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第62話
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無事紫苑の部屋に戻ってくることができたときは人生で一番嬉しかった。
あぁ、やっぱりここが俺の帰る場所なんだってちゃんと思えたし、帰る場所があって帰ってきてもいいって言ってくれる人がいることが本当に嬉しかった。
だから、油断していたのかもしれない。
α欠乏症は悪化の一途を辿っていることを忘れていたのだ。
「杏。起きたか?」
「うんんー。しお抱っこ。」
「おいで。」
寝起きだからなのかなんなのかよくわからないけど、はっきりしない頭で考えられることはほぼなく、歩くために体を動かすことも億劫で紫苑に甘える。
「俺、どのくらい寝てた?」
「2日ぐらいだな。」
抱っこされながら向かう先はリビング。
「おはよう。杏君。」
「おはよ、渡辺せんせ。」
「さて、体見るからこっちおいで。」
紫苑に先生が座っていたソファの向かいに下ろしてもらう。
紫苑はそのままつきそっていようと していたが徹さんが書類を持ってきたので、先生にぐちぐち言いながらその場を離れていった。
「いいか、杏の体を見るな、触れるな、記憶するな。」
「無理難題を押しつけて杏様をしっかり診ることができなくなったら本末転倒ですよ。」
「わかっている。だから、手は抜くな。だが守れ。杏、すぐ戻ってくるからな。」
「うん。お仕事がんばれ。」
書斎に二人が行った瞬間、先生は長いため息をついた。
「はぁぁぁぁぁ。もーなにあれぇ。独占欲の塊じゃーん。俺の幸せ逃げちゃうよー。」
「…幸せ逃げるの?」
「そうだよ。ため息を着くと幸せが逃げちゃうんだ。」
「捕まえられないの?」
「捕まえたいねぇ。」
こんな雑談をしながらも先生は俺の心音を聞いたり目の色をチェックしたりしている。
「痩せたねぇ。いくら点滴をしているとはいえ、今日は固形を食べようね。」
「うん。」
「2日ぶりだからこってりじゃなくてあっさりのものにしようね。」
2日で起きれればいい方で長い時は2週間眠る時もあったため、学校は休学中だ。
三年生に上がってからほぼ行けてないので、留年してまた通い始められるようになるまで学校は休むことにした。
先生は寂しそうだったけど、聖君は学校に通っているので多分大丈夫。
「体でどこかしんどいところはない?」
「んーないよ。」
「じゃあ、今度はテストしようね。」
「筆箱持ってくる。」
少し離れた机に置いてあった筆箱を取りに行き水を飲んでからテストを受ける。
学力の低下がどこまで進んでしまったかを確認するためなので初めは幼稚園の問題程度から始まり、最後は中学校一年生程度で終わる少し長いテストのはずなんだけど、俺は最近小学校低学年あたりから手が進まないので最後までできたことはない。
「もうわかんない。」
「じゃあ、終わり。紫苑が書斎に来ていいってさ。行ってきなー。」
「うん。先生呼びにきてね。」
「はーい。丸つけしたら呼びにいくよ。」
あぁ、やっぱりここが俺の帰る場所なんだってちゃんと思えたし、帰る場所があって帰ってきてもいいって言ってくれる人がいることが本当に嬉しかった。
だから、油断していたのかもしれない。
α欠乏症は悪化の一途を辿っていることを忘れていたのだ。
「杏。起きたか?」
「うんんー。しお抱っこ。」
「おいで。」
寝起きだからなのかなんなのかよくわからないけど、はっきりしない頭で考えられることはほぼなく、歩くために体を動かすことも億劫で紫苑に甘える。
「俺、どのくらい寝てた?」
「2日ぐらいだな。」
抱っこされながら向かう先はリビング。
「おはよう。杏君。」
「おはよ、渡辺せんせ。」
「さて、体見るからこっちおいで。」
紫苑に先生が座っていたソファの向かいに下ろしてもらう。
紫苑はそのままつきそっていようと していたが徹さんが書類を持ってきたので、先生にぐちぐち言いながらその場を離れていった。
「いいか、杏の体を見るな、触れるな、記憶するな。」
「無理難題を押しつけて杏様をしっかり診ることができなくなったら本末転倒ですよ。」
「わかっている。だから、手は抜くな。だが守れ。杏、すぐ戻ってくるからな。」
「うん。お仕事がんばれ。」
書斎に二人が行った瞬間、先生は長いため息をついた。
「はぁぁぁぁぁ。もーなにあれぇ。独占欲の塊じゃーん。俺の幸せ逃げちゃうよー。」
「…幸せ逃げるの?」
「そうだよ。ため息を着くと幸せが逃げちゃうんだ。」
「捕まえられないの?」
「捕まえたいねぇ。」
こんな雑談をしながらも先生は俺の心音を聞いたり目の色をチェックしたりしている。
「痩せたねぇ。いくら点滴をしているとはいえ、今日は固形を食べようね。」
「うん。」
「2日ぶりだからこってりじゃなくてあっさりのものにしようね。」
2日で起きれればいい方で長い時は2週間眠る時もあったため、学校は休学中だ。
三年生に上がってからほぼ行けてないので、留年してまた通い始められるようになるまで学校は休むことにした。
先生は寂しそうだったけど、聖君は学校に通っているので多分大丈夫。
「体でどこかしんどいところはない?」
「んーないよ。」
「じゃあ、今度はテストしようね。」
「筆箱持ってくる。」
少し離れた机に置いてあった筆箱を取りに行き水を飲んでからテストを受ける。
学力の低下がどこまで進んでしまったかを確認するためなので初めは幼稚園の問題程度から始まり、最後は中学校一年生程度で終わる少し長いテストのはずなんだけど、俺は最近小学校低学年あたりから手が進まないので最後までできたことはない。
「もうわかんない。」
「じゃあ、終わり。紫苑が書斎に来ていいってさ。行ってきなー。」
「うん。先生呼びにきてね。」
「はーい。丸つけしたら呼びにいくよ。」
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