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第18話 元カノ vs 元々カノ
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「貴方には色々と聞きたいことが有るのよね」
明日奈が無意識の内に圧をかけながら近寄ろうとしたところ、香織の隣にいた大柄の男が腕を二人の間に差し込んで割って入って来た。
男の大きさは大体二メートルほど、体格からして体重も三桁はあろうかという程、筋肉質でかなりガタイがいい。
「お前たちが香織を虐めてた奴らか。彼女は俺が守る、手を出せると思うな」
「はぁ? 事情も知らない突然変異ミュータントの緑色モドキは引っ込んでくれるかしら? 今からする話は私とこの子の問題なのよ」
香織は完全に明日奈の圧に怯えて大男の後ろに隠れてしまった。
大男は誇らしげに彼女の前に立つと、鼻息を荒くして明日奈と相対している。
「彼女は中学の時に瀕死の重傷を負う程の怪我を負わされたんだぞ、高校でもお前たちが虐めていたのか…… 許さんぞ」
気に入らない輩は今まで真っ向から向かっていた明日奈は虐めという言葉に過剰反応を示していた。
こめかみに青筋を今までにない程に立てて、眉間に皺を寄せて下から抉る様に大男ににらみを利かせている。
「虐め? この私が? 言葉には気を付けろよ、ナイト気取りのヒューマノイドゴリラ。私の機嫌を損ねたら、お前自身の寿命がその分縮まると思え」
「お前はさっき『机をまっぷたつにした』と言っていたじゃないか。それが何よりの証拠だ。どうせ嘘だろうけどな、お前の細腕でそんなことできるわけないだろうが嘘つき女」
何を言うかと思いきやと明日奈は勝ち誇ったように鼻息を荒くしながら反論した。
「それは真っ当な正当防衛よ。何しろ、彼女から陰湿な対応をされたのは私なんだから」
実際、瑞樹が仕掛けた罠にハマって明日奈の机に嫌がらせをする動画があるため自信満々に対応する明日奈。
その表情が若干気になってゴリラ男は香織に振り返って念の為確認していた。
「噓だよな? 香織はそんなことしないもんな」
「知らない、知らない、知らない。私は何も知らない。お願いだからどっか行って!」
香織は顔をゴリラ男の背中に隠して、明日奈を見ない様にしていた。
香織は身体を震わせてゴリラ男の衣服をがっちり握っていた。
「ほら見ろ、香織は俺には嘘をつかない」
「いや、どう見てもアンタが言わせてるじゃない。無駄に人語を解するゴリラと話しても会話が進まないわ。これが最後通告よ。ドラミングしながらここで大人しくしてればご褒美にバナナを上げるわ。そうでなければ…… 分かるわね?」
「お前が立ち去れ!」
「これ以上は話しても無駄ね。私は動物園の飼育員ではないけど、代理で調教くらいしてやるわ」
ゴリラ男は香織を下がらせて、右ストレートを打ち込んできた。
明日奈はゴリラ男の動きに合わせて半身で構えて拳をいなす。
その勢いで振るってきた腕を引っ張り、足を引っかけて転ばせる。
掴んだ腕を背中に回して膝で押さえてホールドした。
「はい、制圧。この抑えた腕をあとは捩じるだけで腕なんて簡単に壊れるわよ」
ゴリラ男は顔を真っ赤にしながら身体をじたばたして力づくで抜けようとするが、抜けられない。
その様子を見た香織は真っ青な顔をして明日奈に懇願し始めた。
「いや…… お願いだからやめて! 暴力だけはやめて! 暴力は…… もういや……」
「だから最初に言ったでしょう? 聞きたいことが有ると。話をしに来たのに暴力を振るいだしたのはそっちよ」
香織は未だに身体を震わせながらも意を決した様な表情でゴリラ男の説得を行う。
「……コウ君、ごめんね。少し離れててくれる? 喜多川さんと話をするから……」
「いや…… でも、香織…… 大丈夫か?」
「今の見たでしょ? 喜多川さんがその気になったら私達はとっくにモノ言わぬ肉の塊にされてるよ。机を一発で壊したのは本当だから…… 目の前でされたから今も覚えてる……」
机を一撃で? 分厚い木に加えて鉄で作られた引き出し部分まであるはずなのに?
