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夏至祭・浄逸の儀2※

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 ユノンも不安を煽られてこれから何が起こるのかと訊ねたいが、並んで腰掛ける自分以外の三人は静粛に舞台に視線を注いでいる。
 ここで騒いでも儀式の妨げになるかもしれないと、ユノンも口を閉ざして舞台を見つめるしかなかった。
 少年たちは手に持つ杯の中身を一息に飲み干し、それぞれ空になった杯を足元の泉に落とした。それを見届け、両隣のタリアスとライル、そしてベルネラも杯を空ける。

 ユノンもおっかなびっくりそれを真似る。神酒はたまに飲む葡萄酒よりもアルコールが強く、嚥下すると喉の奥や食道の方までも焼けそうにかっと熱を持ったが、飲み干してしまえばすぐに心地良くなった。
 杯を足元に置き、舞台に視線を戻した時には次に何が始まるのかと心待ちにする自分に気づいた。
 神酒により頬をほんのり赤く染めた少年たちは、白い衣を脱いでいく。そうするとしなやかな発展途上の裸が露わになった。
 そして静々と橋を渡り登壇したユーティスが、一人一人に白い布で目隠しをしていく。

 どんどん、どどん――。

 太鼓はますますリズミカルに響く。
 地の底から響くようなその音は、まるで何かを呼び寄せているようだ。人の心の奥深くに潜む魔物か、それとも湖の底にさまよう魂たちか。
 ユノンの心は高揚していく。これから、何かが始まる。
 少年たちはじっとそこに立ち、自分の身に待ち受ける運命を認めている。
 舞台上に男たちが登壇し始めた。舞台に近い客席に控えていたのかもしれない。
 十人ほどいる彼らは皆頭の上から鼻までを覆う黒いベールを垂らし、腰布一枚の姿だ。少年のような細い身体も、大男と言ってもいいような逞しい隆々とした体躯の者もいる。
 彼らは少年たちの後ろに一列に並んだ。等間隔に間を開け、少年たちの真後ろに一人ずつ、誰かがつくような形になる。
 そこで太鼓が止んだ。

 再びユーティスともう二人、おそらく皆同じくらいの高位の神官が登壇し、少年たちの頭に小さな白い花輪を乗せていった。
 少年たちがかわいそうなほどに肩を震わせている。ユノンはこれは夢だとわかりながらも夢を見つめているような気分で、彼らを眺めていた。
 神官たちが降壇すると再び太鼓の演奏が始まる。今度はより激しく、大きく、官能的なリズムを刻む。
 ごくり、と無意識にユノンは喉を鳴らした。
 男たちは腰布を勢いよく外し、舞台に放る。それぞれの股に猛った赤黒いものが姿を現した。そして、獣のように近くにいる少年たちに襲い掛かる。
 あまりの勢いに暴力的な行為がなされるのかとユノンは一瞬目を覆ったが、どうやらそうではない。

 黒い男たちは、少年たちの身体を貪ろうとして ある者は後ろから少年の胸を揉みしだき、ある者は小さな尻にむしゃぶりつき、ある者は性器を口に含んでいる。
 いつの間にか壇上には透明な瓶が備えられ、それを少年の身体に振りかける者もいる。おそらく香油だろうとすぐに察しがついた。
 三人それぞれ仰向け、うつ伏せ、立ったままの姿勢で後ろについた男たちに尻の間を開かれている。
 香油を垂らされ、太い指が代わる代わる彼らの中を蹂躙する。それと同時に身体中を舌が這い回り、耳や乳首など性感帯は漏れなく刺激されているように見えた。

「あ……すごい……」

 ユノンは思わず小さく声を上げた。
 神酒のせいかもしれない。普段だったらこんな野蛮な行為には怒りを覚え、これはなんだとタリアスに詰め寄るところだろうが、今のユノンはとても高揚している。
 恥辱に耐える少年たちの顔が、とてつもなく官能的で心を揺さぶった。目隠しのせいで目元こそ見えないが、皆口を引き結び今のところ声も上げずに耐えている。
 もちろん彼らは自分たちが何をされているのか知っているだろう。けれど、その苦難を受け止め乗り越えようとしているのだ。
 彼らから漂う妖しい色香は、王族席からでも鮮明に感じられた。

