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第15話 成人式③ ~告白~
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「私が周りのみんなと違うなって思ったのは小学校高学年の頃だったの。
その頃になると、大体みんな『誰が好き』とか『誰が好みで可愛い』とかって話になったりするでしょ。
でもね、私は全くそれが分からなかったの。
あの服装可愛いなとかは分かるんだけど、女の子に対する恋愛の好きとかが分からなくて、周りの男の子達とは見ている視点が違っていたのかなって…… だから自分は他の人とは違うんじゃないか? その頃から思い始めたの。
当然そんな事言おうものなら、迫害とまではいかないにしても、嘲笑や差別の対象になったりするかもしれない。
仲間外れにされるのが怖くて誰にも言えなかった。
中学校に上がると、より一層男女間による異性への意識って高まるでしょ。
私の場合はね、異性がどうこうと言うより、私も自分の身体について考えだしたりしたの。違和感も感じたし、なんで自分の身体は男なんだろうとか……。
部室で着替えを堂々としている同級生たちを横目に緊張しながらバレませんようになんて思いながら誤魔化して過ごしてきたの。
修学旅行なんてほんとにどうしようかと思ったもん。皆が寝静まった頃にコッソリ抜け出してお風呂に入りに行ったりとかね……。
そんな誤魔化す事がどんどん精神的にきつくなって来て…… 高校前にお母さんに全部ぶちまけちゃった。
最初は拒絶されるかもって…… 正直覚悟をしていたところはあったけど、お母さんはやっぱりお母さんなんだなって思ったんだ。
その後は君も知っての通り…… 高校で私達が出会ったんだよ」
そうだ…… 高校一年生の時に悠里とは同じクラスになったんだ。
男装した女子かと疑うような面構え。身長と体格も女子と大して変わらない。
ただのマスコット的存在かと思ったのに、その衝撃は忘れようもなかった。
スポーツテストで全種目一位。
一学期の中間テストは学年三位。期末テストは学年二位。
部活でも一年で最初にレギュラーになったのもコイツだったんだ。
可愛い振りしたこの超人は何者なんだと……。
「透君ってさ、出会った当初は私の事を嫌ってたでしょ? 一年の時にやったスポーツテスト辺りかなあ。その頃からやたらと視線を感じるようになったんだよね」
嫌っていた? そうかもしれない。
妬んだし、羨んだ。嫉妬もしていた。
もう中学の時の様な思いはしたくない。
一人でいるとあの時の事を思い出してしまうから。
だから勝ちたかった。勝って皆の視線を集めて……
一秒でも長く忘れたかった。あの絶望を…… 恐怖を……
上っ面でもいい。誰かと一緒にいる時はすべてを忘れられるから。
それを全部ぶち壊した。
だから当時の悠馬に勝ちたくて挑んで、挑んで、挑み続けた。
――気がついたら忘れていた。悠馬に勝手なライバル心で競い合ってる時……
「私に全く勝てないのに何に対しても、いつでも挑んでくる君を見てて、キャンキャン吼えるチワワみたいで可愛いなって思い始めたんだ……」
どういう扱いだ? 女の子に囲まれてモテモテの王子様である僕に向かってチワワ扱いとは……。
「あんなに熱い視線を送ってくれる人って初めてだったから…… 実はその頃からドキドキしちゃってて……」
あの視線が……? 自分で言うのもなんだけど、どんな感性してるんだ……。
――ってドキドキ? 悠馬が? 僕に? さすがにそればっかりは気付かなかった。
「君の事を視線で追いかけたり、他の女の子と楽しそうに話している時にわざと部活の話をしに割り込んだり、わざと挑発して私の方を見る様に仕向けたり……ね」
言われてようやく気付いた。心当たりがある。
あれは偶然じゃなかった? 狙っていたって事?
「そして決定的だったのは、明日奈と腕を組んでいた透君を見た時に一度は絶望した。まさか明日奈が透君を狙いに行くとは思わなかったから。二人の性格からすると絶対に合わないって思ってたから……」
それは間違いない。事実、明日奈とは犬猿の仲だからな。
「その後、家にフラフラっと帰ってからベッドで一度寝て起きたら頭はスッキリしてハッキリした。負けたくないって思ったの。だれよりも綺麗になって振り向かせてやろうって思ってからはすぐ行動に出た。高校行ってる場合じゃない。一分、一秒でも早く貴方の元にって……」
いや、せめて高校は行こう!
