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第19幕 連星拳
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『お前ら、転校初日どうだったアル?』
美翔と真幌が太志郎達のアジト、二人が暮らす一室に帰宅した後、二人の電子端末に式部からの通話があった。
「おー式部。順調やで! 真幌が対戦した冬乃もおったし」
「クラスのみんなと仲良くなれそうです」
『そらよかったアル。修行も大事だけど学業も大事ネ』
「修行って中央武道場だけでやるんか?」
三人は通話を続ける。
『いや、それだけじゃないアル。お前達にはシティナイツの任務も手伝ってもらう。クオーツさんと共に戦うためには本物の犯罪者と戦い経験を積むのも重要アル』
「そないか……」
「それは、マスターの決定ですか?」
真幌は式部に問う。
『ああ。あの人、どうしてもお前達が必要みたいアル』
「今は、マスターと連絡取れますか?」
『今は出来ないアル。生きてるのは確かだが……俺も居場所がわかればすぐにでもそこに行きたいアル』
式部は本音を見せる。
「マスターは生きとうって! 連絡マメちゃうんは元々やったし。何日か帰ってこなくてもひょっこり帰ってくることは昔ようあったやん」
美翔は少し昔の話を始めた。
「一か月くらい警察の仕事で帰ってこんかった事もあったやん」
「確かに。その間はボク達自分で鍛錬したり望月さんの店手伝ったりして待ってたもんね」
「今回のはそれが二年になっただけや。もしマスターがエライことなっても、あてと真幌と式部で助けたらええんや!」
美翔はクオーツの生存を信じていた。それは、真幌と式部もだ。
「二年の間もあて等自分で鍛錬しとったし、はよマスターに会うてあて等がつよなったん見せたいわぁ」
「うん……!」
『そうアルネ……』
美翔はそう言うと、真幌は少し笑顔になり、式部も電話越しに少し微笑む。
『じゃあなネ。俺は仕事であんまり行けねえけど、配信でお前らのこと見てるアル』
「おー、再見」
中央武道場の光景は登録者限定でネット配信される。時々テレビでも放映される。
式部との通話は切れた。
――ガチャン
「美翔さん、真幌くん」
部屋の扉を開けて入ってきたのは太志郎だった。
「タイシ、なんなん?」
「今日は俺達と夕飯食べるか?」
「え?」
太志郎は夕飯に誘いに来たのだった。
※
太志郎達のアジト、弁当屋『神楽庵』の奥には弁当屋の厨房とは別の台所を設置したアジトの関係者の共用スペースがある。共用スペースのテーブルに置かれた食事は美翔や真幌が見たことのないものだった。
「タイ兄の得意料理で故郷の名物、ガソリンカレーです!」
食事の名を言ったのは、クリスティーナだった。オレンジ色のスパイスカレーを車のガソリンに見立て、白米にかけたカレーライスである。
「へー、初めて見たわこれ。タイシが作ったん?」
「ああ」
美翔と真幌は席に座る。そこには黒影もいた。
「タイ兄が飯作るとほぼ毎回これじゃん」
「ちょっと黙れ」
「私はタイ兄のカレー好きだよー」
「クリス、サンキュ」
クリスティーナに褒められ太志郎は少し喜ぶ。
「はむっ」
美翔はカレーをスプーンで一口食べる。真幌も同じように食べる。
「……お、好吃。ちょい苦いけどええやん!」
「うん、そうかも」
美翔が美味を意味する単語を言うと真幌もそれに納得する。二人はもぐもぐと
「うまいかい? よかった」
それを見て太志郎も嬉しくなっていた。
「そういや、タイシ達兄弟弟子や言うたけど師匠ってどんな人なん? 今何してるん?」
美翔は食べながら太志郎と黒影、クリスティーナをちらりと見る。
「あー……、今は忙しくて俺達もなかなか会えないんだ。拳法で一通りのことが教わったから困ることはないが」
