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前編
同棲中の彼女かよ……
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「では、いただきます!」『アタシも、いただきます!』
最初のひと口をスプーンですくって口に入れようとすると、『だから熱いって!』と言われてりんの猫舌を思い出した。フーフーと冷ましてから口へ運ぶと、風味豊かな味わいが口いっぱいに広がった。
『うん、旨いぞ!』
『よかった。美味しいよね』
りんも納得のハヤシライスは、見事な完成度だった。市販のルーで作るような味ではなく、洋食屋の深い味わいだ。
『これ明日になったらさ、もっとコクがでて味わい深くなるよ』
『そうか。じゃあ花宮と雄介も喜ぶよな』
『うん。琴ちゃん絶対にびっくりすると思う』
俺は腹が減っていたので急いで食べたかったが、いちいちフーフーと冷まさないといけない。それでも皿の上のハヤシライスは、あっという間になくなった。おかわりをしようとしたが『明日の分がなくなっちゃうよ』とりんに注意され、泣く泣く断念した。
付け合せに用意した千切りキャベツのサラダも食べ終えて、水を飲んでしばしくつろぐ。
『ごちそうさま。美味かったよ』
『お粗末様でした……っていっても、作ったのはナオなんだけどね。なんか変な感じ』そう言ってりんはふふっと笑う。
『俺は肉体を貸しただけだぞ。それにしても……料理って案外大変だな』
『そうかな? 慣れだと思うけど……でも確かに苦労して作ったって、食べるのは一瞬だもんね』
本当にその通りだ。明日は3人で食べるわけだから、それこそハヤシライスはあっという間になくなってしまうだろう。
なんだか疲れてしまった俺は、そのままゴロンと横になった。
『あー、このまま寝ちまいたいよ』
『もー、行儀わるいなぁ』
俺は天井を見ながら、食器を洗うの面倒くさいなぁ、とか考えていると……
『ナオの中ってさ、あったかいよね』
『そうか?』
『うん。いっつもナオに憑依した時に思うんだけど……なんだかポカポカして気持ちがいいんだ』
『俺は暖房器具じゃねえぞ』
『ははっ、でも……なんだかさ……男の人に抱きしめられたら、こんな感じなのかなって』
『えっ?』
『もちろん経験なんてないんだけどさ。ナオの温もりが伝わってくる感じがして……すっごく暖かいんだよ』
『そうか。俺も経験ないから分かんねーな』
『もうこれだから童貞は』
『お前そのフレーズ、やめてくんない?』
俺たちはそんな念話を交わしていたが……疲れて横になっていた俺に、案の定睡魔が襲ってきた。『もう起きなよ。風邪引くよ!』というりんの注意喚起を子守唄に、俺は霊壁を張ることも忘れ、りんが憑依したまま意識を手放してしまった。だから……その後りんが口にした言葉を、俺が聞くことはなかった。
『ナオ、ありがとう。アタシ……ナオのこと好きになって、本当によかった……』
◆◆◆
そして翌日。俺は目を覚ますと、俺の正面にりんの顔があった。
「……あれ? りん?」
『おはよう、ナオ。よく寝てたね』
俺はベッドの上で寝ていた。昨夜の記憶をたどる。
「……俺はハヤシライスを食べた後、そのまま横になって……」
『そうだよ、そのまま寝ちゃったんだよ。もう何度起こしても起きないからさ、仕方ないからアタシが体を動かして食器を洗って歯を磨いて顔を洗って……なんとかベッドまで移動したんだよ』
俺は眠ってしまって防御レベルがほぼゼロになってしまっていたようだ。いつもは寝る前に霊壁を張るのだが……りんが憑依したまま俺は寝てしまった。やっちまった……霊能者として失格だぞ。
『さすがに着替えはしなかったよ。本当は頭を壁にでもぶつけて起こそうかと思ったんだけど、あまりにも気持ちよさそうに寝てたからさ』
よく見ると俺は着替えもせず、そのまま寝ていた。