「私がお前にこの内容を秘密にしていた理由がわかっただろう?」

 タリアスがユノンの耳元に唇を寄せ囁いた。吐息が耳朶を掠め、ユノンはぶるりと背筋を震わせた。

「普段のお前なら、絶対にこんなものは見ようとしないはずだ。だが今この空気に当てられたお前ならば、ここに染まることさえできる……」

 手を取られて股間に持って行かれた。タリアスの衣の下に、すでに固く隆起するたぎったものがある。

「タリアス様……」

 ユノンはタリアスの顔を見上げた。暗いなかでもぎらつく獣の瞳がユノンを捉えている。獲物を欲する瞳だ。

「……うっ、……あ、ああっ、ひあ……っ!」

 男たちの低い呻きに混じり、一際高い声が鳴いた。
 ぴちゃ、と泉に白いしぶきが飛んで沈んだ。
 そうすると太鼓がぴたりと止み、静かな空間に少年と男たちのはあはあと荒く息をつく音だけが響く。
 左端の立ったま大男に挿入されていた少年がその場にくずおれた。

「彼が、一度達したようだ」

 もう一度耳元で囁かれ、軽く耳朶を噛まれた。ユノンはたまらず目をつぶり「あん……」と小さく息を漏らす。

「犯され、先に五度達した少年を神官候補生と認める。五度達する前に皆気を失えばその年の候補生はなし。同時に達すれば、何人でも候補生と認められる」
「なっ、五度? そんなのありえな……んっ……!」

 タリアスの唇がユノンのものに重ねられた。
 くちゅくちゅと舌を弄ばれながら、ユノンは横目で舞台を眺める。三つの班に分かれていた男たちが、集団ごとに別の少年の元へ入れ替わる。そして神官が一人登壇し、少年の片腕に花の腕輪をつけた。
 その後再び太鼓が鳴り響くと、淫らな行為が再開される。

「少年が達するごとに、目印に腕と足に一つずつ花輪をつけていく。そして最初に五度達した者が出たら、その時がこの儀式の終了だ」
「あっ、……んふ……」

 深い口づけの合間にタリアスが教えてくれる。ユノンは息継ぎをしながらぼうっとする頭で、それを必死に理解する。

(人前で犯され、立て続けに五度も射精させられるなんて、拷問じゃないか……)

 改めてこの儀式について考え、ぞっとした。
 ユノンは毎夜夫たちに抱かれているけれど、正直自分の射精できちんと意識を保っていられるのはせいぜい三度目くらいまでだ。
 それ以上は失神してしまったり、疲れ果てて意識を手放してしまったりといったことが多い。ミロが参入してくる前までは、主にライルの褥で寝落ちてしまっていた。
 けれど自分があの少年たちの仲間に入るわけでもなし、今のユノンには彼らの苦しみなどどうでもよかった。

「ふう、……ん、くう……」

 口づけを受けながらよそ行きの上等な衣の前をはだけられ、胸の先端を転がされる。
 漏れる甘い声は抑えがきかない。
 ベルネラがタリアスにこそりと何事か囁き、静かに扉を開けて王族席の外に出て行った。

「俺も出ますよ」

 ライルも平坦な調子の声で言い、立ち上がった。

「や……!」

 タリアスに胸を吸われながら、ユノンはライルの腕を掴んだ。ライルはぎょっとしてユノンを見下ろす。
 この行動はほぼ無意識といってよかった。せっかくやっと会えたのに、簡単に離れて行かないでほしい。

「あ……ん、ライル様……。行かないで。ここにいて、ください……」

 本当はこんなところ見られたくない。今すぐ抱かれたいのはライルだ。けれどこの場の空気が、おそらくは神酒に含まれていた何かがどうしようもなく内をたぎらせる。
 タリアスによがらされているこんなみっともない状態を見られていても、ユノンはたまらなく興奮していた。蠕動する腹の中を感じ、もじもじと尻を動かす。
 どんどんと響く太鼓の音が、心なしか遠くに聞こえた。

「落ち着け。……といっても無駄か。神酒の原料には興奮作用がある。神経を高ぶらせるんだ。だからあんたは一時熱くなっているだけだ」
「いやです! タリアス様、ライル様も……」

 薄い胸を顔に押し付けるようにしてタリアスを見下ろせば、彼の瞳もまた蕩けている。

「我々の妻がそう望んでいる。ライル」
「本気ですか?」

 タリアスの鶴の一声にはさすがのライルも真っ向からは逆らえないようだ。険しい顔でタリアスを睨んでいる。
 ユノンは手を伸ばし、ライルの股間を掴んだ。ぎちぎちに硬化し、収まる場所を探す凶悪な生物がそこにはいた。

「やめろ、離せ」
「あ……ライル様、こんなに……。こんな状態で出て行かれるのですか?」

 咄嗟に身体を離したライルに、ユノンは首を傾けた。
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