「結構強いぜ。多分クオーツに負けないくらい」
「うーん、西日本一強いおばちゃんですね」
太志郎と黒影とクリスティーナは自分達の師匠について少し触れる。三人の師匠は女、で強いらしい。
「思ったよりめっちゃ薄い説明するやん。あんま言いたないんなら言わんでええけど」
「兄ちゃん、あんま突っ込まないほうがいいかも……」
少しだけ苦い顔を見せる三人を見て美翔と真幌は黙るのだった。
※
翌日。小学校の放課後の教室。美翔は授業で使うタブレット端末を机の中にしまいながら冬乃に一枚の紙を渡された。名前、年齢、好きな食べ物……と記載するいわゆるプロフィール帳にファイリングする用紙を渡される。
「これ、クラスの女子らが書いてって回ってきたッス」
「おわー、これここでもやるんかい」
「どこの学校でも同じみたいッスね」
美翔はしぶしぶ受け取る。
「今日も中央武道場に行くんすか?」
「おー、はよ師匠に追い付かなあかんから」
「美翔くんの拳法って確か連星拳だったッスね。てかどんな拳法ですか? おれ名前しか知らないんすよ」
冬乃は連星拳について問う。
「あーせやな、あての師匠が言うてたけど」
美翔は連星拳について語った。
連星拳とは、惑星や宇宙上の物体、つまり天体を司る拳法。拳法の使い手達はそれぞれ『守護天体』を持ちそれにちなんだ技を持つ。『守護天体』は師匠に指定され、その技を取得するのが通例である。
「そんで、あての守護天体は『隕石』で真幌は『月』やで」
「へー、なんかぴったりッスね! 美翔くんは隕石って感じで真幌くんは月っぽいッス」
「……そっか、せやな!」
自分は隕石で真幌は月。確かにぴったりだ。クオーツに守護天体を指定された時にも思った。
「今日も中央武道場に行くんスか?」
「おう行くで。真幌も」
「おれと一緒に行きません? おれまだ美翔くんと戦ってないッスので」
「せやな! あてもお前と戦っときたいわ」
今日も少年達は放課後に中央武道場に行く。
美翔と真幌が太志郎達のアジト、二人が暮らす一室に帰宅した後、二人の電子端末に式部からの通話があった。
「おー式部。順調やで! 真幌が対戦した冬乃もおったし」
「クラスのみんなと仲良くなれそうです」
『そらよかったアル。修行も大事だけど学業も大事ネ』
「修行って中央武道場だけでやるんか?」
三人は通話を続ける。
『いや、それだけじゃないアル。お前達にはシティナイツの任務も手伝ってもらう。クオーツさんと共に戦うためには本物の犯罪者と戦い経験を積むのも重要アル』
「そないか……」
「それは、マスターの決定ですか?」
真幌は式部に問う。
『ああ。あの人、どうしてもお前達が必要みたいアル』
「今は、マスターと連絡取れますか?」
『今は出来ないアル。生きてるのは確かだが……俺も居場所がわかればすぐにでもそこに行きたいアル』
式部は本音を見せる。
「マスターは生きとうって! 連絡マメちゃうんは元々やったし。何日か帰ってこなくてもひょっこり帰ってくることは昔ようあったやん」
美翔は少し昔の話を始めた。
「一か月くらい警察の仕事で帰ってこんかった事もあったやん」
「確かに。その間はボク達自分で鍛錬したり望月さんの店手伝ったりして待ってたもんね」
「今回のはそれが二年になっただけや。もしマスターがエライことなっても、あてと真幌と式部で助けたらええんや!」
美翔はクオーツの生存を信じていた。それは、真幌と式部もだ。
「二年の間もあて等自分で鍛錬しとったし、はよマスターに会うてあて等がつよなったん見せたいわぁ」
「うん……!」
『そうアルネ……』
美翔はそう言うと、真幌は少し笑顔になり、式部も電話越しに少し微笑む。
『じゃあなネ。俺は仕事であんまり行けねえけど、配信でお前らのこと見てるアル』
「おー、再見」
