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後編

花宮の修行

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「城之内君、またお世話になってしまって本当に申し訳ない」

「いえ。花宮の霊能力が開花したのは、俺にも責任があると思うんです。ですからこれぐらいのことはさせて下さい」

 俺はそう答えた。霊に対する感度のコントロールができるようにならないと、外出もできない。精神的にもつらい状況が続くので、できるだけ早いほうがいいのだ。

 花宮は急いで数日分の外泊準備をすると、俺と一緒に車に乗り込んだ。俺は花宮の家を出るとき、念のため内側から霊が見えなくなるような霊壁を張った。花宮もこの霊壁の中にいれば、とりあえずは大丈夫だろう。

 水巌寺へ向かう途中、俺のアパートへ寄ってもらった。俺も数日分の荷物とりんをピックアップして、再び車に乗り込んだ。

 俺は車の中から環奈先生に連絡をとった。環奈先生の霊が見えだした時の体験を聞きたかったからだ。環奈先生いわく「私は怖かったから、できるだけ目を閉じていた」とのことだった。

 環奈先生に今水巌寺に向かっているところだと伝えると、「なにそれ、面白そう! 私も行こうっと」と言って通話が切れた。なに環奈先生、ヒマなの?

 花宮のお父さんが運転する車は、高速道路をかなりの速度で飛ばしている。りんには車の中にいる間は、できるだけ静かにするように言い含めておいた。

 高速を降りてしばらく行くと、水巌寺の看板が見えてきた。思ってたより随分早く、俺の実家に到着した。

 駐車場から社務所へ行くと、オヤジが待っていた。挨拶もそこそこに、花宮のことについて話し合った。とりあえず花宮には、2泊3日の予定でオヤジに修行してもらうことになった。花宮のお父さんは「よろしくお願いします」とオヤジに頭をさげ、車で帰っていった。

「琴葉ちゃんと言ったかの。心配かもしれんが、数日修行すればとりあえずは大丈夫じゃ。環奈ちゃんもまったく同じじゃったからな。とりあえず……ちょっと待ってなさい」

 オヤジはそう言うと、懐から小さな和紙を取り出し呪文を唱える。和紙は式神に変わり、一人分の霊壁の空間ができた。

「この式神を持っていなさい。この霊壁の中にいれば、霊が見えることはないじゃろう。ずっとナオと一緒にいるわけにもいかんからのう」

「はい……ありがとうございます」

 花宮はオヤジに礼を言って、式神を受け取った。

「それでは早速修行を始めるぞ。ナオも一緒に来なさい」

「俺も?」

「うむ。今ワシが作った霊壁の作り方を教えてやろう。式神の使い方も奥が深いからのう」

「そういうことか。わかった」

 式神を使って「中から霊が見えなくなるような霊壁」を作ることができれば、いざというとき花宮に応急処置として使える。霊能者として覚えておくべきスキルだ。

 りんを俺の部屋へ残して、俺と花宮はオヤジの修行を受けた。昼食を挟んで午後も修行は続いたが、夕方になる頃には俺も花宮もヘトヘトになっていた。

 初日の修行が終わった。俺は花宮に声をかける。

「お疲れ、花宮。調子はどうだ?」

「うん、なんだか難しいね。精神統一とか呼吸法とか……うまく成果が出てくれるといいんだけど」

「大丈夫だと思う。環奈先生もできるようになったわけだし」

 霊に対する感度のコントロールは、霊能力の基本中の基本だ。きちんと修行をすれば、それほど難しいことではない。

 あっというまに夕食の時間となったので、俺たちはそれぞれの部屋に戻って着替えて食堂に集まった。りんも一緒に連れて行くと、そこにはもう一人お客さんが増えていた。

「こんばんは、ナオくん、それと花宮さんだね。それからりんちゃんも」

「環奈先生、こんばんは。来るの早くないですか?」
『環奈ちゃん、やっほー』
「三宅先生、こんばんは」

 環奈先生は自分の修行も兼ねてやってきたようだった。「なんだか面白そうだしね」と不敵な笑みを浮かべているのが気になるが……。

 そこへドタドタと大きな足音と共にやって来たのが……

「あ、ナオ兄ぃ! それから環奈さんも! それから……えっと」

 制服のままの美久が食堂へ入ってきた。学校行事があって遅い帰宅となったみたいだ。

「よう、美久。えっと……花宮は夏に一回会ってるよな?」

「え? う、うん。綺麗な人だったから覚えてるよ。こんばんは」

「こんばんは、美久ちゃん」

 花宮は美久と挨拶を交わす。美久が興味津々の様子で花宮のことを見つめている。

 ちなみに俺が花宮と付き合っていることは、まだ家族には誰にも話していない。特に美久には、しばらく様子をみてから話そうと思っている。

 オヤジも兄貴も揃ったので、全員で夕食の時間となった。

「えー? それって霊能力があるっていうことですよね? もう……環奈ちゃんといい花宮さんといい、美人で霊能力まであるなんて羨ましいです」

 花宮がここへ来た理由を説明すると、美久は羨ましそうに声を上げる。

「そうかな? 私はその……霊とか見えないほうがいいと思うんだけど……」
「そうそう。私だって突然見えた時は、本当に怖かったんだから。でもその時にね、マサくんが助けてくれたんだよ~」

 不思議なもので、兄貴も美久も霊能力を持っている俺のことを昔から羨ましがっていた。俺としては兄貴がその役目を引き受けてくれるのであれば、今すぐにでもこの能力を引き渡したいところなのだが。
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