上 下
31 / 65

No.31:花火大会

しおりを挟む

「ところで来月、花火大会があるだろ?」

 気を使ってくれたのか、話題を変えてくれた。

「うん……もうそんな時期かぁ」
 
 この街のはずれの海岸沿いで、毎年7月花火大会がある。
 結構大きな花火大会で、毎年すごい賑わいになる。

「最近見に行ったか?」

「ううん、ここ2年くらい見に行ってないや」

「そうか」

 そう言って宝生君はピザを口に入れた。
 宝生君と私のドリンクが両方ともなくなったので、彼が取りに行ってくれた。
 
「宝生君、ウーロン茶なんだね」

「ああ。ジュース飲むと、料理の味がわからなくならないか?」

「うーん、考えたことないや」

 やっぱり他のお店の料理の味とかも、チェックしてるのかな。
 なんか大人だなと思った。

 それよりも……ちょっと気になったので、話を戻す。

「宝生君、花火大会は毎年行ってるの?」

「行ってるというより……見てるな」

「見てるって?」

「……花火大会の会場前の大通りがあるだろ?」

「うん、あるね」

「あそこに、うちのグループの関連会社のビルがあるんだよ」

「そうなの?」

「そう。それで屋上は毎年貸し切りにして、花火を見てる。真正面で見られる特等席だ」

「えっ、それ凄いじゃない」

「たしかに花火はよく見えるぞ。本当は夜店とか回りながら見るのもいいのかもしれないが、まあセキュリティーの問題もあったりしてな」

「あーそうか。それも大変だね。でもその特等席で、一人で見てるわけじゃないでしょ?」

「だいたい吉岡と西山の3人だな」

「マジで? それ、寂しくない?」

「いや、特に寂しくないが……月島、よかったら今年来るか?」

「えっ?」

 今……宝生君、私を花火大会に誘ってくれたんだよね?
 私は逡巡する。
 
 確かに彼と一緒に、花火を見たいと思った。
 でもそれ以上に……。
 彼が同じ年頃の友達が周りにいなくて一人で花火を見ている姿を想像すると、私は胸がすごく痛んだ。
 家の人たちと一緒に見るのもいい。
 でも学校の友だちとかが一緒にいたほうが、絶対に楽しいはずだ。
 少なくとも、私ならそう思う。
 
 宝生君はそんなことを思っていないかもしれない。 
 私の勝手な思い込み、偽善なのかもしれない。
 それでも……。

「お邪魔していいの?」
 私はそう聞いていた。

「もちろんだ。じゃあ詳細はまた後日だな。それと……浴衣は着て来なくていいからな」

「……それ、着て来いっていうフリ?」

「フリじゃねえ! マジで言ってんだ。暑いし着るのだって準備大変だし、帯とかきつくて苦しいだろ?」

「そっか。ありがと」

 ちゃんと考えてくれてるんだな。
 そこは、お言葉に甘えることにしよう。

「なにか持っていくもの、ある?」

「いや、手ぶらで来てもらっていい。それと帰りは遅いから、車で送るけどいいよな?」

「えっ?」
 それは……ちょっと抵抗がある。

「だめか? 俺はストーカーとかにはならんぞ」

「ち、ちがうの。その……うちのアパート、ボロ屋だから恥ずかしくて」

「……俺はそんなことで人を判断しないつもりだが……気になるのか?」

「……そっか。そうだよね」

 考えてみれば彼の家と比較したら、きっと大概の家はボロ屋の範疇に入るだろう。

「じゃあ、帰りは送ってもらってもいい?」

「ああ、その方が助かる。俺が心配しなくて済むからな」

 彼はそう言って、ふわりと笑った。
 そのイケメンのキラースマイルに、私の心臓がまた揺さぶられる。
 変な期待をしちゃだめだ。
 住む世界が違うんだよ。
 私はそんな自分に言い聞かせた。
 サンゼの会計は、ワリカンにしてもらった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!

いーじーしっくす
青春
 赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。  しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。  その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。  証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。  そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。 深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。  拓真の想いは届くのか? それとも……。 「ねぇ、拓真。好きって言って?」 「嫌だよ」 「お墓っていくらかしら?」 「なんで!?」  純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...