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第20話 新しい道
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喫茶店に入って来た女性はこちらに向かって会釈すると、こちらに近づいてきた。
後ろから大柄の男が入って来た。彼が現在の香織の彼氏なのだろう。
女性が近づいてくる度に鼓動が高鳴っていく。頭の中に映像が蘇りそうになりノイズが走り出す。
汗がどっと噴き出してくる。身体が震えているのが判る。
その直後、頭を引っ叩かれて正気に戻った。
なんて強引な手法…… 明日奈らしいと言えばそうなんだけど。
そちらを振り向くと明日奈が小声で「吞まれるな」という言葉が微かに聞こえた。
明日奈…… ありがとう、なんとかなりそうかもしれない。
改めて女性の方に振り向きなおす。
間違いない……。
この人が本物の『金城 香織』だ。
明日奈からは整形をしていると聞いてはいたが、元がどんな顔だったかすら今は思い出せない。
彼女は僕の目の前まで来ると……
頭を下げていた。
「お久しぶりです。一条君はもう私の顔は覚えていないかもしれませんが、当時お付き合いしていた『金城 香織』です…… 今は苗字が変わって根岸になってますけど……」
妙に息苦しい……。長距離走でも走っている気分だ。
「ひ、久しぶり…… い、一条 透です。…………ていうかわざわざ言わなくても知ってるよね、あはは」
こ、言葉が出ない。無理に愛想笑いをしてみたものの、誰も笑っていない。完全に失敗した。
無理をしているのが彼女にも伝わっているのだろう。彼女は一旦席に着くと、こちらを向いて再度頭を下げ始めた。
「あの時は、貴方がわざわざお見舞いに来てくれたのに、罵詈雑言をぶつけて、貴方を追い返してしまってごめんなさい。謝った所で何もならないのは理解してます。貴方が置かれている状況も理解してます。私のせいで与えてしまった精神的苦痛を和らげる事が出来るのであれば私にできる事は何でもします。出来る事の最初として謝罪させてください」
「あ、ありがとう……。金城さんの謝罪を受けれいます。正直、僕も駆けつけるのが遅れてしまった事を後悔してるんだ。もっと早く駆けつけられたら…… もっと早く気付いていたらって…… たらればなんて言ってもキリはないのは分かるんだけど、それだけ後悔してた。だから、僕も駆けつけられなくてごめんなさい」
金城さんは僕が謝罪するとは思ってなかったようで、キョトンとした表情で僕を見ていた。
少しすると彼女は僕からの謝罪を想定していなかったのか、何か躊躇っているように見える。
彼女はそのままゆっくりと口を開いた。
「私は貴方に謝ってもらう資格なんてないんです。貴方と付き合った後で妬まれるのも、恨まれるのも最初から分かっていた上で付き合ったはずなのにね。あの三人に呼び出された事だって――」
なんて話をしている時に明日奈が割り込んできた。
明日奈は肩肘をついてとても退屈そうにしていた。
「アンタ達さっきからお互い謝ってばかりだけど、なんか楽しかった思い出とかないの? 笑える様なネタとかで、もう少しポジティブな話しなさいよ」
思い出…… いきなりそんなこと言われてもな……。
何しろ、彼女の事は病室のインパクト強すぎて、他は殆ど忘れてるしな……。
なんかきっかけみたいなのがあれば……。
必死に思い出そうとしていると金城さんが思い出し笑いをし始めていた。
「そういえば、一条君と初めてのデートをした時なんだけど、本当に笑っちゃう出来事があって――」
それを言われた時に頭の中でカチリと鍵が開いたような音がしていた。
そういえば…… そんな事もあったような……。
徐々に昔の…… 彼女と笑いあっている時のことを思い出し始めていた。
そうか、僕は彼女の事を…… あの辛かった思い出を忘れてようとしているうちにいい思い出まで無理矢理忘れていたのか。