「そうか……すまん、世話をかけたな」
『アタシは別に。それにナオの寝顔、可愛かったよ』
「趣味悪いな」
俺はベッドから起きてシャワーを浴び、遅めの朝食をとった。午後には雄介と花宮が来る。俺は部屋とトイレ周りを掃除した。りんに言われて買ってきた消臭スプレーも散布した。
「やっぱりこの部屋、臭ったか?」
『うーん、アタシは気にならなかったかな。ていうかナオの匂いがするから、アタシは好きかも』
「……お前、言ってて恥ずかしくない?」
『……ゴメン、今のナシで』
りんは下を向いてモジモジしていて、こっちまで恥ずかしくなってきた。同棲中の彼女かよ……。
そうこうしているうちに、玄関のチャイムが鳴った。
「邪魔するよ」「お邪魔します」『いらっしゃーい!』
雄介と花宮がやって来て、俺はリビングの座卓へ案内する。雄介がコンビニの袋を俺に手渡した。
「ほいこれ。アイスな」
「ありがと。悪いな」
「イチゴは私のね。あとマンゴーとチョコがあるから」
『やった! ナオはマンゴーを選んでよ』
座布団に座った二人に麦茶を出すと、雄介が早速動き出す。
「へー、案外綺麗にしてるな。よし琴葉、ガサ入れするぞ」
「雄介、ダメだって」
『多分何も出ないと思うよ。アタシも散々ガサ入れしたけど』
止めようとする花宮を振り切り、雄介は勝手にルームツアーを始める。最初に洗面所と食器棚を点検し「ふむ、女の気配はないな」と呟いている。俺は見られてヤバイものは特にないので、そのまま雄介を放置しておく。しかし……りん、勝手に人の部屋をガサ入れするんじゃねぇ。
「ちゃんと一人暮らししてるんだね。それに調味料がたくさんある」
花宮はキッチンを見ながらそう言った。
「一応料理はやるようにしてる。夕食も用意したから、あとで食べようぜ」
「うん、楽しみー」
『琴ちゃん、絶対びっくりすると思うよ!』
「何もないな。つまんねー」と帰ってきた雄介が座ったところで、俺たちは勉強会を始める。いつものようにわからないことがあると、雄介先生に質問するという形式だ。
最初のひと口をスプーンですくって口に入れようとすると、『だから熱いって!』と言われてりんの猫舌を思い出した。フーフーと冷ましてから口へ運ぶと、風味豊かな味わいが口いっぱいに広がった。
『うん、旨いぞ!』
『よかった。美味しいよね』
りんも納得のハヤシライスは、見事な完成度だった。市販のルーで作るような味ではなく、洋食屋の深い味わいだ。
『これ明日になったらさ、もっとコクがでて味わい深くなるよ』
『そうか。じゃあ花宮と雄介も喜ぶよな』
『うん。琴ちゃん絶対にびっくりすると思う』
俺は腹が減っていたので急いで食べたかったが、いちいちフーフーと冷まさないといけない。それでも皿の上のハヤシライスは、あっという間になくなった。おかわりをしようとしたが『明日の分がなくなっちゃうよ』とりんに注意され、泣く泣く断念した。
付け合せに用意した千切りキャベツのサラダも食べ終えて、水を飲んでしばしくつろぐ。
『ごちそうさま。美味かったよ』
『お粗末様でした……っていっても、作ったのはナオなんだけどね。なんか変な感じ』そう言ってりんはふふっと笑う。
『俺は肉体を貸しただけだぞ。それにしても……料理って案外大変だな』
『そうかな? 慣れだと思うけど……でも確かに苦労して作ったって、食べるのは一瞬だもんね』
本当にその通りだ。明日は3人で食べるわけだから、それこそハヤシライスはあっという間になくなってしまうだろう。
なんだか疲れてしまった俺は、そのままゴロンと横になった。
『あー、このまま寝ちまいたいよ』
『もー、行儀わるいなぁ』
俺は天井を見ながら、食器を洗うの面倒くさいなぁ、とか考えていると……
『ナオの中ってさ、あったかいよね』
『そうか?』
『うん。いっつもナオに憑依した時に思うんだけど……なんだかポカポカして気持ちがいいんだ』
