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No.29:花火大会当日

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「どっからこんなに人が湧き出てくるんだ?」

 花火大会当日。
 俺たちは大会会場の最寄り駅で待ち合わせすることになった。
 とにかく人の波に流されそうで、売店の横に体を寄せて立っているのが精一杯だ。

 雪奈は竜泉寺の家に行って、一緒に浴衣に着替えてから来るらしい。
 竜泉寺のおばあちゃんに、着るのを手伝ってもらうとのことだ。
 途中から慎吾が合流して、3人でこっちへ向かっているとLimeがあった。

 俺は慎吾と示し合わせて、浴衣は着ないことにした。
 竜泉寺と雪奈にも、それは伝えてある。
 俺はブルーのカジュアルシャツにチノパンという、何の工夫もない格好だ。

 こんなに大勢人がいたら、なかなか見つけられないんじゃないかな……。
 そう思っていたが、全くの杞憂だった。

 やってきた3人組はすぐにわかった。
 異様なオーラを放っていたからだ。

 竜泉寺は紺色に淡いピンクの花柄をあしらった浴衣だ。
 落ち着いたオレンジ色の帯を合わせている。
 髪もアップにして、赤いかんざし。
 落ち着いた雰囲気の竜泉寺に、よく似合っている。
 大人の雰囲気だ。

 一方の雪奈は、白地に薄いブルーと濃紺の花火がデザインされている浴衣。
 淡いピンク色の帯は、清楚な雰囲気の雪奈にぴったりだ。
 アップした髪に紺色の髪留め、横に少し流している後れ毛……。

 なんというか……直視できない。

「ごめん浩介。待たせちゃったねー」
 イケメンは片手を上げてくる。

「ああ、大丈夫だ」

「どうよどうよ、この2人。キレイだよねー」

 イケメンが煽ってくる。
 鬱陶しいことこの上ない。
 しかしこの2人の浴衣姿の前には、どんな美辞麗句もかすんでしまうだろう。

「思ったより時間がかかってしもうたわ」
「私も葵のおばあちゃんに手伝ってもらって助かったよ。浩介君、ど、どうかな?」

「ああ、二人とも本当に似合ってる。浴衣のモデルさんが来たかと思ったぞ」

「ほんまに?」「あ、ありがと……」
 二人とも、照れくさそうに笑った。

 事実、俺たちの横を通り過ぎていく人達から、
「きれー」
「二人とも美人だよな」
「撮影会か何か?」
 男女問わず口にしているのが聞こえる。
 他にもたくさん浴衣姿の女性がいるのに、この二人の目立ち具合は別格だった。

 俺たちは4人、花火の会場に向かって歩き出した。
 俺と慎吾が前、浴衣の2人が後ろからついてくる。
 とにかくものすごい人の数なので、流れに沿って歩いていくしかない。

 しばらくすると、「雪奈~」と呼ぶ竜泉寺の声がする。
 雪奈が人混みに押されて、前に来れなくなっているらしい。
 背の高い慎吾が「こっちこっちー」と手を振る。
 程なくして、雪奈は合流できた。

「これだけ人が多いとはぐれちゃうよねー。じゃあ僕は葵ちゃんと一緒に行くから、浩介は桜庭さんをエスコートしてあげなよー」

 エスコートって……でもそれが、現実的かもしれない。

「わかった。そうしよう。雪奈、行こうか」

「ふぇ? う、うん……」
 雪奈は恥ずかしそうに下を向いた。

 慎吾と竜泉寺は、2人で前を歩いている。
 美男美女カップルで、とてもお似合いだ。

 俺は人の多い通路の内側に立ち、雪奈を外側に回らせる。
 これだけの美少女だ。痴漢に遭う可能性だってある。

「浩介君」

「どうした?」

「えっと、またはぐれるといけないから……浩介君のシャツ、掴んでもいいかな?」

「いいぞ」

 そう言うと、雪奈が遠慮がちに俺のシャツの袖の部分を掴んできた。

「はぐれるなよ」

「うん、こうしてつかまっていれば大丈夫」

「痴漢にあったら言ってくれ」

「その時は、また一緒に交番に連れてって」

「勘弁してくれ……」

 ふふっ、と雪奈はいたずらっぽく笑う。
 なんだか嬉しそうだ。
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