彼女が少しずつ思い出を語るたびに僕の記憶が少しずつ開錠されていった。
そして、次々と出て来る良い思い出があの辛かった思い出を中和していくように感じた。
そう感じた時に気がついたら僕は涙を流していた。
「えっ!? 一条君、だ、大丈夫?」
「ご、ごめん。どうしてもあの辛かった事ばっかり思い出して…… いい事もあったはずなのにって…… 何で忘れてたんだろう」
ずっと黙りながら僕達の話を聞いていた四宮さんがここぞとばかりに口を開いた。
「人間の記憶ってそういうものじゃない? 幸せとか、嬉しかった事って案外忘れやすくなるもので、キツイとか辛いとかがやたら記憶に残ったりするんだよねえ。一条君のトラウマが起きた場面のインパクトがあまりに強すぎて他の思い出が上書きされちゃったのかもね」
過去の思い出が出てきた今ならわかる。僕はあの恐怖から逃げる為に本能的に大事な記憶にまで鍵を掛けてしまっていたんだ。
本当に馬鹿だな…… 僕は……。
それから僕と金城さんは過去の思い出を語り合い、気がついたら夕方に差し掛かっていた。
もう今の自分は金城さんを見ても身体の震えもないし、拒絶する事も無く、笑顔で会話もできるようになっていた。
人は辛い思い出だけでは生きて行く事は難しい。
でも、それと同じくらい良い思い出もあるのだから前を向いて生きていけるのだとこの時実感した。
あの病室での出来事を忘れる事は無いだろう……。
しかし、思い出させてくれた良い思い出と協力してくれた友人たちのおかげで僕も前へ進めそうだ。
だから…… 今なら、もう一度…… 彼女に…… 悠里に……。
「随分と憑き物が落ちたような表情になったじゃない」
「明日奈…… 本当にありがとう」
「気持ち悪っ、アンタはさっさと悠里にぶつかって玉砕すればいいわ」
それを聞いていた金城さんがニマニマしながら僕の耳元で疑問をぶつけて来た。
「ねえ、一条君が好きになった人がすっごい気になるんだけど…… どんな人なの?」
「どうって言われても…… 言葉で表現するのが難しいな…… でも、ごめん。本当は金城さんの前で話す事じゃないとは思うけど、生まれて初めて本当に好きになった…… いや、愛している人かな。彼女の隣にいる権利が貰えるのであれば僕の全て…… 今までの全て、これからの全てを捧げてもいいとさえ思った初めての人…… かな」
「生まれて初めて愛した……ね…… 確かに初カノである私の前でする話じゃないかもしれないわね。でも…… 貴方にそこまで言わせるほどの女性なんでしょ。であれば素敵に決まってるわ。応援してるから頑張ってね」
冗談半分だろうけど、金城さんの表情は「初めての彼女が一番じゃないのかよ」とでも言いたそうだ。
そして、彼女の背後にいる大柄の彼が…… 腕を組み、目元をぴくぴくさせながら僕と金城さんの話を聞いていた。
今彼がいる所でする話じゃなかったよねと少々後悔した。
「写真とかはないのかな?」
あー、そういえば再会してすぐに連れ出されたから撮ってなかったなと思ったら四宮さんがまってましたと言わんばかりにノートPCを取りだしてきた。
「私が高峰く……さんの写真持ってるよ」
なんで君が持ってるんだと気になったが、あの明日奈が唯一同格として見ている存在だから何か特殊技能でも持ってるんだろうと気にするだけ無駄と思った。
四宮さんが見せてくれた写真は少し気恥ずかしそうにしている振り袖姿の写真。
え…… こんなシーンあったっけ? てか、何時の間に撮ったのか…… 僕は四宮さんに初めて恐怖を感じた。
写真を見た金城さんはまるで恋する乙女の様な表情をしていた。
「何この子…… 信じられない程可愛い。 あのさ、一条君…… なんだかんだいい事言ってる風に見せておいて顔で選んでないよね? 私もそこそこ自信あったけど、レベルの違いを今ハッキリと思い知らされたわ……。 ん…… 高峰? サッカー部のキャプテンと同じ苗字よね? 良く見たら文化祭の時の…… キャプテンに似てない?」
