【本編完結】白紙の未来

Popo

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第39話

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鍵の解除音とドアが開く音がした方向を向いて待つ。

二人分の足音がこっちに近づいてくる。

「おかえりなさい。紫苑さん。徹さん。」

「あぁ、ただいま。体調はどうだ杏。」

「ただいま戻りました。杏様。お出迎えありがとうございます。何か飲まれますか?」

「体調はすこぶるいいです。お茶飲んでもいいですか?」

「ご用意いたしますね。」

本当に過去一と言ってもいいほど体調が良好なのだ。
まるでずっと睡眠不足だったみたいにね重かった体からいろんなものが排出されて羽根が生えたみたいに体が軽い。

実は誘拐されてから記憶がはっきりするまで1ヶ月間の空白があるんだけど何も思い出せないし、思い出してもいいことはないだろうから気にしないようにしている。

「…来週から学校が本来ならあるんだが、行くか?」

選択をすることが苦手な俺には難しい質問。
紫苑さんは行って欲しいのかな?
それとも行って欲しくないのかな?

どっちを言えば正解なのかな。

「すまねぇ。答えにくい質問だった。どうせ春休みまであと少ししかないし、杏がまだしんどかったり心の整理がつかなかったりするんだったら新学期から通ってもいい。」

「そしたら…夏井先生にも聖君に会えないし…でも…。」

「養護教諭は会えないが、聖ならここに来れる。」

「聖君はΩじゃないから出席日数足りなくなっちゃいますよね…。」

「それもどうにかなるな?徹。」

「はい。どうとでも。」

お茶とコーヒー二つを持ってきながらそう答えた徹さんは本当に容易いことって感じで薄く笑いながらリビングにきた。

「というわけだ。」

「…新学期からちゃんと通うので、新学期まで紫苑さんの家にいたいです。お願いします。」

頭を下げる俺にあわてた紫苑さんは頭を手で上げる。

「謝んなくていいし、俺もそれには賛成だ。家が落ち着くなら家で勉強すればいい。」

「でも…ずっとお世話になってるのに何も返せていないのにこんな図々しく…。」

「選択することは悪いことじゃない。杏は選択することに少しずつ慣れる必要があるな。」

あの家にいたときは選択肢なんてなかった。
親に言われればそれが全てで俺は他の選択肢なんて考えなかったし逆らうことが怖かった。

あの部屋にいたときは恭さんが全てだった。
それこそ親よりも逆らうことは出来なかったから最終的に俺は蓮になりきった。

選択肢がないこと。選択権がないことは俺にとってだったのに紫苑さんの家にいさせてもらってからはずっと選択を迫られている。「今日のサラダにかけるドレッシングはどっちがいいか」から今の「高校に行くかどうか」まで。

みんなにとって普通の選択することは俺にとってかなり難しいこと。そう感じるたびに俺はまともに育っていないって感じる。

普通の世界で普通に生きていけないって。

まぁ、どうせ近いうちに死ぬんだけどね。

「…ん。杏!こっちを見ろ。」

「紫苑…さん?」

「思い詰めるな。お前はお前らしく生きていい。今までが悪かったんだ。ほら…徹が入れたお茶飲んで落ち着け。」

「…はい。」

徹さんが淹れてくれたお茶はあったかい。
お茶もあったかいんだけど心に染みるあったかさがある。お茶の効果すごいなと思いながらブラックコーヒーを啜る紫苑さんをみた。





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