中央武道場の光景は登録者限定でネット配信される。時々テレビでも放映される。
式部との通話は切れた。
――ガチャン
「美翔さん、真幌くん」
部屋の扉を開けて入ってきたのは太志郎だった。
「タイシ、なんなん?」
「今日は俺達と夕飯食べるか?」
「え?」
太志郎は夕飯に誘いに来たのだった。
※
太志郎達のアジト、弁当屋『神楽庵』の奥には弁当屋の厨房とは別の台所を設置したアジトの関係者の共用スペースがある。共用スペースのテーブルに置かれた食事は美翔や真幌が見たことのないものだった。
「タイ兄の得意料理で故郷の名物、ガソリンカレーです!」
食事の名を言ったのは、クリスティーナだった。オレンジ色のスパイスカレーを車のガソリンに見立て、白米にかけたカレーライスである。
「へー、初めて見たわこれ。タイシが作ったん?」
「ああ」
美翔と真幌は席に座る。そこには黒影もいた。
「タイ兄が飯作るとほぼ毎回これじゃん」
「ちょっと黙れ」
「私はタイ兄のカレー好きだよー」
「クリス、サンキュ」
クリスティーナに褒められ太志郎は少し喜ぶ。
「はむっ」
美翔はカレーをスプーンで一口食べる。真幌も同じように食べる。
「……お、好吃。ちょい苦いけどええやん!」
「うん、そうかも」
美翔が美味を意味する単語を言うと真幌もそれに納得する。二人はもぐもぐと
「うまいかい? よかった」
それを見て太志郎も嬉しくなっていた。
「そういや、タイシ達兄弟弟子や言うたけど師匠ってどんな人なん? 今何してるん?」
美翔は食べながら太志郎と黒影、クリスティーナをちらりと見る。
「あー……、今は忙しくて俺達もなかなか会えないんだ。拳法で一通りのことが教わったから困ることはないが」
「結構強いぜ。多分クオーツに負けないくらい」
「うーん、西日本一強いおばちゃんですね」
太志郎と黒影とクリスティーナは自分達の師匠について少し触れる。三人の師匠は女、で強いらしい。
「思ったよりめっちゃ薄い説明するやん。あんま言いたないんなら言わんでええけど」
「兄ちゃん、あんま突っ込まないほうがいいかも……」
少しだけ苦い顔を見せる三人を見て美翔と真幌は黙るのだった。
※
翌日。小学校の放課後の教室。美翔は授業で使うタブレット端末を机の中にしまいながら冬乃に一枚の紙を渡された。名前、年齢、好きな食べ物……と記載するいわゆるプロフィール帳にファイリングする用紙を渡される。
「これ、クラスの女子らが書いてって回ってきたッス」
「おわー、これここでもやるんかい」
「どこの学校でも同じみたいッスね」
美翔はしぶしぶ受け取る。
「今日も中央武道場に行くんすか?」
「おー、はよ師匠に追い付かなあかんから」
「美翔くんの拳法って確か連星拳だったッスね。てかどんな拳法ですか? おれ名前しか知らないんすよ」
冬乃は連星拳について問う。
「あーせやな、あての師匠が言うてたけど」
美翔は連星拳について語った。
連星拳とは、惑星や宇宙上の物体、つまり天体を司る拳法。拳法の使い手達はそれぞれ『守護天体』を持ちそれにちなんだ技を持つ。『守護天体』は師匠に指定され、その技を取得するのが通例である。
「そんで、あての守護天体は『隕石』で真幌は『月』やで」
「へー、なんかぴったりッスね! 美翔くんは隕石って感じで真幌くんは月っぽいッス」
「……そっか、せやな!」
自分は隕石で真幌は月。確かにぴったりだ。クオーツに守護天体を指定された時にも思った。
「今日も中央武道場に行くんスか?」
「おう行くで。真幌も」
「おれと一緒に行きません? おれまだ美翔くんと戦ってないッスので」
「せやな! あてもお前と戦っときたいわ」
今日も少年達は放課後に中央武道場に行く。
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