香織が自分に嘘をつくはずがない…… もし本当なのだとしたら…… 今は制圧されただけだが、もしこの拳を自分に振るわれたら…… と思うとぶるっと震えだしていた。
「そ、そうなのか…… 例え、肉塊にされても香織の事だけは守って見せるさ」
「アンタたちの中で私の評価ってなんなの?」
明日奈はゴリラ男から離れると、ゴリラ男も壁際に寄り、明日奈と香織の様子を伺っていた。
香織はおどおどしながらも明日奈と向かい始めた。
「それで聞きたい事って何……?」
「今はご両親が離婚されていて、『金城』から『山岸』に苗字が変わったでいいのよね?」
「私の旧姓を知ってるって事は中学の事件も知ってるんでしょ? 私が殺されかけて全国規模のニュースになった事でお父さんの仕事に影響がでちゃったみたいなの…… そのせいで…… 治療費と今後の通院費、養育費は出すから二度と関わるなって……」
「何よそれ…… 他人の私が言うのもなんだけど、父親としては最低ね」
「そういう人なんだなって思うしかないよ…… それにお金を出してもらえるだけでも有難いと思わなきゃ」
「名前を『香織』から『花音』って漢字だけ変えてるのよね? これって何か理由があるの?」
「名前が全国に出ちゃったしね、漢字だけでも変えれば特定されるケースが減ると思ったから。慣れ親しんだ読み方を変えるとお母さんが混乱するかもしれないからそっちは変えなかったの」
「なるほど…… じゃあ、本題に入るわね。その事件のきっかけとなった『一条 透』についてよ。中学であんな嫌な思いをしたのに私達の高校に転校してきたのは何故? 『一条 透』がいた事は知らなかったって事?」
「……知ってた。 というか、正確には見かけたから知ったかな。治療の為に別の県に一度引っ越したんだけど、お母さんの仕事の都合でこっちに戻る事になってね…… 本当は違う高校に転校する予定だったんだけど、たまたまあの高校の前を通った時に女の子の凄い声援が聞こえてきて、何があるんだろうって好奇心で見に行ったらその視線の先にいたのが一条君だった。その時の一条君は中学と変わらず…… いえ、それ以上に輝いた表情で女の子達の声援に答えていたわ。それを見て思ったの…… 私がこんな思いをしたのに彼は私の存在なんか無かったかの様に振る舞ってる。それが許せなかった…… だから、もう一度私の事を思い出させてやろうって…… 私の人生を滅茶苦茶にしたあの男に…… だからあの高校に転校する事にしたの」
「という事は私に嫌がらせをしたのも……」
「『一条 透』と付き合うとロクな事にならないって事を教えてやりたかっただけ……。でも、結果はあのザマよ。誰も貴方に手を出さなかった理由があの時分かったわ。まさか、パンチ一発で机を真っ二つにする女子高生がこの世にいるなんて思わないでしょ」
「貴方は今『彼は私の存在なんか無かったかの様に振る舞ってる』と言っていたけど、大きな勘違いをしているわよ」
「どういう意味?」
「存在が無かったどころじゃないって事。アイツは今も苦しんでるわ。今もあの時の記憶がフラッシュバックするほどトラウマとして心に刻まれてるのよ」
先程の震えが嘘の様に香織は激昂し始めて明日奈に詰め寄った。
「嘘よっ! じゃあ、なんであんなに明るくしてるのよ」
「アイツが輝いて見えるのはそう見せてるだけよ。貴方は知らないかもしれないけど、あの事件の後ね、中学時代は誰もアイツに近寄らなかったらしいわ。それがダメ押しになったんでしょうね。高校に入ってからは誰とも付き合ってないの。でも一人は怖いから誰かが寄って来る様に表面上愛想良くしてるだけ」
「そ、そんな…… でっ、でも貴方は付き合ってたんでしょ? 仲良くしてたんじゃないの?」
「私の場合は、利害の一致による契約みたいなものよ。期間は三カ月だけ…… つまりは卒業までの間ね。実際、放課後に二人で過ごした事なんてないし、手も繋いだこともない、デートなんてもってのほかよ」
「一条君は…… 今は…… どうしてるの?」
「ついこの間の成人式でね、とある女の子から告白されたのよ。アイツも高校卒業してからその二年間はその子の家に良く行ってたみたいだからね、ゴールインするのかと思いきや、そうはならなかった。その時に起きたフラッシュバックが原因で二人の間には決定的な亀裂が入ってしまった」
