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第10幕 シティナイツ三騎士

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 「あの人は、まさか」
真幌は立花恒星と呼ばれた男が先ほど鏑木町の街路樹の前で見た男だと気付く。
「?」
立花恒星と呼ばれた男も、真幌に気付く。鋭い緑の瞳が見つめてくる。
「……」
「どないしたん? 真幌」
数秒見つめ合っていると、美翔に真幌は呼ばれた。
「い、いや何でもないよ」
「誰見てたの?」
小空は真幌の視線の先を見る。もちろん恒星がいる。
「あ! あれシティナイツの副長、立花さんじゃない!」
小空には見覚えのある人物だった。
「え? シティナイツ? てことはタイシやクロの上司?」
美翔も視線の先を見る。
「さすが立花副長だ! すぐに倒した!!」
「シティナイツはやっぱ強いな!」
試合を見ていた周囲の人物らは恒星を見て拍手したりして盛り上がる。
「小空ちゃんは知ってるの?」
「まあ結構ニュースで活躍見るし。あの人は立花恒星。シティナイツの副隊長よ。結構強い剣士よ」
「立花さん……」
真幌は恒星が気になる。
恒星は一呼吸置くと、真幌に近付くように歩く。
「……お前さっきの奴か?」
「え?」
「さっきと言い、何か用か?」
恒星は真幌に近付くとじっと真幌を見る。
「いえ! なんでもないです!」
「おいなんやねん! お前!」
美翔は二人の間に入る。
「兄ちゃん、ボクは大丈夫だよ」
「?」
恒星は真幌が言った『兄ちゃん』に反応する。
「コイツはお前の兄貴か?」
恒星は美翔を見て真幌に問う。
「あ、そうじゃなくて、幼馴染の兄弟子でボクが兄ちゃんって呼んでるだけです」
「おー、あてのが年上や」
真幌は美翔との関係を説明する。恒星は美翔をまじまじと見る。
「確かに全然違うな」
「どういう意味や!?」
失礼なことを言われたと思い、美翔は怒る。
「恒星―! お前相変わらず絡み方間違えすぎだっての」
恒星の背後から声がする。チャイナジャケットを着た長身の金に近い茶髪の青年が走って近づいてくる。
「あ! 隊長のタイラーさんも!?」
ミツテル・タイラーだった。小空は彼に気付き驚く。
「こいつが隊長?」
美翔はミツテルを少し睨む。
「なんか失礼なこと言ったみたいだな。悪い君達。コイツ初対面との絡み方わかってないとこあるから」
ミツテルは恒星を擁護し謝る。
「わかってなさすぎちゃう?」
美翔は少し呆れる。そうしていると、また誰かが現れた。
「ミツテルさん! 恒星さん! 遅くなってすみません!」
紫のチャイナ服を着た黒髪でミツテルや恒星より少し小柄な青年が一人走ってきた。その青年の容姿はある人物に似ていた。美翔と真幌はそれに気付いた。
「? あのあんちゃん、ちょっと小空に似とうような、てか写真で見たような?」
「あの人ってまさか?」
青年は、小空に似ていた。それもそのはず、
「ああー!! 胡蝶フディエお兄ちゃん!!」
小空は叫んだ。そう、彼は彼女の実兄、胡蝶である。
「って小空!?」
久々に見た妹に兄は驚く。
「お兄ちゃん久しぶりー!!」
「わ!」
走ってきた兄・胡蝶に小空は走って抱き着く。
「まさかこの女の子、胡蝶が言ってた妹ちゃん? 結構似てるじゃん」
「この子がか?」
抱き着く光景をミツテルと恒星は見る。
「はい、妹の小空です……俺、修行で三年くらい帰ってなかったので……」
「そうよ! パパも私も心配してたわよ!」
「今日父上も来てるの!?」
「今日パパは仕事だからいないわよ。今日会いたかったから私だけ来たの」
兄妹の会話を美翔達周囲はただ見ている。
「なんで他の家の身内ネタって急についていけなくなるんだろう……」
「あて等関係ないからちゃう?」
真幌と美翔は完全についていけなくなった。
「お兄ちゃん今参謀でしょ? タイシさんから聞いたわよ」
「え? 名谷なやに会ったの? 参謀のことはあんま触れないでって……」
隊長、副長に参謀。シティナイツの顔とも言える三人の男が揃った。
「おお! シティナイツのトップの三人、『三騎士さんきし』が揃ったぞ!!」
「三人ともがここにいるってなかなかないぞ!」
体育館にいる他の選手や見学者、審判らは歓喜する。
「わあ、俺ら三人揃うと急にうるさくなるよな」
「鍛錬の邪魔だな」
「本当に、武道場行く日が見事に被るなんて……」
ミツテル、恒星、胡蝶。当の三人は歓声にむしろ呆れるのであった。
「お兄ちゃん達すんごい人気ありまくりね」
小空も歓声にただ茫然とするのであった。
「……真幌、今日式部来る言うてへんかった?」
「そう言えば視察だって言ってたね」
話題を変えようと美翔は真幌と話す。
「え! 式部くるの?!」
それに飛びついたのはミツテルだった。
「?」
飛びつかれる理由が美翔にはわからなかった。
「美翔! 真幌!」
二人を呼ぶ声がする。声がする方向を見ると、式部がいた。スーツを着てネクタイの代わりにスカーフをしている。フロンティア・フレア専務としての視察で来ていたのだ。
「あ、式部」
「本当に来たんだ」
呼ばれた二人は反応する。しかしそれと同時に、ミツテルが動いた。
「式部―!」
大声で式部の名を呼びながら、ミツテルは彼の元に走っていく。
しかし、それは式部には受け入れられないものだった。
「寄ってくるんじゃ、ないアル!!」
式部は右手中指の指輪を光らせ、鎖鎌に変形させる。
それをミツテルに大きく振りかざす。
「おわ!」
ミツテルは鎖の先の鎌を避ける。
「人が来るたびに近づいてきて……俺はお前が嫌いアル!!」
「なんだよぉ、俺とお前の仲じゃん」
鬼の形相で式部は怒る。ミツテルは笑っているように見える。
「? 式部は何に怒ってるんや?」
「どうしたの式部さん?」
急に怒り出したように美翔と真幌には見えた。それは小空もだ。
「お兄ちゃん、あれ一体どしたの?」
小空は胡蝶に問う。
「俺の師匠から聞いたけど、あの二人、ミツテルさんと式部さんは幼馴染なんだ」
幼馴染。その単語が連想できないような光景がそこにあった。
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