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誘淫の戒め5※

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「やっ……ああんっ……ライル様っ、あっ、あ、動かない、で」

 無意識に力が入っていた腿がピクピク震える。
 ユノンは自分が達してしまったことを理解した。

「……わかってる。あんたの中、痙攣してる」

 ライルの表情もいつになく余裕がなさそうだ。何かに耐えるように歯を食いしばっている。

「あ、ああ、僕、出せました……」

 挿入され、接吻の助けも借りたが、ひとまず極めることはできた。ライルの命令は守ることができた。
 ビクビク蠢き続ける腹の中でライルがいまだ大きいことを実感し、この性行為がまだしばらく続くことを知った。
 良過ぎて辛い。でも、ライルになら抱き潰された
い。

「いや、達したんだろうが、出せてはいない」
「え……?」

 片手を取られて自らの性器の元へ導かれ、確かに吐精したにしては水気が少ないなと感じた。

「でっ、でも、確かに達したんです」

「わかっている。あんたは女のように内で感じ、精を出さずに高みを極めたんだ。つまり今のあんたは、女と同じなのさ」

「女と同じ……?」

 何を言われているのかわからない。この身体は、たとえ貧相でも造りはライルと同じ。紛うことなき男のもの。
 理解に苦しむユノンが言葉を失うと、ライルが腰を引いて一度打ち付ける。
 ユノンはひくりと息を呑んだ。

「ひっ……あ、あ、だめです、まだ」
「そのまま女のように感じていろ、ユノン。もっとよくしてやる」
「やっ、ああ、あっ……」

 いまだわずかに痙攣の残る腹の中を、凶悪なもので容赦なく抉られる。かき混ぜられた粘液が泡立って尻を伝い、乳首も快楽の連動で痛みを感じるほどに勃ち上がっている。
 膝に手を置かれ、限界まで広げられた股間節が軋む。

「いや、いやあ……っ、ライルさま……」
「嫌なのか?」

 不意に真面目な調子で訊き返され、ぎゅっと閉じていた目を開けた。
 ライルは額に汗を滲ませ、じっとユノンを見下ろしている。伏せられた黒い睫毛、不安げにわずかに翳る瞳の色は、知っている。
 あの美しい、いつか見た蝶の翅。

「……嫌じゃ、ありません……」

 寄り添ってやりたい。ライルが自分にそうしてくれたように。
 不安を、拭ってやりたい。
 激しい律動に揺られる中ユノンはライルに向かって腕を伸ばした。

「もっと、もっと、ください。僕は、あなたを、知りたい――」

 応えてもらえるかわからない。ユノンでさえライルという人間がまだよくわからない。
 けれど、どうしようもなく、ライルが欲しい。知りたい。この泣きたくなるような感情の意味が、もう少しで理解できそうな気がするのだ。
 律動でぽろりと一粒こぼれた涙が、敷布に落ちた。
 腰の動きを緩めないままユノンを見下ろしていたライルは、小さく舌打ちした。そのまま体勢を下げ、ユノンの腕の中に収まる。

「馬鹿。なんであんた、兄上を愛しているくせに」
「あっ、あん、な、なんですか……? もう一度言って……」

 一度抜けそうなまでに腰を離し、そのまま力任せに打たれた。
 ぶちゅん、と音が立ち、中からは飽和状態の淫らな汁が吹き出して敷布にこぼれた。
 肉の環でぷくりと腫れた襞が、摩擦でじんじん鈍痛を放ちながら愉悦に震えている。

「あ、あ……」

 押し出されるようにして、ユノンの性器も子種を吐く。それは子を成すことなく、二人の男の腹の間に擦られ生命をまっとうする。
 とても熱い。抱き締められ重なった濡れた身体も、身体の深部に放たれた男の精液も。
 あまりの熱さに溶けそうになりながら、それでもうねり狂って悦びを訴える内壁に自らの淫の性質を呪う。
 それでも今は、この男に抱かれたことに何の後悔もない。
 ユノンはライルの背を抱く腕に力を込め、一時だけ休みたいと目を閉じた。

 ――刹那の落下感。
 自分はもう眠ってしまうのだろうかと、そこだけ覚醒しきっている意識の中で考えた。恐怖はない。
 足元がしっかりとして目を開けると、辺りは白く霧に包まれている。ここがどこだかわからない。
 しかしよくよく目を凝らすと、少し向こうに見慣れた大きな石造りの建物がある。今いる居城の別棟だ。だが、この角度この距離からの別棟は、初めて見る。自分はどの辺りに立っているのだろう。

(……ここは、もしかして)

 ユノンは足元に目を落とす。
 裸足の足で一歩後ずされば、深く淀んだ色のつるりとした地面にたちまちに波紋が生まれる。

(やっぱり。ここは――)

 心の中で言葉を紡ぐ前に、さっと一瞬にして霧が晴れた。
 青い空の下、揺れる湖面、石造りの城。
 ここは湖上だ。立てるはずもない水面に立ち、ユノンは城の方を望んでいる。
 湖面はさざ波を打ち揺れるのに、ユノンの周りだけはそこだけぴたりと静まっている。半径三歩くらいの広さだろうか。
 不思議に思うのに、とても当たり前の現象のような気がしていた。本能的に、これがとても自然なことに思えていた。
 青い空に、城を成す褐色の石がよく映える。とても眩しくて、懐かしい風景だった。

(今すぐ城に戻りたい。けれどあそこにもう自分の居場所はない)

 ユノンは知っていた。けれどそれがなぜだったか思い出せない。誰か別の人物の思考を、一歩離れたところから覗き込んでいるような気分だ。
 空はとても青いのに、風も凪いで日差しも温かく肌を包むのに。内に漠然と広がる寂寥を、ただ当然のものとしてユノンは受け止めていた。頭の中はとても静かに、冷えていた。
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