「ダメだった……って事?」
「ダメなんてレベルじゃない。現状だと関係修復不可能って所まで来てるわ。私が知ったのはその後。その子の家の周りを不審者みたいにウロウロしちゃってさ、私を見つけて大泣きしてんの…… 挙句の果てに土下座までしてきてね、王子様なんて呼ばれた男がね……。ただね…… 今のアイツにはそんなプライドなんてものはとっくに無い。自分の何を捨ててでも、失ったとしてもアイツはその子との関係を取り戻したいはずよ」
「そんなに好きなんだ…… そこまで想われてるなんて…… その子の事…… なんか羨ましいな」
「貴方の場合は、自分で手放しちゃったからね……」
ハッっとさせられた香織は落ち込んだ様な乾いた笑い顔で俯き気味に返答していた。
「うん…… そう…… だね……」
「協力してくれるかしら?」
「会って…… またトラウマ思い出させたらどうしよう……」
これまでの問答から自分のせいでトラウマを植え付けてしまった事を後悔し始めた香織。
今のまま会ってもただ透のトラウマを抉るだけなのでは? と気にしている様子だった。
「荒療治になるとは思うけど、今の所それしか方法が思いつかないの。貴方もいい加減あの男の事を忘れて前へ進みなさい。あのゴリラと人間の掛け合わせた幻想種は貴方にとっては大事な人なんじゃないの?」
「彼…… コウ君って呼んでるんだけど、入院した時に知り合ったから私の事情を知ってて、その上で付き合って欲しいって言われたの。今はまだ…… 保留にしてるんだけどね…… きっと私も心のどこかで一条君の事を考えてたのかもしれない。今回…… 丁度いいタイミングなのかも」
ゴリラ男…… コウに対する香織の表情は満更でもなさそうだった。
今回を機に本人も透ときっちりけじめを付けた上でコウと向かい合う決意をした。
「場を整え次第、会ってもらうわ。それでいいわね」
決意を新たに香織も前へ進むために透と再会する覚悟を決めた。
「うん、お願いします」
明日奈と香織は連絡先を交換して、滞りなく交渉は終わった。
次に会う時は透と香織が対面する時……。
明日奈と瑞樹が別れを告げて立ち去ろうとした……
その時「待ってくれ」とコウが二人を止めた。
「どうしたの? まだやられ足りないのかしら」
「ご褒美のバナナは?」
「えっ!?」
「えっ!?」
明日奈が無意識の内に圧をかけながら近寄ろうとしたところ、香織の隣にいた大柄の男が腕を二人の間に差し込んで割って入って来た。
男の大きさは大体二メートルほど、体格からして体重も三桁はあろうかという程、筋肉質でかなりガタイがいい。
「お前たちが香織を虐めてた奴らか。彼女は俺が守る、手を出せると思うな」
「はぁ? 事情も知らない突然変異ミュータントの緑色モドキは引っ込んでくれるかしら? 今からする話は私とこの子の問題なのよ」
香織は完全に明日奈の圧に怯えて大男の後ろに隠れてしまった。
大男は誇らしげに彼女の前に立つと、鼻息を荒くして明日奈と相対している。
「彼女は中学の時に瀕死の重傷を負う程の怪我を負わされたんだぞ、高校でもお前たちが虐めていたのか…… 許さんぞ」
気に入らない輩は今まで真っ向から向かっていた明日奈は虐めという言葉に過剰反応を示していた。
こめかみに青筋を今までにない程に立てて、眉間に皺を寄せて下から抉る様に大男ににらみを利かせている。
「虐め? この私が? 言葉には気を付けろよ、ナイト気取りのヒューマノイドゴリラ。私の機嫌を損ねたら、お前自身の寿命がその分縮まると思え」
「お前はさっき『机をまっぷたつにした』と言っていたじゃないか。それが何よりの証拠だ。どうせ嘘だろうけどな、お前の細腕でそんなことできるわけないだろうが嘘つき女」
何を言うかと思いきやと明日奈は勝ち誇ったように鼻息を荒くしながら反論した。
「それは真っ当な正当防衛よ。何しろ、彼女から陰湿な対応をされたのは私なんだから」
実際、瑞樹が仕掛けた罠にハマって明日奈の机に嫌がらせをする動画があるため自信満々に対応する明日奈。
その表情が若干気になってゴリラ男は香織に振り返って念の為確認していた。
「噓だよな? 香織はそんなことしないもんな」
「知らない、知らない、知らない。私は何も知らない。お願いだからどっか行って!」
