【本編完結】白紙の未来

Popo

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第68話

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「婚姻届と番届さぁ、もし俺のα欠乏症が治ってまた字が書けるようになったら書いてもいい?」

字を上手く書けなくなった杏は絞るような声で苦しそうにそう言った。
代筆にするかと聞いたが、本人は直筆で書きたい気持ちの方が強いようだった。

「もちろん。」

本当は役所にさっさと認証してもらいきれない契約を結びたいが、本人の意思の方が優先だ。

椅子に座った俺の膝の上に座る杏は紙をじぃっと見つめている。

「紫苑、ぎゅーして。」

要望通りに強めにハグをする。

「どうした?今日は随分と甘えたじゃないか。」

「わがままだった?」

「全く。もっと言っていい。」

「いつもより紫苑の近くにいたいんだ。」

「それは嬉しいな。」

「すごーく、曖昧な話をしてもいい?」

「なんだ?」

「俺、また眠ると思うんだけど、なぜかそれが最後だと思うんだ。」

「長く眠るのが最後なのか?」

「うん。なんとなくなんだけど、最後だなって感じるの。」

それは、今生の別れだからなのだろうか?
それとも、病気が治るということを体が感じているからなのだろうか。

「俺、わがまま言ってもいい?」

「どうぞ。」

「そのね、ファミレス行ってみたくて。」

「行こう。」

ファミレスは贅沢をするところ。
以前そう言っていた杏からわがままとは言えないおねだりを聞けるとは。

多分、思い出作りの一環なんだろう。
ならばこちらもそれなりのことをせねばならない。

内線で徹に繋げて、予約を促す。

「誰と食べたい?」

「紫苑でしょー、徹さんでしょー、聖くんと、渡辺先生と、篠宮さんと、宮さん…でも宮さん忙しいかなぁ?それに…いっぱいすぎ?」

「貴弘は今日は病院を開けているから来れないし、宮はちょうど今日はお休みの日なんだ。」

「…そっか。」

「またご飯に行けばいい。」

「うん。」

諸々の準備を終わらせてファミレスに向かう。車には聖以外が乗っており、聖はこれからバイクでファミレスに向かうらしい。

「ファミレスは、俺も初めてだ。」

「初めて同士だ!楽しみ。」

ファミレスに入り、予約していた席に案内される。
なるべく裏社会の人に見えないようにカジュアル系な服を着てきたのでまぁまぁ馴染んでいると思う。

「うーん。紫苑たちみんな浮いてるね。」

「…馴染んでないか?」

「イケメンすぎて、馴染んでないよ。」

杏によると馴染んでいるのは聖のみらしい。
聖もカジュアル系なのだが…?

「…聖は馴染むのに俺はダメなのか?」

「なんだか、オーラ?が違うんだよ。本当はいつもファミレスじゃなくてもっと高級なレストランに行ってる感じ?」

周りの女の人がみんなを見てるよってクスクス笑いながらいう杏がこの店の中で一番かわいかった。

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