【本編完結】白紙の未来

Popo

文字の大きさ
上 下
71 / 99
7

第69話

しおりを挟む
満足するほど食べ、雰囲気を存分に楽しんだ杏は「帰ろう。」と言い始めた。

「杏、まだ体力あるなら行きたいところがあるんだが。」

「うん。行きたい。遠いの?」

「いや、車で30分くらいだな。」

「行ってみたい!」

連れて行きたかった場所は、俺の心をリフレッシュしたりなにかを決心したりするときに行く場所。

着いた場所は海。

「うわぁぁぁぁあああ!」

杏は初めて海にきたのかその壮大さに驚いていた。

「ねぇ、近くまで寄ってもいい?」

「あぁ、靴を脱いでそばまで行ってみようか。」

夏も少しずつ涼しくなりそうな季節。
ずぶ濡れにならなければ大丈夫だろう。

「海すごい!大きい!」

「そうだなぁ。」

「あの向こうは外国なんだよね!」

「あぁ。行けるさ。今度は初めから最後まで楽しい海外旅行に行こう。」

「うん。ずっと紫苑が隣にいてね。」

「勿論だ。」


散々遊び疲れた杏は階段の部分に座り水分補給をおこなっていた。

「紫苑はどうして俺をここに連れてきてくれたの?」

「海は…海をみるといつも自分の中がリセットされる気がするんだ。それは悪いこと、悩み事、浮かれていること、全てがスッキリしていい方向に進む。」

「大切な場所だね。」

「杏は今大きな岐路に立っているよな。だけど、俺はそれを応援することしかできない。そばで一緒にはできない。杏が決めたことを俺は見届けることしかできない。だから、杏が今まで持っていた過去の重りをなるべくここに置いていって、杏らしく物事全ていい方に進んで欲しかったんだ。」

「…紫苑。俺…ずっとずっと死にたかった。死んで楽になって何も考えないで一人でいたかったけど、紫苑にあって、紫苑と過ごすようになってから生きたいって思うようになったよ。まだ、怖いものも嫌なこともたくさんあるけど、前に進みたい。でも、そのためには病気と決着をつけなきゃなんだ。」

痛む喉元をガーゼで抑えている杏。
心は俺を受け入れても、散々裏切られてきた体はまだ受け入れてくれていないのだ。

自分でもどうなるかわからない。

その恐怖は本人が1番あるだろうに杏はそんなそぶりを全く見せない。

むしろ、表情が豊かになり感情がしっかり心と一致し始めたので、いい方に進むと考えたい。

「もし、俺が死んだら、新しい番を見つけて契約してねって本当は言いたかったんだけど…。」

「新しく番う気なんて全くない。俺の運命の番で生涯たった一人の愛する人なんだから。」

「ん。嬉しいね。照れる。」

「もっと嬉しくさせてやろう。」

少しずつ海の底に沈もうとする太陽を背に杏と唇を合わせる。

この柔らかさを知り、甘さを手放すことなんてできない。
神が杏を奪おうとするのに運命は逆らえるだろうか。

いや、ここにきたんだから物事はきっといい方向に進むだろう。


そしてついに杏は眠りについた。







しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

処理中です...