アイツのきもち

うにたん

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第24話 月夜の下のダンスパーティー

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「ねえ、アンタたちに聞きたいことがあるんだけどさ…… 本当の恋…… ってした事ある?」

 半グレ達は仲間が…… しかも女にやられた事に腹を立てる所だが…… 明日奈の場にそぐわぬ質問に若干脱力していた。

「鯉? 何言ってんだ? お前、頭イカレてんのか?」

「イカレてる……か。言い得て妙よね。恋をしている奴なんてみんな頭のどこかがイカレてる奴等ばっかりなのよ……

 頭が麻痺しちゃってるのよ……。 
 
 自分が世界のヒロインだなんて錯覚しちゃうの。
 
 だから周りが見えていなくて、正常な判断もできなくて、自分本位な行動に出ちゃったりするのよ。

 掻く言う私のその一人……。
 
 しかも十年以上…… 笑っちゃうでしょう?
 
 私はね、正直に言うとあの子が『彼』だろうが『彼女』だろうが何でもよかったの。
 
 ただ、あの子の隣に居られれば良かった。
 
 唯一の存在になりたかった。
 
 だから何度も何度も告白手を伸ばしたけど、私じゃあ悠里には届かなかったんだなあって…… 
 
 それがさ…… 高校で突然現れた間男に横から搔っ攫われたわけよ。
 
 腹立つでしょう?
 
 だから…… 私のモノにならないんだったらせめてあの子の心を私と言う存在で一杯にしたいって血迷った行動にも出たわ。
 
 でもその結果、二人は余計に距離を縮めちゃってさ……
 
 私は何してたんだろうって思い始めた時に、間男が私に土下座したりさあ、ソイツの為に動いたりして……
 
 最終的にはゴールインまでしちゃったのよね。
 
 私の大切なあの子の為に上手く行って欲しい気持ちが半分と、
 
 間男が失敗すれば私の元に帰ってきてくれるかもしれないという気持ちが半分で見守ってたの。
 
 結果は上手く行ったわ…… でもね、上手く行って良かったというホッとした気持ちの半分を台無しにしてくれた……
 
 私にぶち殺されても文句を言えない野生のクズ共がとびだしてきた……
 
 ねえ、誰の事を言っているか分かるかしら? 野生のクズ共」
 
 
 明日奈は晴れ晴れとした表情から一転、次第に表情は無理に笑っているけど、目が全く笑っていない…… むしろ殺意まで出し初めて指の骨を鳴らして半グレ達を威嚇していた。
 
 
「始めましょうか。失恋八つ当たり月夜の下のダンスパーティーの開幕よ」





 つい先程まで二人っきりの世界に入っていたはずの悠里と透は打って変わって焦りの表情をしていた。

「お願い、戻って。明日奈を一人になんて出来ない」

「その明日奈から君の事を頼まれたんだから戻るわけには行かないだろ。僕達がいてもただの邪魔にしかならないんだから」

 透の言う通り、仮に自分たちが戻ったとしても足手まといにしかならないのは悠里も理解している。
 
 何もできない自分に歯がゆい気持ちにうっすら涙を浮かべている。

「どうにか…… どうにかならないの……?」

「悠里はスマホを出してくれ」

「どうするつもりなの?」

「僕達では力にはなれないけど、出来る事はあるだろ。近くの交番を探してくれ」

 ようやく透の意図を汲んだ悠里は急いでバッグからスマホを取り出して近所の交番を探し始めた。




 
 明日奈の八つ当たりダンスにより、追加で六人程地面に倒れていた。
 
 大切な悠里の一世一代のイベントが穢された事は明日奈にとってもブチギレ事案であるため、割と本気の一撃を全員に見舞っていた。
 
 結果として、少なくともボディーを受けた輩はアバラが折れ、顔面に受けた輩は頬骨が砕かれて、腿にケリを受けた輩は脚が変な方向を向いて地面でゴロゴロのたうち回っていた。
 
