11 / 25
第十話:セリーヌ②
しおりを挟む
あたしがディックと初めて出会ったのは、七歳の時だった。
父親の仕事が行商人ということもあって売れる物、売れる場所があれば品物を仕入れては各地を回っていた。
母親は早くに亡くして父一人だった為にお手伝いさんを一人雇ってはいたが、父も小さい子供を置いていけないと思ったのか父親の仕事に合わせて一緒に着いて行く生活を送っていた。
そんな生活を送っていたものだから、どこかに引っ越しをして友達を作ってもすぐにサヨナラをすることになってしまう。
これが繰り返されると小さいながらも「またこのパターンか」と理解してウンザリしてしまうので、もう友達なんて作らない方がいいんだろうなと考えていた。
そんな考えを固めて七歳になった直後にまた引っ越しがあり次に辿り着いた村があった。
村に着いてから引っ越しの荷物を荷ほどきしている時に視線を感じた。
そちらの方に視線をやると隣の家の少年がこちらをチラチラ見ていた。
その視線が鬱陶しかったから荷物を家の中に入れて荷ほどきの続きを行うと、流石に家の中までは覗こうとはしなかったみたいだった。
作業が終わってすることもなかったから外に散歩に行くと、覗き見していた男の子が話しかけて来た。
「待ってー」
あたしは振り向いてそっけない態度で話しかけて来た男の子に返答する。
「何か用?」
「僕はディック、君の名前を教えてよ」
「セリーヌ」
「セリーヌだね、お隣さんだからこれからよろしくね。良かったら村の中を案内するよ」
「よろしくはしないわ、どうせ直ぐ居なくなるし…… あたしには構わないでくれる?」
「来たばっかりでしょ? どうしてすぐ居なくなっちゃうの?」
まただ…… 引っ越し先で毎回と言っていい程行われるこのイベント…… 説明するのも面倒だから男の子――ディックを突き放した。
「五月蠅いなあ、君には関係ないでしょ。いいから放っておいて」
あたしは走って逃げた。追ってこない事が分かると、きっと初対面なのに突き放したあたしにガッカリしてるのかもしれないと思って少し胸が痛んだ。
数日たったある日の事――
お手伝いさんのリーザさんから森に山菜や茸が取れる場所を村の人から聞いたから一緒に行かないかと言われた。あたしもやる事ないし暇だったから着いていくことにした。
森の中に入ってしばらくすると陽の光が届きにくいような暗い場所に差し掛かって怖くなってきたが、リーザさんが一緒だったから怖い気持ちはあっても何とか耐える事が出来た。
「セリーヌさん、そこに山菜が生えているか見て貰えますか?」
リーザさんが指を刺した場所は崖の付近だった。あたしはゆっくりと近づきつつ山菜が生えていないかを確認した。
が、それらしいものは見当たらなかった。
「うーん、見つからないなあ」
暗いせいか中々気付きにくかったが、自分が崖すれすれにいたことが分かって怖くなり一旦引き返そうとした時の事だった
『ドンッ』
と何かに押されたあたしは崖の下に落下した。
そこまで高さがある訳でもなかったけど、落下の衝撃で足を捻挫した痛みで立つことが出来なかった。
「……っ……、一体何が……」
いったい私は何に押されたのか分からず崖の上を見上げるとこちらを覗いていたのは笑顔のリーザさんだった。
「あら、無事だったんですね。もっと勢いをつけた方が良かったかしら?」
「な、何で……? ど、どうして?」
あたしは訳が分からなくなった。小さい頃からお世話してくれたリーザさんの事を母親の様に思っていたのに…… なんでこんな事になっているのか理解が出来なかった。
「『何で?』ですか…… 簡単です。あなたがいるとあの人は私を見てくれない。あなたが消えてくれればあの人は悲しみの余り私に依存してくれるようになる。そうすればあの人の心は私のモノになる…… そういう事です」
あの人って…… 父さんの事? リーザさんが父さんの事を? 全然分からなかった。そんな素振りを見た事すらなかったから。
「この辺って実は村の人でも来ない様な場所だそうですよ。何でかって言うと、夜には肉食の獣が結構出るそうなんです。だから、あなたをここに置き去りにして獣の餌になって貰いまーす」