香織は顔をゴリラ男の背中に隠して、明日奈を見ない様にしていた。
香織は身体を震わせてゴリラ男の衣服をがっちり握っていた。
「ほら見ろ、香織は俺には嘘をつかない」
「いや、どう見てもアンタが言わせてるじゃない。無駄に人語を解するゴリラと話しても会話が進まないわ。これが最後通告よ。ドラミングしながらここで大人しくしてればご褒美にバナナを上げるわ。そうでなければ…… 分かるわね?」
「お前が立ち去れ!」
「これ以上は話しても無駄ね。私は動物園の飼育員ではないけど、代理で調教くらいしてやるわ」
ゴリラ男は香織を下がらせて、右ストレートを打ち込んできた。
明日奈はゴリラ男の動きに合わせて半身で構えて拳をいなす。
その勢いで振るってきた腕を引っ張り、足を引っかけて転ばせる。
掴んだ腕を背中に回して膝で押さえてホールドした。
「はい、制圧。この抑えた腕をあとは捩じるだけで腕なんて簡単に壊れるわよ」
ゴリラ男は顔を真っ赤にしながら身体をじたばたして力づくで抜けようとするが、抜けられない。
その様子を見た香織は真っ青な顔をして明日奈に懇願し始めた。
「いや…… お願いだからやめて! 暴力だけはやめて! 暴力は…… もういや……」
「だから最初に言ったでしょう? 聞きたいことが有ると。話をしに来たのに暴力を振るいだしたのはそっちよ」
香織は未だに身体を震わせながらも意を決した様な表情でゴリラ男の説得を行う。
「……コウ君、ごめんね。少し離れててくれる? 喜多川さんと話をするから……」
「いや…… でも、香織…… 大丈夫か?」
「今の見たでしょ? 喜多川さんがその気になったら私達はとっくにモノ言わぬ肉の塊にされてるよ。机を一発で壊したのは本当だから…… 目の前でされたから今も覚えてる……」
机を一撃で? 分厚い木に加えて鉄で作られた引き出し部分まであるはずなのに?
香織が自分に嘘をつくはずがない…… もし本当なのだとしたら…… 今は制圧されただけだが、もしこの拳を自分に振るわれたら…… と思うとぶるっと震えだしていた。
「そ、そうなのか…… 例え、肉塊にされても香織の事だけは守って見せるさ」
「アンタたちの中で私の評価ってなんなの?」
明日奈はゴリラ男から離れると、ゴリラ男も壁際に寄り、明日奈と香織の様子を伺っていた。
香織はおどおどしながらも明日奈と向かい始めた。
「それで聞きたい事って何……?」
「今はご両親が離婚されていて、『金城』から『山岸』に苗字が変わったでいいのよね?」
「私の旧姓を知ってるって事は中学の事件も知ってるんでしょ? 私が殺されかけて全国規模のニュースになった事でお父さんの仕事に影響がでちゃったみたいなの…… そのせいで…… 治療費と今後の通院費、養育費は出すから二度と関わるなって……」
「何よそれ…… 他人の私が言うのもなんだけど、父親としては最低ね」
「そういう人なんだなって思うしかないよ…… それにお金を出してもらえるだけでも有難いと思わなきゃ」
「名前を『香織』から『花音』って漢字だけ変えてるのよね? これって何か理由があるの?」
「名前が全国に出ちゃったしね、漢字だけでも変えれば特定されるケースが減ると思ったから。慣れ親しんだ読み方を変えるとお母さんが混乱するかもしれないからそっちは変えなかったの」
「なるほど…… じゃあ、本題に入るわね。その事件のきっかけとなった『一条 透』についてよ。中学であんな嫌な思いをしたのに私達の高校に転校してきたのは何故? 『一条 透』がいた事は知らなかったって事?」
「……知ってた。 というか、正確には見かけたから知ったかな。治療の為に別の県に一度引っ越したんだけど、お母さんの仕事の都合でこっちに戻る事になってね…… 本当は違う高校に転校する予定だったんだけど、たまたまあの高校の前を通った時に女の子の凄い声援が聞こえてきて、何があるんだろうって好奇心で見に行ったらその視線の先にいたのが一条君だった。その時の一条君は中学と変わらず…… いえ、それ以上に輝いた表情で女の子達の声援に答えていたわ。それを見て思ったの…… 私がこんな思いをしたのに彼は私の存在なんか無かったかの様に振る舞ってる。それが許せなかった…… だから、もう一度私の事を思い出させてやろうって…… 私の人生を滅茶苦茶にしたあの男に…… だからあの高校に転校する事にしたの」
