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第二章王太子、オークの花嫁になる

王太子、オークの花嫁になる【14】

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「将軍職は辞した。今は近衛隊隊長で、この家にいる間はただのオグルだ。花嫁の心配くらいさせてくれ。後始末はしたが、どこか辛いところはないか?痛みは?」

 シスルは頬を赤らめて目を伏せた。

「花嫁……そうだな。だが、なんともない。腹が減ったぐらいだ。な、なんなら確かめればいい……んっ」

 朝から大胆な誘いにオグルの欲が煽られた。衝動的にキスをする。互いの唇の感触を楽しむ程度の軽いものだったが……。

「んっ……なんだ……急に……はぁ……下腹が……うずいて……オグル……あっ……」

「シスル!とにかく服を着て食事をしよう!俺の理性が生きているうちに!」

 発情の兆しに、オグルはすぐに身体を離した。今日は休みだが、このまま食事もさせずにいたす訳にはいかない。
 それにしてもと、内心で戦慄する。
 シスルの身体は明らかに変わっていた。見た目はほとんど変わらないが、オグルが少し触れただけで下腹が甘くうずく様子だ。匂いでわかる。たった一夜のまぐわいで、雄子宮がすでに出来てしまったのだろう。恐らく、愛液も分泌されているはずだ。本当にオークの花嫁になるために生まれたような身体だ。
 シスルに簡単に説明すると、あっさり受け入れた。

「なるほど。確かに離れてしばらくすると治るな。ああ、言っておくが嫌ではないし後悔もしていないからな。私の覚悟をみくびるなよ」

「ああ、わかった。それでも辛いこともあるだろうから、遠慮なく言ってくれ。発情を抑える薬茶もある」

 ベッドサイドに跪き、うやうやしくシスルの手を取って口付ける。シスルは鷹揚に頷きオグルをからかう。

「うむ。わかった。……しかし、あの切れ者将軍も花嫁には甘いのだな」

 いっそ呑気なほどの明るさだ。
 明るさに救われつつ、オグルは医師にみせるかどうか考える。シスルの状態は、何度か抱き合って雄子宮が熟せば安定するだろうか。それまでに抱き潰しそうで恐ろしい。
 実に悩ましい。だが、幸せだ。心身共にオグルの花嫁になってくれたのだから。
 シスルが服を着ている間、オグルは朝食を取りに行った。執事をはじめとする使用人たちが、涙を流して祝福してくれる。特に古参の者たちはテンションがアレだった。

「本当によろしゅうございました!旦那様はいつもご自分のことは後回しにされていらしたので心配で心配で……爺は嬉しゅうございます!」

「今宵は祝宴ですよね?大切な花嫁様をおもてなししなければ!いいですか?いいですね!」

「宴じゃあああああ!今夜は無礼講じゃ!酒蔵の酒を干すまで飲むぞおおおおお!」

「お、おう……心配かけてたんだな……悪かった」

 むず痒いが、嬉しいオグルだった。
 シスルは、オグルの用意した服を着て大人しく待っていた。二人分の朝食の乗った盆をベッドの上に置いて食べる。メニューは、スープ、サラダ、籠いっぱいの焼きたてパン、ベーコンエッグだ。そこまで豪華ではない食事だが、シスルの口にあったらしい。目をキラキラさせて物凄い勢いで食べている。丸一日以上なにも食べていなかったらしいので、当然かもしれないが。
 そういえばと思い出す。シスルは捕虜だったころ、食事に文句を言ったことはなかった。
 部屋の換気が悪いこと、明かり取りの窓が小さ過ぎること、本と会話以外の娯楽が全くないこと等には散々文句を言っていたが、出された食事は残さず食べたし、時に褒めることもあった。

「何度か戦場に出れば、食べられるだけありがたいとわかるからな。カビたパンと腐ったビスケットの味は悪夢だ。忘れられない……。そもそも、あの時の食事もこれも上等の部類だと思うが?『緑鉄国のオークは美食家ぞろい』というのは本当だったのだな」

 戦場とはいえ王太子の食べるものではない。聞けば、シスルは反対を押し切って配下と同じ粗食を貫いていたのだという。この辺りも慕われた所以だろう。そう思ったが、それには触れない。代わりに甘く見つめて囁いた。

「確かに俺は美食家だな。なんせ、お前以外を花嫁にしたいと思えなかったんだから」

 囁きながら、パンを頬張った頬を撫でる。

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