そうだった。彼女は高校三年生の一年間、僕達と同じ高校にいたんだった。だから悠里…… 悠馬の事も知っている。
多分少し前の僕だったら「何て言うのが最善なんだろうかと回答シミュレーションを……」なんて濁すような答えを考えていただろう。
けど、今の僕に躊躇う事も無い。自信を持って言える。
「合ってるよ。当時のキャプテンが彼…… 今は彼女になったんだけどね。僕の愛している人。まあ、誰にも渡すつもりもないんだけどね」
宣戦布告と言わんばかりに明日奈の方を見ると、嬉しそうにしていた。
これから始まる僕と明日奈の悠里を取り合う喧嘩を楽しみにしているようにも見えた。
「素敵!! 愛に性別何て関係ないのね…… 私、全力で応援します。ていうかもう性別を超越しちゃってるものね。今の医療技術なら後付けの人工子宮でも普通に妊娠出来るし、元の性別がどうって気にする必要ないものね」
金城さんから一瞬『腐』の匂いがしたけど、きっと僕の気のせいだろう。
でも、そうなんだ…… 妊娠できるんだ…… そこまで知らなかった。
妊娠か…… 僕と悠里の子供……。
気が早すぎる妄想は一旦やめやめ。僕は、頭から邪念を取り除くことにした。
まずは、悠里に改めて告白しないとだから。
「ありがとう…… リベンジが成功するかどうか分からないけど、ただ僕は全身全霊でぶつかるだけだ」
キリが良くなったタイミングで明日奈が手を叩いて全員の視線を集めていた。
「はい、もう今日はそろそろお開きにしましょう」
お会計をすませて、外に出る。
僕と明日奈、四宮さんは途中まで同じ方向だけど、金城さんと彼氏さんは別方向なので店を出たタイミングで別れる事になった。
「一条君、私は彼と新しい道を歩みます。貴方も高峰さんと同じ道を歩める様に祈っています」
金城さんはそう言い残し、彼と笑顔で手を繋いで帰っていった。
「次は…… 悠里ね…… 私もそろそろ覚悟を決めないといけないわね」
明日奈も決意に満ちた表情をしていた。それが意味する事は……。
後ろから大柄の男が入って来た。彼が現在の香織の彼氏なのだろう。
女性が近づいてくる度に鼓動が高鳴っていく。頭の中に映像が蘇りそうになりノイズが走り出す。
汗がどっと噴き出してくる。身体が震えているのが判る。
その直後、頭を引っ叩かれて正気に戻った。
なんて強引な手法…… 明日奈らしいと言えばそうなんだけど。
そちらを振り向くと明日奈が小声で「吞まれるな」という言葉が微かに聞こえた。
明日奈…… ありがとう、なんとかなりそうかもしれない。
改めて女性の方に振り向きなおす。
間違いない……。
この人が本物の『金城 香織』だ。
明日奈からは整形をしていると聞いてはいたが、元がどんな顔だったかすら今は思い出せない。
彼女は僕の目の前まで来ると……
頭を下げていた。
「お久しぶりです。一条君はもう私の顔は覚えていないかもしれませんが、当時お付き合いしていた『金城 香織』です…… 今は苗字が変わって根岸になってますけど……」
妙に息苦しい……。長距離走でも走っている気分だ。
「ひ、久しぶり…… い、一条 透です。…………ていうかわざわざ言わなくても知ってるよね、あはは」
こ、言葉が出ない。無理に愛想笑いをしてみたものの、誰も笑っていない。完全に失敗した。
無理をしているのが彼女にも伝わっているのだろう。彼女は一旦席に着くと、こちらを向いて再度頭を下げ始めた。
「あの時は、貴方がわざわざお見舞いに来てくれたのに、罵詈雑言をぶつけて、貴方を追い返してしまってごめんなさい。謝った所で何もならないのは理解してます。貴方が置かれている状況も理解してます。私のせいで与えてしまった精神的苦痛を和らげる事が出来るのであれば私にできる事は何でもします。出来る事の最初として謝罪させてください」