「という事は私に嫌がらせをしたのも……」
「『一条 透』と付き合うとロクな事にならないって事を教えてやりたかっただけ……。でも、結果はあのザマよ。誰も貴方に手を出さなかった理由があの時分かったわ。まさか、パンチ一発で机を真っ二つにする女子高生がこの世にいるなんて思わないでしょ」
「貴方は今『彼は私の存在なんか無かったかの様に振る舞ってる』と言っていたけど、大きな勘違いをしているわよ」
「どういう意味?」
「存在が無かったどころじゃないって事。アイツは今も苦しんでるわ。今もあの時の記憶がフラッシュバックするほどトラウマとして心に刻まれてるのよ」
先程の震えが嘘の様に香織は激昂し始めて明日奈に詰め寄った。
「嘘よっ! じゃあ、なんであんなに明るくしてるのよ」
「アイツが輝いて見えるのはそう見せてるだけよ。貴方は知らないかもしれないけど、あの事件の後ね、中学時代は誰もアイツに近寄らなかったらしいわ。それがダメ押しになったんでしょうね。高校に入ってからは誰とも付き合ってないの。でも一人は怖いから誰かが寄って来る様に表面上愛想良くしてるだけ」
「そ、そんな…… でっ、でも貴方は付き合ってたんでしょ? 仲良くしてたんじゃないの?」
「私の場合は、利害の一致による契約みたいなものよ。期間は三カ月だけ…… つまりは卒業までの間ね。実際、放課後に二人で過ごした事なんてないし、手も繋いだこともない、デートなんてもってのほかよ」
「一条君は…… 今は…… どうしてるの?」
「ついこの間の成人式でね、とある女の子から告白されたのよ。アイツも高校卒業してからその二年間はその子の家に良く行ってたみたいだからね、ゴールインするのかと思いきや、そうはならなかった。その時に起きたフラッシュバックが原因で二人の間には決定的な亀裂が入ってしまった」
「ダメだった……って事?」
「ダメなんてレベルじゃない。現状だと関係修復不可能って所まで来てるわ。私が知ったのはその後。その子の家の周りを不審者みたいにウロウロしちゃってさ、私を見つけて大泣きしてんの…… 挙句の果てに土下座までしてきてね、王子様なんて呼ばれた男がね……。ただね…… 今のアイツにはそんなプライドなんてものはとっくに無い。自分の何を捨ててでも、失ったとしてもアイツはその子との関係を取り戻したいはずよ」
「そんなに好きなんだ…… そこまで想われてるなんて…… その子の事…… なんか羨ましいな」
「貴方の場合は、自分で手放しちゃったからね……」
ハッっとさせられた香織は落ち込んだ様な乾いた笑い顔で俯き気味に返答していた。
「うん…… そう…… だね……」
「協力してくれるかしら?」
「会って…… またトラウマ思い出させたらどうしよう……」
これまでの問答から自分のせいでトラウマを植え付けてしまった事を後悔し始めた香織。
今のまま会ってもただ透のトラウマを抉るだけなのでは? と気にしている様子だった。
「荒療治になるとは思うけど、今の所それしか方法が思いつかないの。貴方もいい加減あの男の事を忘れて前へ進みなさい。あのゴリラと人間の掛け合わせた幻想種は貴方にとっては大事な人なんじゃないの?」
「彼…… コウ君って呼んでるんだけど、入院した時に知り合ったから私の事情を知ってて、その上で付き合って欲しいって言われたの。今はまだ…… 保留にしてるんだけどね…… きっと私も心のどこかで一条君の事を考えてたのかもしれない。今回…… 丁度いいタイミングなのかも」
ゴリラ男…… コウに対する香織の表情は満更でもなさそうだった。
今回を機に本人も透ときっちりけじめを付けた上でコウと向かい合う決意をした。
「場を整え次第、会ってもらうわ。それでいいわね」
決意を新たに香織も前へ進むために透と再会する覚悟を決めた。
「うん、お願いします」
明日奈と香織は連絡先を交換して、滞りなく交渉は終わった。
次に会う時は透と香織が対面する時……。
明日奈と瑞樹が別れを告げて立ち去ろうとした……
その時「待ってくれ」とコウが二人を止めた。
「どうしたの? まだやられ足りないのかしら」
「ご褒美のバナナは?」
「えっ!?」
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