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No.31:花火大会
しおりを挟む「ところで来月、花火大会があるだろ?」
気を使ってくれたのか、話題を変えてくれた。
「うん……もうそんな時期かぁ」
この街のはずれの海岸沿いで、毎年7月花火大会がある。
結構大きな花火大会で、毎年すごい賑わいになる。
「最近見に行ったか?」
「ううん、ここ2年くらい見に行ってないや」
「そうか」
そう言って宝生君はピザを口に入れた。
宝生君と私のドリンクが両方ともなくなったので、彼が取りに行ってくれた。
「宝生君、ウーロン茶なんだね」
「ああ。ジュース飲むと、料理の味がわからなくならないか?」
「うーん、考えたことないや」
やっぱり他のお店の料理の味とかも、チェックしてるのかな。
なんか大人だなと思った。
それよりも……ちょっと気になったので、話を戻す。
「宝生君、花火大会は毎年行ってるの?」
「行ってるというより……見てるな」
「見てるって?」
「……花火大会の会場前の大通りがあるだろ?」
「うん、あるね」
「あそこに、うちのグループの関連会社のビルがあるんだよ」
「そうなの?」
「そう。それで屋上は毎年貸し切りにして、花火を見てる。真正面で見られる特等席だ」
「えっ、それ凄いじゃない」
「たしかに花火はよく見えるぞ。本当は夜店とか回りながら見るのもいいのかもしれないが、まあセキュリティーの問題もあったりしてな」
「あーそうか。それも大変だね。でもその特等席で、一人で見てるわけじゃないでしょ?」
「だいたい吉岡と西山の3人だな」
「マジで? それ、寂しくない?」
「いや、特に寂しくないが……月島、よかったら今年来るか?」
「えっ?」
今……宝生君、私を花火大会に誘ってくれたんだよね?
私は逡巡する。
確かに彼と一緒に、花火を見たいと思った。
でもそれ以上に……。
彼が同じ年頃の友達が周りにいなくて一人で花火を見ている姿を想像すると、私は胸がすごく痛んだ。
家の人たちと一緒に見るのもいい。
でも学校の友だちとかが一緒にいたほうが、絶対に楽しいはずだ。
少なくとも、私ならそう思う。
宝生君はそんなことを思っていないかもしれない。
私の勝手な思い込み、偽善なのかもしれない。
それでも……。
「お邪魔していいの?」
私はそう聞いていた。
「もちろんだ。じゃあ詳細はまた後日だな。それと……浴衣は着て来なくていいからな」
「……それ、着て来いっていうフリ?」
「フリじゃねえ! マジで言ってんだ。暑いし着るのだって準備大変だし、帯とかきつくて苦しいだろ?」
「そっか。ありがと」
ちゃんと考えてくれてるんだな。
そこは、お言葉に甘えることにしよう。
「なにか持っていくもの、ある?」
「いや、手ぶらで来てもらっていい。それと帰りは遅いから、車で送るけどいいよな?」
「えっ?」
それは……ちょっと抵抗がある。
「だめか? 俺はストーカーとかにはならんぞ」
「ち、ちがうの。その……うちのアパート、ボロ屋だから恥ずかしくて」
「……俺はそんなことで人を判断しないつもりだが……気になるのか?」
「……そっか。そうだよね」
考えてみれば彼の家と比較したら、きっと大概の家はボロ屋の範疇に入るだろう。
「じゃあ、帰りは送ってもらってもいい?」
「ああ、その方が助かる。俺が心配しなくて済むからな」
彼はそう言って、ふわりと笑った。
そのイケメンのキラースマイルに、私の心臓がまた揺さぶられる。
変な期待をしちゃだめだ。
住む世界が違うんだよ。
私はそんな自分に言い聞かせた。
サンゼの会計は、ワリカンにしてもらった。
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