄れて朗らかになっている。
 クオーンとこっそり視線を交わし『よかった。うまく行ったみたいだ』『ああ、安心したよ』と伝え合う。二人はシスルに微笑みかけた。シスルは何を思ったか居住まいをただして頭を下げる。

「国王陛下、王配陛下、私のこれまでの不敬を謝罪します。私の罪は全て私が負います。どうか生まれてくる子供には寛大な処置をお願いします」

「もちろんだよ!俺はいま最高に幸せだし気にしないで!これからはオグルと一緒に俺たちを支え……は?子供?」

「その通りだ。シスル殿の罪はすでに償われている。これからはオグル叔父の伴侶として、私たちを支えてくれれば……は?」

 シスルはポッと頬を染め、オグルはドヤ顔でその肩を抱きのたまった。

「今朝わかったんだが、俺らの間にも子供が出来た。式は出産後にするからよろしくな」

 こうして、事態は冒頭に戻るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎
ファンタジー
VRMMOでネカマをするのが趣味の大学生が新作をプレイしようとしていたが気付けば見知らぬ場所に。それを新作のキャラメイクと勘違いした彼は目の前のハゲたおっさんから転生設定のタブレットを強奪して好き勝手に設定してしまう。「ぼくのかんがえたさいきょうのきゅうけつき」を作成した彼は、詳しい説明も聞かず勝手に転生をしてしまう。こうして勘違いしたまま女吸血鬼フィーネ・アルジェンタータとして転生を果たし、無双するべく活動を開始するが、あまりに滅茶苦茶な設定をしたせいで誰からも吸血鬼だと信じてもらえない。こうして予定調和の失われた世界は否応なしに彼女を数奇な運命へと導いていく。 No とは言えない日本人気質、それなりに善良、そしてゲームの世界と侮って安易な選択を取った彼女(?)が流れ着いた先に見るものとは……? ※小説家になろう様、カクヨム様にも同時投稿しております ※2021/05/09 タイトルを修正しました

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,830万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。 そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。 悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。 「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」 こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。 新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!? ⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎

処理中です...