この人正気なの? 何でそういう事が平気で言えるの? なんで…… そんなに嬉しそうなの? あたしがそんなに邪魔だった? 鬱陶しかった? だったら言ってくれれば良かったのに…… まさか殺したいほどに憎まれているなんて思ってもみなかった。
あたしはきっと絶望していたんだと思う。信じていた人はあたしをここまで疎ましく思っている人だったなんて……。
「ま、待って…… 父さんにはあたしから説明するから置いて行かないで」
「ダメです。貴方が生きているだけであの人は貴方中心の生活になってしまう。だから大人しく死んでください、私の幸せの為に。そうですね、数日後に骨くらいは拾いに来て上げます」
リーザさんは「フフッ」と笑いを漏らしながら一人村に戻っていった。
「お願い! 置いて行かないで!」
何を叫んでも無駄だった。一人薄暗い森の中に取り残されて急に怖くなってきた。
風が吹き木々が揺れて葉擦れの音が余計に怖さを増してあたしは耳を塞いだ。
「イヤ、イヤイヤイヤ! 誰か助けて!」
そんなことを言っても誰も来ないのは分かってる。でも言わずには居られなかった。
時間が経ち、寒くなってきた上にどんどん辺りは暗くなっていき、只でさえ薄暗かった場所が暗闇一色になるまでそんなに時間は掛からなかった。
『夜には獣が出る』そう言われた事を思い出して声は出しちゃいけないと分かっていても、それでも怖くて泣いてしまった。
暗くて、寒くて、心細くて…… 死にたくないって…… そんな時だった。
父親の仕事が行商人ということもあって売れる物、売れる場所があれば品物を仕入れては各地を回っていた。
母親は早くに亡くして父一人だった為にお手伝いさんを一人雇ってはいたが、父も小さい子供を置いていけないと思ったのか父親の仕事に合わせて一緒に着いて行く生活を送っていた。
そんな生活を送っていたものだから、どこかに引っ越しをして友達を作ってもすぐにサヨナラをすることになってしまう。
これが繰り返されると小さいながらも「またこのパターンか」と理解してウンザリしてしまうので、もう友達なんて作らない方がいいんだろうなと考えていた。
そんな考えを固めて七歳になった直後にまた引っ越しがあり次に辿り着いた村があった。
村に着いてから引っ越しの荷物を荷ほどきしている時に視線を感じた。
そちらの方に視線をやると隣の家の少年がこちらをチラチラ見ていた。
その視線が鬱陶しかったから荷物を家の中に入れて荷ほどきの続きを行うと、流石に家の中までは覗こうとはしなかったみたいだった。
作業が終わってすることもなかったから外に散歩に行くと、覗き見していた男の子が話しかけて来た。
「待ってー」
あたしは振り向いてそっけない態度で話しかけて来た男の子に返答する。
「何か用?」
「僕はディック、君の名前を教えてよ」
「セリーヌ」
「セリーヌだね、お隣さんだからこれからよろしくね。良かったら村の中を案内するよ」
「よろしくはしないわ、どうせ直ぐ居なくなるし…… あたしには構わないでくれる?」
「来たばっかりでしょ? どうしてすぐ居なくなっちゃうの?」
まただ…… 引っ越し先で毎回と言っていい程行われるこのイベント…… 説明するのも面倒だから男の子――ディックを突き放した。
「五月蠅いなあ、君には関係ないでしょ。いいから放っておいて」
あたしは走って逃げた。追ってこない事が分かると、きっと初対面なのに突き放したあたしにガッカリしてるのかもしれないと思って少し胸が痛んだ。
数日たったある日の事――
お手伝いさんのリーザさんから森に山菜や茸が取れる場所を村の人から聞いたから一緒に行かないかと言われた。あたしもやる事ないし暇だったから着いていくことにした。
森の中に入ってしばらくすると陽の光が届きにくいような暗い場所に差し掛かって怖くなってきたが、リーザさんが一緒だったから怖い気持ちはあっても何とか耐える事が出来た。
「セリーヌさん、そこに山菜が生えているか見て貰えますか?」