「あ、ありがとう……。金城さんの謝罪を受けれいます。正直、僕も駆けつけるのが遅れてしまった事を後悔してるんだ。もっと早く駆けつけられたら…… もっと早く気付いていたらって…… たらればなんて言ってもキリはないのは分かるんだけど、それだけ後悔してた。だから、僕も駆けつけられなくてごめんなさい」
金城さんは僕が謝罪するとは思ってなかったようで、キョトンとした表情で僕を見ていた。
少しすると彼女は僕からの謝罪を想定していなかったのか、何か躊躇っているように見える。
彼女はそのままゆっくりと口を開いた。
「私は貴方に謝ってもらう資格なんてないんです。貴方と付き合った後で妬まれるのも、恨まれるのも最初から分かっていた上で付き合ったはずなのにね。あの三人に呼び出された事だって――」
なんて話をしている時に明日奈が割り込んできた。
明日奈は肩肘をついてとても退屈そうにしていた。
「アンタ達さっきからお互い謝ってばかりだけど、なんか楽しかった思い出とかないの? 笑える様なネタとかで、もう少しポジティブな話しなさいよ」
思い出…… いきなりそんなこと言われてもな……。
何しろ、彼女の事は病室のインパクト強すぎて、他は殆ど忘れてるしな……。
なんかきっかけみたいなのがあれば……。
必死に思い出そうとしていると金城さんが思い出し笑いをし始めていた。
「そういえば、一条君と初めてのデートをした時なんだけど、本当に笑っちゃう出来事があって――」
それを言われた時に頭の中でカチリと鍵が開いたような音がしていた。
そういえば…… そんな事もあったような……。
徐々に昔の…… 彼女と笑いあっている時のことを思い出し始めていた。
そうか、僕は彼女の事を…… あの辛かった思い出を忘れてようとしているうちにいい思い出まで無理矢理忘れていたのか。
彼女が少しずつ思い出を語るたびに僕の記憶が少しずつ開錠されていった。
そして、次々と出て来る良い思い出があの辛かった思い出を中和していくように感じた。
そう感じた時に気がついたら僕は涙を流していた。
「えっ!? 一条君、だ、大丈夫?」
「ご、ごめん。どうしてもあの辛かった事ばっかり思い出して…… いい事もあったはずなのにって…… 何で忘れてたんだろう」
ずっと黙りながら僕達の話を聞いていた四宮さんがここぞとばかりに口を開いた。
「人間の記憶ってそういうものじゃない? 幸せとか、嬉しかった事って案外忘れやすくなるもので、キツイとか辛いとかがやたら記憶に残ったりするんだよねえ。一条君のトラウマが起きた場面のインパクトがあまりに強すぎて他の思い出が上書きされちゃったのかもね」
過去の思い出が出てきた今ならわかる。僕はあの恐怖から逃げる為に本能的に大事な記憶にまで鍵を掛けてしまっていたんだ。
本当に馬鹿だな…… 僕は……。
それから僕と金城さんは過去の思い出を語り合い、気がついたら夕方に差し掛かっていた。
もう今の自分は金城さんを見ても身体の震えもないし、拒絶する事も無く、笑顔で会話もできるようになっていた。
人は辛い思い出だけでは生きて行く事は難しい。
でも、それと同じくらい良い思い出もあるのだから前を向いて生きていけるのだとこの時実感した。
あの病室での出来事を忘れる事は無いだろう……。
しかし、思い出させてくれた良い思い出と協力してくれた友人たちのおかげで僕も前へ進めそうだ。
だから…… 今なら、もう一度…… 彼女に…… 悠里に……。
「随分と憑き物が落ちたような表情になったじゃない」
「明日奈…… 本当にありがとう」
「気持ち悪っ、アンタはさっさと悠里にぶつかって玉砕すればいいわ」
それを聞いていた金城さんがニマニマしながら僕の耳元で疑問をぶつけて来た。
「ねえ、一条君が好きになった人がすっごい気になるんだけど…… どんな人なの?」