って…… 待て待て待て待て! なんだ、この話の流れは…… 貴方って僕の事……? これじゃまるで……
「その時、自分の気持ちを再認識したの。わ、わ、わ、わ……わたし…… ちゃんと聞いてください」
「は、はいっ!」
その時、自分に向けて来た悠里の表情が…… 目が……
一人の少女と突然重なった。
同じだ…… あの時と……
あの子が僕に囁いた愛の言葉
本能的に危険信号が現れて…… 身体が震えだす。
悠里の自分を見るあの目は…… あの時、自分を見る彼女と同じ本気の眼差しだった。
あの時の彼女が自分に告白されたシーンが重なる様にフラッシュバックする。
『一条君、私…… 貴方の事が――』
「透君、私…… 貴方の事が――」
やめてくれ、今は出ないでくれ……。
なんでよりによって今なんだ……。
『好きです。わ、私…… 本気なんです』
「好きです。わ、私…… 本気なんです」
本気の告白をした彼女は数か月後に病院の一室で僕に向けて殺意とも憎悪とも呼べる目で僕を見ていた。
フラッシュバックした映像から映ったベッドから上半身だけ起こして向けて来たあの目線……
顔の半分以上が包帯塗れになっていたのはあの時の彼女ではなく、悠里だった。
悠里が僕に殺意と憎悪の目を向けていた。
悠里の顔で、声で、その口から漏れ出る呪言の様な怨嗟の声……。
それが頭の中を巡った瞬間にあまりの恐怖に胃の内容物が逆流してしまった。
「――――えっ」
彼女が呆然とした顔で胃液を吐き出した僕を見ていた。
それも束の間、身体を震わせて、息がだんだん荒くなり、下唇を噛んで……
「ち、違うんだ、これは――」
「……違う? ……何が? やめてよ! 普通に断られるだけならまだ分かるの。そりゃあ、私は元々女じゃなかったし、ずっと男として見られてて、いきなり姿を見せて女になりましたって言われてもピンとこないよね。だから断れるかもしれないって…… それもしょうがないなって思ってた。でも…… せめて…… せめて「お前の事は女として見れない」でもいいから言葉で欲しかった。………………なのに、まさか吐き気を催す程嫌われてるなんて思わなかった。 勘違いもいい所だよね、心のどこかで貴方ならこんな私を受けて入れてくれるかもって思ってた。ここまで嫌われてるとは思わなかった。迷惑だったよね、しょうもない雑談を延々とさせちゃったよね。でも、安心して。もう貴方の時間を無駄にさせる事はないから…… もう貴方の前に二度と姿を見せる事も無いから」
こんな感情剥き出しの彼女を見たのは高校入学して出会って以来、初めての事だった。
息を荒くして声を上げ、目に涙を溜め、身体を震わせる程に感情をぶつけられるとは思わなかったから。
こうなってしまった以上、当然自分の過去も話さなければならないのは頭では分かってるはずなのに…… 頭が真っ白になりかけて言葉が出ない。
彼女の言葉……『二度と姿を見せる事も無いから』の言葉が理解できなかった。いや、したくなかった。
失われた期間を取り戻そうと躍起になって彼女の元に通い続けたはずなのに……
僕は何でこんな言葉を言わせてるんだ……。
僕は何でそんな目で僕を見る様な事をしてしまったんだ……。
そして、自分の元から去ろうとしている彼女を留めようと声を絞り出そうと――
「ま、待っ――」
「――さようなら」
いつもの彼女は途中からは声だけだったけど、嬉しそうな声で僕を待っていてくれていた、僕を歓迎してくれた。
その彼女から出た言葉……
それは拒絶の言葉……
それは別れの言葉……
その言葉を聞いて、一気に血の気が全身から引いていくのが分かった。
大粒の涙を溢しながら自分に背を向けて走り去っていく彼女。
ダメだ、嫌だ、待って、待ってくれ! 追いかけないといけないのは分かってるのに、足が動かない。
身体に力が入らない。いや、力が抜けていく……。
頭の中だけはかろうじて動いている……。
行けよ、追いかけろよって頭の中では叫んでる。
でも…… 動かないんだ。
どうしていいかわからない。いや、わからなくなった。
ただ…… 彼女が去っていくのを見ている事しか出来なかった。