 その様子を見ていたリーダ格の男は目の前の光景に唖然としている。
 
「バ、バケモンか…… コイツ……」
 
 明日奈は煽り立てる様にクスクス笑っている。

「この程度で化物呼ばわりなんてね…… アンタ達が如何に弱者だけを相手にしてきた雑魚虫でしかないのかが、今の会話だけでもよーく分かるわ」
 
 雑魚虫呼ばわれされた半グレの中心にいるリーダー格の男が額に青筋を立ててご立腹している。
 
「あ”ぁ”? 『歩毛津都 紋素田亜』ナメてんのか? コラァ。こっちは犯罪なんてビビらねえんだよ。テメエ等とは覚悟が違えんだよ、コラ」

「その名前…… 版権に引っ掛かりそうだから改名しておきなさい。ついでに犯罪アピールをするなんて情けない。警察に『ゲットだぜー』される事をおススメするわ」

「ザケンナ、俺らの方が先なんだよ。改名するのはあいつ等だろうが!」

「そう思うのであれば法廷で決着を着けなさい。あの会社の法務部は国内最強と言われてるけど…… アンタ達に勝てるのかしら?」

「何訳の分かんねーこと言ってんだ、テメエ」

「バカは理解しなくていいわ。そんな事より、もう私に突っかかってくるのは辞めたのかしら? パーティーはまだ終わりじゃないわよねえ」

「チッ、同時に掛かれ」

 リーダー格の男の指示のもと、六人掛かりで明日奈へ同時に突っ込んでいった。
 
 明日奈はぴょんぴょんとステップを刻みながら、男達から距離を取っていた。
 
 それを繰り返していると、次第に同時に突っ込んできていたはずの男たちの連携が乱れ始めて、
 
 一人で突っ込んでくるもの、遅れて二人で突っ込んでくるなどと、明日奈に翻弄されていた。

 同時に突っ込んでくる人数が減るや否や、明日奈は急に反転して人数が少ない集団から八つ当たりダンスしていた。

「同時に掛かるというのは悪くない案だけど、それなら逃げ道を封じる様に囲まないと話にならないわよ」

 残り人数が二人となり、数的有利が無くなったにも関わらず、勝ち誇ったかのようなリーダー格の男。 

「おい、バケモン。こっち見ろや、コイツお前のお友達だろ?」

 明日奈がリーダー格の男の指を指した方向を見ると、腕と首をがっちりホールドされた瑞樹がいた。
 
 瑞樹を捕まえた男は瑞樹の頬にピタピタにナイフを当てている。
 
 瑞樹は大して焦ってもいなそうな表情で明日奈に舌を出しながら詫びをしている。

「明日奈、ごめーん。近寄って様子見てたら捕まっちゃった…… テヘッ」

 全く反省の色の無さそうな瑞樹に頭を抱える明日奈。

「あのバカ……」

「お友達の顔に一生消えない傷を付けられたくないから動くなや、バケモン」

 リーダー格の男は全長四十センチ、刃渡り二十センチはあろうかという大型のサバイバルナイフを懐から取り出した。
 
「さっき随分と舐めたこと言ってくれたよなあ…… 覚悟があるっつったよなあ…… テメエの身体にコイツをぶっ刺された後に後悔しろや」
 
 男は完全に眉間に皺を寄せて感情だけで会話をしている様だった。
 
 しかし、明日奈はそんな男の表情を見てさらに薄ら笑いで煽り立てる。
 
「あのさ…… 本当に殺る気あるならぐちぐち文句垂れてないで普通はとっとと刺すものよ。覚悟がどうとかさ…… そんな言葉を口にしないと人に刃物も突き立てられない時点で雑魚虫って言ってんの気付かない?」
 
 リーダー格の男は明日奈の言葉に激昂してサバイバルナイフを両手で構えて明日奈の心臓に向かって突進した。
 
 



 悠里がスマホを取り出して調べた交番に向かっていた。
 
 悠里の誘導により、道を曲がった先に交番の光が見えた。
 
 交番に駆け込むと、透は悠里を降ろすと、地面に座って息切れしている。
 
 悠里は交番勤務の警察官にかけると必死の形相で訴えた。

「お願いします! 明日奈を…… 私の大切なお姉ちゃんを助けて」

 交番で待機していた警察官は必死に訴えてくる悠里の言葉を「落ち着いて」と促して事情を確認した。
 
 二人で埠頭を歩いている時にガラの悪い男達に囲まれた事、
 
 そこにたまたま(?)居合わせた明日奈が庇って逃がしてくれたこと、
 
 自分の事を強姦する様な発言をしていた事、
 
 もし明日奈が捕まったら同じ目に合わされるかもしれないと。
 
 悠里が必死に訴えた結果、警官が埠頭まで駆けつけてくれることになった。
 
 目撃した人数と絡んできた輩の特徴から応援が必要と判断した警官は応援を要請して、
 
 先に現場に向かう事となった。
 
 更にそこからその十数分後…… 現場に戻った悠里と透が目撃したものは……
 
「う、うそ…… でしょ……」

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