リーザさんが指を刺した場所は崖の付近だった。あたしはゆっくりと近づきつつ山菜が生えていないかを確認した。
が、それらしいものは見当たらなかった。
「うーん、見つからないなあ」
暗いせいか中々気付きにくかったが、自分が崖すれすれにいたことが分かって怖くなり一旦引き返そうとした時の事だった
『ドンッ』
と何かに押されたあたしは崖の下に落下した。
そこまで高さがある訳でもなかったけど、落下の衝撃で足を捻挫した痛みで立つことが出来なかった。
「……っ……、一体何が……」
いったい私は何に押されたのか分からず崖の上を見上げるとこちらを覗いていたのは笑顔のリーザさんだった。
「あら、無事だったんですね。もっと勢いをつけた方が良かったかしら?」
「な、何で……? ど、どうして?」
あたしは訳が分からなくなった。小さい頃からお世話してくれたリーザさんの事を母親の様に思っていたのに…… なんでこんな事になっているのか理解が出来なかった。
「『何で?』ですか…… 簡単です。あなたがいるとあの人は私を見てくれない。あなたが消えてくれればあの人は悲しみの余り私に依存してくれるようになる。そうすればあの人の心は私のモノになる…… そういう事です」
あの人って…… 父さんの事? リーザさんが父さんの事を? 全然分からなかった。そんな素振りを見た事すらなかったから。
「この辺って実は村の人でも来ない様な場所だそうですよ。何でかって言うと、夜には肉食の獣が結構出るそうなんです。だから、あなたをここに置き去りにして獣の餌になって貰いまーす」
この人正気なの? 何でそういう事が平気で言えるの? なんで…… そんなに嬉しそうなの? あたしがそんなに邪魔だった? 鬱陶しかった? だったら言ってくれれば良かったのに…… まさか殺したいほどに憎まれているなんて思ってもみなかった。
あたしはきっと絶望していたんだと思う。信じていた人はあたしをここまで疎ましく思っている人だったなんて……。
「ま、待って…… 父さんにはあたしから説明するから置いて行かないで」
「ダメです。貴方が生きているだけであの人は貴方中心の生活になってしまう。だから大人しく死んでください、私の幸せの為に。そうですね、数日後に骨くらいは拾いに来て上げます」
リーザさんは「フフッ」と笑いを漏らしながら一人村に戻っていった。
「お願い! 置いて行かないで!」
何を叫んでも無駄だった。一人薄暗い森の中に取り残されて急に怖くなってきた。
風が吹き木々が揺れて葉擦れの音が余計に怖さを増してあたしは耳を塞いだ。
「イヤ、イヤイヤイヤ! 誰か助けて!」
そんなことを言っても誰も来ないのは分かってる。でも言わずには居られなかった。
時間が経ち、寒くなってきた上にどんどん辺りは暗くなっていき、只でさえ薄暗かった場所が暗闇一色になるまでそんなに時間は掛からなかった。
『夜には獣が出る』そう言われた事を思い出して声は出しちゃいけないと分かっていても、それでも怖くて泣いてしまった。
暗くて、寒くて、心細くて…… 死にたくないって…… そんな時だった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜
楠ノ木雫
恋愛
朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。
テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。ある日先輩方と城下町でお酒を飲みべろんべろんになって帰ってきた次の日、ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
【完結】つぎの色をさがして
蒼村 咲
恋愛
【あらすじ】
主人公・黒田友里は上司兼恋人の谷元亮介から、浮気相手の妊娠を理由に突然別れを告げられる。そしてその浮気相手はなんと同じ職場の後輩社員だった。だが友里の受難はこれでは終わらなかった──…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる