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第一章サラリーマン、オークの花嫁になる

サラリーマン、オークの花嫁になる【3】

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「安心しなさい。君のことは私が守る」

 きゅん。胸が痛い。ドキドキして顔が熱くなってるのが自分でもわかった。何か返事をしなければとまごついている間に、王太子が立ち上がり唸るように言った。

「ふん!孕ませ豚の末裔ごときが気取るな……ぎゃん!」

「うるせえパワハラ誘拐犯が!この人を馬鹿にするな!」

「王太子殿下あああああ!」

「おお!いい右だ。やるなあの人間」

「流石は国王陛下の花嫁だ」

 色々限界だったので思いっきりぶん殴って踏んでやったのだった。

 ◆◆◆◆◆

 この後、王太子一行は速やかに追い出された。

「彼は私が保護するが、不義理と暴言については改めて貴国に抗議する」

 王太子は真っ青になっていたが、知ったことではない。
 俺はオークの騎士さんたちに丁重に扱われ、城の一室に案内された。とんでもなく広くて豪華な部屋だが、壁も調度品も温かみのある色で落ち着く。それに、オークの侍女さんたちはとても上品で優しかった。

「まあ!こんなに細い腰をコルセットでさらに絞るなんて!」

「お労しい。さぞ、お苦しかったでしょう?」

「え、ええ。まあ……あ、後は自分で脱げますから!大丈夫です!」

 侍女さんたちに花嫁衣装を脱がしてもらうのは恥ずかしかったが、おかげで元のスーツ姿に戻れた。
 ちなみに何故スーツに着替えられたかというと、俺と一緒に召喚されたスーツ、ベッド、ベッドの上のホニャララも、クオーンへの献上品にされていたからだ。部屋の隅に置かれていたのでサクッと着替えられたのである。というか、侍女さんたちにも見られたってことだよな。ディルドとかを。辛い。
 そんなことより、今後のことだ。楽な格好に着替えたら、改めてクオーンと話し合うことになっている。

「ツカサ様、ご体調はいかがでしょうか?陛下もご心配されています。お辛いようでしたら……」

 気遣いの出来る人だな。またキュンとするが、今はそれどころじゃない。

「いえ!大丈夫です!」

 俺はビシッとスーツに着替え臨戦態勢になった。交渉は初手が大事だ。
 帰れないなら、出来るだけ良い条件で暮らせるようにしたい。例えば誰かの庇護の元で悠々自適生活とか。

『安心しなさい。君のことは私が守る』

 そこで真っ先に浮かんだのが、クオーンの言葉と凛々しい立ち姿だった。ポッと顔が赤くなるのが自分でもわかったが、頭を振る。
 あんなに格好いいし、庇ってもらったからトキメクのは仕方ない。だからこの感情は恋じゃない。そう、自分に言い聞かせながら。

 ◆◆◆◆◆

 案内されたのは食堂だった。
 俺とクオーンは、大きなテーブルの端と端に座る。体調に問題なければ、食事をしながら話そうということだった。召喚されてからろくに食べてないので、ありがたかった。

「どうか作法は気にせずくつろいで欲しい」

 嬉しいが、声が遠い。顔もよく見えない。

「では、もう少し国王陛下のおそばに座らせて頂けないでしょうか?」

「私の側に?……いや、私は構わないが」

 クオーンはまた驚いたようだが、嫌ではないらしい。俺はさっさと移動して隣に座った。改めてデカい身体だ。俺より一回りは大きいな。というか、周りのオークより明らかに大きい。うわあ、服越しでも筋肉がゴツゴツしてるのがわかるカッコいいな。顔も厳ついけど、頼もしいし眼差しが優しい。

「……そんなに見つめられると困ってしまうな」

「えっ!すみません!カッコよくて見惚れてました!」

「か、カッコいい?」

 あっ!容姿について言及するのはセクハラだった!なんてことだ!社内研修受けたのに!俺はセクハラクソ野郎だ!

「す、すみません。不躾なことを言ってしまって……」

 自己嫌悪で落ち込んでるのが伝わったのか、クオーンは優しい顔で笑ってくれた。

「謝らなくていい。嬉しいよ」

 きゅんを通り越してギュン!心肺停止!に、なりかけたのだった。

「改めて名乗ろう。私は緑鉄国国王クオーンだ」

「俺は平元ツカサと言います。ツカサが名前なので、どうかツカサとお呼び下さい」

「わかった。君も陛下ではなくクオーンと呼んでくれたまえ」
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