その頃になると、大体みんな『誰が好き』とか『誰が好みで可愛い』とかって話になったりするでしょ。
でもね、私は全くそれが分からなかったの。
あの服装可愛いなとかは分かるんだけど、女の子に対する恋愛の好きとかが分からなくて、周りの男の子達とは見ている視点が違っていたのかなって…… だから自分は他の人とは違うんじゃないか? その頃から思い始めたの。
当然そんな事言おうものなら、迫害とまではいかないにしても、嘲笑や差別の対象になったりするかもしれない。
仲間外れにされるのが怖くて誰にも言えなかった。
中学校に上がると、より一層男女間による異性への意識って高まるでしょ。
私の場合はね、異性がどうこうと言うより、私も自分の身体について考えだしたりしたの。違和感も感じたし、なんで自分の身体は男なんだろうとか……。
部室で着替えを堂々としている同級生たちを横目に緊張しながらバレませんようになんて思いながら誤魔化して過ごしてきたの。
修学旅行なんてほんとにどうしようかと思ったもん。皆が寝静まった頃にコッソリ抜け出してお風呂に入りに行ったりとかね……。
そんな誤魔化す事がどんどん精神的にきつくなって来て…… 高校前にお母さんに全部ぶちまけちゃった。
最初は拒絶されるかもって…… 正直覚悟をしていたところはあったけど、お母さんはやっぱりお母さんなんだなって思ったんだ。
その後は君も知っての通り…… 高校で私達が出会ったんだよ」
そうだ…… 高校一年生の時に悠里とは同じクラスになったんだ。
男装した女子かと疑うような面構え。身長と体格も女子と大して変わらない。
ただのマスコット的存在かと思ったのに、その衝撃は忘れようもなかった。
スポーツテストで全種目一位。
一学期の中間テストは学年三位。期末テストは学年二位。
部活でも一年で最初にレギュラーになったのもコイツだったんだ。
可愛い振りしたこの超人は何者なんだと……。
「透君ってさ、出会った当初は私の事を嫌ってたでしょ? 一年の時にやったスポーツテスト辺りかなあ。その頃からやたらと視線を感じるようになったんだよね」
嫌っていた? そうかもしれない。
妬んだし、羨んだ。嫉妬もしていた。
もう中学の時の様な思いはしたくない。
一人でいるとあの時の事を思い出してしまうから。
だから勝ちたかった。勝って皆の視線を集めて……
一秒でも長く忘れたかった。あの絶望を…… 恐怖を……
上っ面でもいい。誰かと一緒にいる時はすべてを忘れられるから。
それを全部ぶち壊した。
だから当時の悠馬に勝ちたくて挑んで、挑んで、挑み続けた。
――気がついたら忘れていた。悠馬に勝手なライバル心で競い合ってる時……
「私に全く勝てないのに何に対しても、いつでも挑んでくる君を見てて、キャンキャン吼えるチワワみたいで可愛いなって思い始めたんだ……」
どういう扱いだ? 女の子に囲まれてモテモテの王子様である僕に向かってチワワ扱いとは……。
「あんなに熱い視線を送ってくれる人って初めてだったから…… 実はその頃からドキドキしちゃってて……」
あの視線が……? 自分で言うのもなんだけど、どんな感性してるんだ……。
――ってドキドキ? 悠馬が? 僕に? さすがにそればっかりは気付かなかった。
「君の事を視線で追いかけたり、他の女の子と楽しそうに話している時にわざと部活の話をしに割り込んだり、わざと挑発して私の方を見る様に仕向けたり……ね」
言われてようやく気付いた。心当たりがある。
あれは偶然じゃなかった? 狙っていたって事?
「そして決定的だったのは、明日奈と腕を組んでいた透君を見た時に一度は絶望した。まさか明日奈が透君を狙いに行くとは思わなかったから。二人の性格からすると絶対に合わないって思ってたから……」
それは間違いない。事実、明日奈とは犬猿の仲だからな。
「その後、家にフラフラっと帰ってからベッドで一度寝て起きたら頭はスッキリしてハッキリした。負けたくないって思ったの。だれよりも綺麗になって振り向かせてやろうって思ってからはすぐ行動に出た。高校行ってる場合じゃない。一分、一秒でも早く貴方の元にって……」
いや、せめて高校は行こう!
