上 下
9 / 63

第9幕 中央武道場

しおりを挟む
 「さっき誰と話してたん?」
「え? えっと誰だっけ?」
「あてが訊いとうんやて」
美翔はホットドッグにかぶりつく。
「ん。これ真幌に」
「?」
真幌は美翔にドリンクを渡される。透明のプラスチックカップに入ったそれは、真幌の好きなタピオカが入ったピーチジュースだった。
――兄ちゃんまさかこのために?
「……ありがと兄ちゃん!」
「んー。はふ」
美翔はホットドッグを食べ続ける。真幌はジュースを飲む。
「美翔! 真幌くん!」
「あ、小空や」
そうしている二人のところに名を呼びながら小空がやってきた。
「久しぶり、って何食べてるのよ。ごはんくらい私が奢るってのに」
「安心せえ、奢られたるから」
美翔はホットドッグを食べ終える。
「夕方にタイシが迎えに来るからそれまで時間あるんよ」
「とりあえず小空ちゃんにはまず会おうって来たんだ」
「そうそう、あのおっちゃんには怒られんかった?」
美翔は留吉のことが気になっていた。
「あーパパ? ちょっと怒られたわ。でも大丈夫よ」
小空は平気そうだった。
「時間あるんだったら中央武道場行かない? てかあんた達あそこで修行するんでしょ?」
「せやで。ほんまは先週からやったみたいやけど、お前があれして」
「あれは悪かったわね……」
小空は痛いとこを突かれる。
「とにかくここから近いし今から行くわよ。私も今日選手登録しに行くし」
「え? 小空も?」
「もちろんよ。あんた達拳法家だけじゃなく、剣士や術者、私みたいな銃使いもいるわよ。とにかく戦えれば登録できるんだし」
「本当に色んな人いるんだね」
拳法家やプロの格闘家しかいないと思っていた美翔と真幌だった。
「とりま行くわよ! 今日はシティナイツの人達も来てるみたいだし」
「なんでシティナイツ?」
「シティナイツの人もほとんどが選手登録してるのよ。武道場の盛り上げと防犯も兼ねてね」
三人は中央武道場に向かって歩き出す。


 ※


 緑の瓦で出来た大きな屋根が目立つ巨大な東洋の城を模した体育館。それが中央武道場。
「式部は今日か明日に行け言われたけど、まずどないしたらいいんやったっけ」
「ボク達は身分証のデータ渡しただけで手続きは式部さんがしてくれたもんね」
受付窓口前のロビー。小空の手続きが終わるまで美翔と真幌は待っていた。
「他の人と戦って武道場でランクを上げろって先週説明されたけど、その対戦相手はどうやって決めるのかな?」
そう話していると、小空が戻ってきた。
「お待たせ。早速体育館行くわよ。もう何人か対戦してるかも」
小空が二人を連れて行こうとする。
「どうやって対戦相手を決めるの?」
「ランクが似たような数値の人を見つけてその人と戦うの。負けても下がらないけど勝ったらひとつ上がる。ランクはそうやって上げていくって受付の人から聞いたわ」
「えらい地道やね」
三人は歩きながら中央武道場内の複数ある体育館のひとつに向かう。
門をくぐると、囲むような観客席のある広い空間が見えた。
「お、何人かおるやん」
体育館内には、手合わせをしている選手らとそれを審査する審判、審判と対戦相手を探す選手らがいた。しかも、武術をする人間ならではの緊迫さや緊張、戦慄もある。
「おー、すごいなぁ」
「あんたこのフンイキわかってる?」
それらを感じつつも美翔は呑気そうにしている。
「確かにちょっと緊張するかも」
もちろん真幌も感じていた。
その緊迫の中で、一人の人間に目が行く。
「? あれは……」
真幌の見覚えのある黒髪の美青年が、東洋剣を振るい同じく剣を握る男と対戦している。
対戦相手の男を相手に火花を散らすような剣の動きを見せる。
美青年の雄々しくも優雅な戦いに、真幌は一瞬目を奪われた。
「まさか、あの人は!?」
美青年は黒い漢服を着ている。真幌は気付いた。
その瞬間、美青年の対戦相手は剣を落とし、敗戦した。
「――勝者、立花恒星たちばなこうせい!!」
その立ち合いを審査していた審判は、美青年の名を呼んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。 貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや…… 脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。 齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された—— ※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...