『俺は暖房器具じゃねえぞ』
『ははっ、でも……なんだかさ……男の人に抱きしめられたら、こんな感じなのかなって』
『えっ?』
『もちろん経験なんてないんだけどさ。ナオの温もりが伝わってくる感じがして……すっごく暖かいんだよ』
『そうか。俺も経験ないから分かんねーな』
『もうこれだから童貞は』
『お前そのフレーズ、やめてくんない?』
俺たちはそんな念話を交わしていたが……疲れて横になっていた俺に、案の定睡魔が襲ってきた。『もう起きなよ。風邪引くよ!』というりんの注意喚起を子守唄に、俺は霊壁を張ることも忘れ、りんが憑依したまま意識を手放してしまった。だから……その後りんが口にした言葉を、俺が聞くことはなかった。
『ナオ、ありがとう。アタシ……ナオのこと好きになって、本当によかった……』
◆◆◆
そして翌日。俺は目を覚ますと、俺の正面にりんの顔があった。
「……あれ? りん?」
『おはよう、ナオ。よく寝てたね』
俺はベッドの上で寝ていた。昨夜の記憶をたどる。
「……俺はハヤシライスを食べた後、そのまま横になって……」
『そうだよ、そのまま寝ちゃったんだよ。もう何度起こしても起きないからさ、仕方ないからアタシが体を動かして食器を洗って歯を磨いて顔を洗って……なんとかベッドまで移動したんだよ』
俺は眠ってしまって防御レベルがほぼゼロになってしまっていたようだ。いつもは寝る前に霊壁を張るのだが……りんが憑依したまま俺は寝てしまった。やっちまった……霊能者として失格だぞ。
『さすがに着替えはしなかったよ。本当は頭を壁にでもぶつけて起こそうかと思ったんだけど、あまりにも気持ちよさそうに寝てたからさ』
よく見ると俺は着替えもせず、そのまま寝ていた。
「そうか……すまん、世話をかけたな」
『アタシは別に。それにナオの寝顔、可愛かったよ』
「趣味悪いな」
俺はベッドから起きてシャワーを浴び、遅めの朝食をとった。午後には雄介と花宮が来る。俺は部屋とトイレ周りを掃除した。りんに言われて買ってきた消臭スプレーも散布した。
「やっぱりこの部屋、臭ったか?」
『うーん、アタシは気にならなかったかな。ていうかナオの匂いがするから、アタシは好きかも』
「……お前、言ってて恥ずかしくない?」
『……ゴメン、今のナシで』
りんは下を向いてモジモジしていて、こっちまで恥ずかしくなってきた。同棲中の彼女かよ……。
そうこうしているうちに、玄関のチャイムが鳴った。
「邪魔するよ」「お邪魔します」『いらっしゃーい!』
雄介と花宮がやって来て、俺はリビングの座卓へ案内する。雄介がコンビニの袋を俺に手渡した。
「ほいこれ。アイスな」
「ありがと。悪いな」
「イチゴは私のね。あとマンゴーとチョコがあるから」
『やった! ナオはマンゴーを選んでよ』
座布団に座った二人に麦茶を出すと、雄介が早速動き出す。
「へー、案外綺麗にしてるな。よし琴葉、ガサ入れするぞ」
「雄介、ダメだって」
『多分何も出ないと思うよ。アタシも散々ガサ入れしたけど』
止めようとする花宮を振り切り、雄介は勝手にルームツアーを始める。最初に洗面所と食器棚を点検し「ふむ、女の気配はないな」と呟いている。俺は見られてヤバイものは特にないので、そのまま雄介を放置しておく。しかし……りん、勝手に人の部屋をガサ入れするんじゃねぇ。
「ちゃんと一人暮らししてるんだね。それに調味料がたくさんある」
花宮はキッチンを見ながらそう言った。
「一応料理はやるようにしてる。夕食も用意したから、あとで食べようぜ」
「うん、楽しみー」
『琴ちゃん、絶対びっくりすると思うよ!』
「何もないな。つまんねー」と帰ってきた雄介が座ったところで、俺たちは勉強会を始める。いつものようにわからないことがあると、雄介先生に質問するという形式だ。
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