って…… 待て待て待て待て! なんだ、この話の流れは…… 貴方って僕の事……? これじゃまるで……
「その時、自分の気持ちを再認識したの。わ、わ、わ、わ……わたし…… ちゃんと聞いてください」
「は、はいっ!」
その時、自分に向けて来た悠里の表情が…… 目が……
一人の少女と突然重なった。
同じだ…… あの時と……
あの子が僕に囁いた愛の言葉
本能的に危険信号が現れて…… 身体が震えだす。
悠里の自分を見るあの目は…… あの時、自分を見る彼女と同じ本気の眼差しだった。
あの時の彼女が自分に告白されたシーンが重なる様にフラッシュバックする。
『一条君、私…… 貴方の事が――』
「透君、私…… 貴方の事が――」
やめてくれ、今は出ないでくれ……。
なんでよりによって今なんだ……。
『好きです。わ、私…… 本気なんです』
「好きです。わ、私…… 本気なんです」
本気の告白をした彼女は数か月後に病院の一室で僕に向けて殺意とも憎悪とも呼べる目で僕を見ていた。
フラッシュバックした映像から映ったベッドから上半身だけ起こして向けて来たあの目線……
顔の半分以上が包帯塗れになっていたのはあの時の彼女ではなく、悠里だった。
悠里が僕に殺意と憎悪の目を向けていた。
悠里の顔で、声で、その口から漏れ出る呪言の様な怨嗟の声……。
それが頭の中を巡った瞬間にあまりの恐怖に胃の内容物が逆流してしまった。
「――――えっ」
彼女が呆然とした顔で胃液を吐き出した僕を見ていた。
それも束の間、身体を震わせて、息がだんだん荒くなり、下唇を噛んで……
「ち、違うんだ、これは――」
「……違う? ……何が? やめてよ! 普通に断られるだけならまだ分かるの。そりゃあ、私は元々女じゃなかったし、ずっと男として見られてて、いきなり姿を見せて女になりましたって言われてもピンとこないよね。だから断れるかもしれないって…… それもしょうがないなって思ってた。でも…… せめて…… せめて「お前の事は女として見れない」でもいいから言葉で欲しかった。………………なのに、まさか吐き気を催す程嫌われてるなんて思わなかった。 勘違いもいい所だよね、心のどこかで貴方ならこんな私を受けて入れてくれるかもって思ってた。ここまで嫌われてるとは思わなかった。迷惑だったよね、しょうもない雑談を延々とさせちゃったよね。でも、安心して。もう貴方の時間を無駄にさせる事はないから…… もう貴方の前に二度と姿を見せる事も無いから」
こんな感情剥き出しの彼女を見たのは高校入学して出会って以来、初めての事だった。
息を荒くして声を上げ、目に涙を溜め、身体を震わせる程に感情をぶつけられるとは思わなかったから。
こうなってしまった以上、当然自分の過去も話さなければならないのは頭では分かってるはずなのに…… 頭が真っ白になりかけて言葉が出ない。
彼女の言葉……『二度と姿を見せる事も無いから』の言葉が理解できなかった。いや、したくなかった。
失われた期間を取り戻そうと躍起になって彼女の元に通い続けたはずなのに……
僕は何でこんな言葉を言わせてるんだ……。
僕は何でそんな目で僕を見る様な事をしてしまったんだ……。
そして、自分の元から去ろうとしている彼女を留めようと声を絞り出そうと――
「ま、待っ――」
「――さようなら」
いつもの彼女は途中からは声だけだったけど、嬉しそうな声で僕を待っていてくれていた、僕を歓迎してくれた。
その彼女から出た言葉……
それは拒絶の言葉……
それは別れの言葉……
その言葉を聞いて、一気に血の気が全身から引いていくのが分かった。
大粒の涙を溢しながら自分に背を向けて走り去っていく彼女。
ダメだ、嫌だ、待って、待ってくれ! 追いかけないといけないのは分かってるのに、足が動かない。
身体に力が入らない。いや、力が抜けていく……。
頭の中だけはかろうじて動いている……。
行けよ、追いかけろよって頭の中では叫んでる。
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