「どうって言われても…… 言葉で表現するのが難しいな…… でも、ごめん。本当は金城さんの前で話す事じゃないとは思うけど、生まれて初めて本当に好きになった…… いや、愛している人かな。彼女の隣にいる権利が貰えるのであれば僕の全て…… 今までの全て、これからの全てを捧げてもいいとさえ思った初めての人…… かな」
「生まれて初めて愛した……ね…… 確かに初カノである私の前でする話じゃないかもしれないわね。でも…… 貴方にそこまで言わせるほどの女性なんでしょ。であれば素敵に決まってるわ。応援してるから頑張ってね」
冗談半分だろうけど、金城さんの表情は「初めての彼女が一番じゃないのかよ」とでも言いたそうだ。
そして、彼女の背後にいる大柄の彼が…… 腕を組み、目元をぴくぴくさせながら僕と金城さんの話を聞いていた。
今彼がいる所でする話じゃなかったよねと少々後悔した。
「写真とかはないのかな?」
あー、そういえば再会してすぐに連れ出されたから撮ってなかったなと思ったら四宮さんがまってましたと言わんばかりにノートPCを取りだしてきた。
「私が高峰く……さんの写真持ってるよ」
なんで君が持ってるんだと気になったが、あの明日奈が唯一同格として見ている存在だから何か特殊技能でも持ってるんだろうと気にするだけ無駄と思った。
四宮さんが見せてくれた写真は少し気恥ずかしそうにしている振り袖姿の写真。
え…… こんなシーンあったっけ? てか、何時の間に撮ったのか…… 僕は四宮さんに初めて恐怖を感じた。
写真を見た金城さんはまるで恋する乙女の様な表情をしていた。
「何この子…… 信じられない程可愛い。 あのさ、一条君…… なんだかんだいい事言ってる風に見せておいて顔で選んでないよね? 私もそこそこ自信あったけど、レベルの違いを今ハッキリと思い知らされたわ……。 ん…… 高峰? サッカー部のキャプテンと同じ苗字よね? 良く見たら文化祭の時の…… キャプテンに似てない?」
そうだった。彼女は高校三年生の一年間、僕達と同じ高校にいたんだった。だから悠里…… 悠馬の事も知っている。
多分少し前の僕だったら「何て言うのが最善なんだろうかと回答シミュレーションを……」なんて濁すような答えを考えていただろう。
けど、今の僕に躊躇う事も無い。自信を持って言える。
「合ってるよ。当時のキャプテンが彼…… 今は彼女になったんだけどね。僕の愛している人。まあ、誰にも渡すつもりもないんだけどね」
宣戦布告と言わんばかりに明日奈の方を見ると、嬉しそうにしていた。
これから始まる僕と明日奈の悠里を取り合う喧嘩を楽しみにしているようにも見えた。
「素敵!! 愛に性別何て関係ないのね…… 私、全力で応援します。ていうかもう性別を超越しちゃってるものね。今の医療技術なら後付けの人工子宮でも普通に妊娠出来るし、元の性別がどうって気にする必要ないものね」
金城さんから一瞬『腐』の匂いがしたけど、きっと僕の気のせいだろう。
でも、そうなんだ…… 妊娠できるんだ…… そこまで知らなかった。
妊娠か…… 僕と悠里の子供……。
気が早すぎる妄想は一旦やめやめ。僕は、頭から邪念を取り除くことにした。
まずは、悠里に改めて告白しないとだから。
「ありがとう…… リベンジが成功するかどうか分からないけど、ただ僕は全身全霊でぶつかるだけだ」
キリが良くなったタイミングで明日奈が手を叩いて全員の視線を集めていた。
「はい、もう今日はそろそろお開きにしましょう」
お会計をすませて、外に出る。
僕と明日奈、四宮さんは途中まで同じ方向だけど、金城さんと彼氏さんは別方向なので店を出たタイミングで別れる事になった。
「一条君、私は彼と新しい道を歩みます。貴方も高峰さんと同じ道を歩める様に祈っています」
金城さんはそう言い残し、彼と笑顔で手を繋いで帰っていった。
「次は…… 悠里ね…… 私もそろそろ覚悟を決めないといけないわね」
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