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No.04:彼女作んないの?
しおりを挟む「あっぢぃ……」
新学期が始まって10日が経った。
俺は今、電車を降りて学校へ向かっている途中だ。
9月とはいえまだまだ残暑は厳しい。
朝っぱらからこの暑さって、一体地球どうなってる?
学校の売店でかき氷でも出してくれないかな……そんなことを考えていると
「よっ、浩介」
後ろから声がかかる。
俺に声をかけてくる人間なんていうのは、一人しかいない。
「慎吾、おはよ」
牧瀬慎吾は、中学からの腐れ縁で今でも同じクラスだ。
基本的に俺は友達がいないし、欲しいとも思わない。
でも慎吾だけは、そんな俺にしつこくつきまとう奇特な存在だ。
俺の身長が175センチ。
その俺よりも少し身長が高く、スラっとした茶髪のイケメンだ。
社交的で、学校内に友達100人、本当にいるんじゃないか?
またその人脈を生かした情報網はCIA顔負けだ。
生徒間のゴシップやら恋愛話から、売店のおばちゃんの孫の名前まで。
とにかく守備範囲がとんでもなく広い。
その上空気が読めて、女の子への気遣いもできる。
当然のことながら、彼はモテる。
モテる要素しか見当たらない。
「ねえねえ浩介。浩介は彼女作んないの?」
「またその話かよ」
そうなのだ。
新学期が始まってからというもの、慎吾はことあるたびにこの話題を振ってくる。
というのも、夏休み中に慎吾は彼女ができたらしい。
スラッとしたイケメンで彼女持ち。
それだけでスクールカーストの最上位だ。
「彼女はいいぞー。可愛いし、ふわふわだし、柔らかいし」
「綿菓子か?」
「もう手なんか握ったらさ、ちっちゃくて柔らかくってさ、彼女の鼓動が聞こえそうなくらいなんだよー」
「手を握ったらって……」
その時、俺の頭の中に突然この間の光景が流れ込む。
手を強引に掴んで走り出した。
交番の中でまだ息が上がっている。
彼女のおさまらない鼓動。
小さくて柔らかい手の感触。
潤んだ鳶色の瞳。
それから……
「浩介?」
「え?」
慎吾の声で我に返る。
「どうした? ぼっーとして」
「いや、ちょっと考え事だ」
「そっか。でもわが聖クラーク高校の「美少女3トップ」って全員2年生なんだよ。まあ岡崎先輩も含めて「美少女四天王」っていう評価もあるけどね」
「慎吾の情報網は、無駄にすごいな」
「照れるなぁ」
「褒めてねー」
そんなどうでもいい話をしながら、俺たちは歩いていく。
「でも『美少女3トップ』のことをを知らないなんて、浩介ぐらいだよ」
「そうか。別に興味ねーし」
「そんなこと言ってー。3トップが全員2年生ということは、うちの学年の女子はレベルが高いということだよ。浩介だって可愛い女の子を彼女にして、青春したいだろ?」
「興味ないっつーの。慎吾だって俺が興味ない事、知ってるだろ?」
「まあそうなんだけどさー」
とはいっても、慎吾が何でここまで言ってくるのか俺は分かっている。
それは慎吾が、俺の過去を知っているからだ。
ありがたいとは思うが、しつこくなると甚だ迷惑だ。
「まあ気が向いたらいつでも言ってよ。ウチの学校の女子に関する情報はだったら、だいたい提供できるからさ」
「お前マジすげーな。まあそんな日はやってこないけど」
こんなヤツの彼女やるのも大変だぞ……。
そんなことを考えながら、俺たちは校門をくぐった。
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